第11話

「冥賀どうした」


『今君たちは清水のショッピングセンターにいますね』


「よく知ってんな」


『中央監視室で見ていましたから。細かい話はあとです、階段で2階に移動してください。タイミングは伝えるので、その瞬間一階に飛び降りて鎮圧をお願いします』


「中央監視室で…って不法侵入じゃねぇか」


『仕方がありません。テロリストが入ってきたときに破れかぶれで裏に入ったので。それより早くしないと、君たちの妻がテロリストに触られますよ』


「…仕方がない今は従おう。霊斗、煉河。行くぞ」



夜斗は通話を繋げたまま、裏手の階段から2階に移動した



『テロリストは4人だけです。中央広場にて銃を持っているのが全員。監視カメラで確認済みです』


「了解。装備は?」


『あれはおそらく、アサルトライフルAK74かと。日本では手に入らないものですから、中国系犯罪シンジケートと思われます。精度の悪いコピー品に見えるので、弾丸の回避は狙わないように』


「狙ってできねぇよそんなこと。防具はなんかつけてるか?」


『おそらく胸部防弾チョッキだけです。ヘルメットはなく、下半身の装備も無し。武装についてもアサルトライフル以外は見えません。警察には通報済みなので、特殊部隊が来る手はずです』


「わかった。これより表に出る、会話はできん」


『了解。ご武運を』



ドアの前で深呼吸する三人

そしてドアの向こうを睨んだ



「後悔させてやる」


「死ぬなよ、夜斗。あと緋月」


「おまけか俺は。夜斗、配置は?」


「音の感じからしておそらく中央広場ステージに一人、正面に一人。左右に一人ずつ。テロするには少なすぎる」


「まぁそんなもんだろ。おかげで監視の目をすり抜けてきたわけだし」


「僕の装備は…素手、か。防具もないね」


「仕方がねぇさ、こんなの予想してない。霊斗は出て左、煉河は右。俺は手前から。冥賀の合図で飛び降りる。高さは5mと少しだ」


「「了解」」



この三人、実は高所からの落下に慣れている

バンジージャンプとかそういう話ではなく、稀に山登りに行くためだ

ルートを間違え崖から落下、というのが起きることもある

その際に落下の仕方を学んだということだ



(冥賀からの合図は、声で伝えると言っていた。タイミングはわからんが、おそらく…)



泣く子供に詰め寄るステージ上の男。母親が悲鳴を上げるが銃を連射して黙らせた



『ステージの男は弾切れのはずです。数えた限り、残っていても薬室の一発のみ。警戒すべきは3人に減りました』


(了解。チャンスは一度限り)



天音が縛られた腕をもろともせず立ち上がった

テロリストに詰め寄るのが見える



(あのバカ…!)


「子供にしかイキれないチキンなんか、まだ存在したんだね!気持ち悪い!!」



天音の声が静かな広場にこだまする

男がキレて天音の胸ぐらを掴み、服に手をかけた

弥生が制止するが、それでも止まらない



(まずい、霊斗がキレる…。いや、俺もか)



左手で右腕を掴む

無理矢理にでも心を落ち着かせる。今飛び出したところで、全員同時でなければ鎮圧は難しい

頭ではわかっているが、それでも



(クソが…。幼馴染が、惚れた女が、妹が、後輩が…。あそこで怖い思いをしてるというのに、俺は…)


『落ち着きなさい、冬風夜斗』


「…っ!」


『タイミングは警察車両が来た時。必ず犯人は狼狽します。そのタイミングで飛び出せば意表をつける。だからそれまでは』


(わかってる…わかってんだよ…!けど…!)


『…聞こえてきましたね。カウントダウンファイブ!』



その声を聞いて夜斗は煉河と霊斗に目を向けた

目を合わせ、手でカウントダウンを作る

頷き、ゆっくり立ち上がる3人。テロリストたちは気づいていない



(天音が気を引いてくれて助かった。後でなんか奢ってやる)


『ゼロ!』


「ハリーアップ!!」



夜斗が叫び、霊斗と煉河と共に飛び降りる

前転しながら着地し、呆気にとられるテロリストの首を一人ずつ締め上げた



「相手が悪かったなぁテロリスト共。日本語でわかるか知らねぇが」


な、何だお前ら你们是什么人この銃が見えないのか你看不到这把枪吗!?」


「わりぃな。何言ってっか、わかんねぇよ!!」



締める力を強めて意識を落とさせる

どうやら同じ程度のタイミングで、霊斗と煉河もテロリストの意識を刈り取ったようだ

そして残る一人は



動くな不许动この女がどうなってもいいのか我要杀了这个女人!!」


「なんていってんのこれ。夜斗ー?」


「知るか。大方この女ころすぞーみたいなとこだろ」



天音が首を抱えられていたが、夜斗と霊斗は達観していた

煉河は狼狽えていたがそれを見せないように腕を組んで見下している



「やっちゃえ」



夜斗には見えていたのだ。その男の後ろに立つ冥賀が



「レディーの扱いがなっていませんね、ジェントルマン?」


「なっ!?がっ…!」



手刀1つで男を沈めた冥賀はため息をついた

突入してきた警察に目を向けた3人は、即座にそれぞれの妻に駆け寄り抱きしめる



「弥生!」


「…大丈夫。というか、強い痛い…」


「無事で何よりだ…!」



「ユキ!大丈夫か!?」


「だ、大丈夫ですから…というか私より霊くんのほうが危険なことしてましたよね!?」



「紗奈…よかった…」


「助けに来てくれたのは嬉しいけど、危険がすぎるよ…煉河。でも、ありがと」



互いの無事を喜ぶ3人にジト目を向けながら冥賀はへたり込んだ天音に声をかけた



「ご無事ですか、天音さん」

 

「は、はい…。え?なんで私の名前…」


「僕は黒淵。黒淵冥賀と申します。夜斗の従兄です」


「え…?」


「どうやら彼らは妻の心配しかしてないようなので、僭越ながら僕が御身を案じさせていただきます」


「あ、あの…その…ありがとう、ございます」



天音はまだ立ち上がれないようだ

冥賀はそんな天音に手を貸して立たせた



「怖かったと思います。ですが、もう問題ありません。ご無事で何よりです」


「う、うわあああああ怖かった、怖かったよぉおおお!」



泣き叫びながら冥賀の胸に顔を埋める天音

そんな天音を放置していたことを思い出した夜斗と霊斗は、バツが悪そうに立ち去ろうとした



「動くな!あ、あれ?終わってる…?」


「警察か…。突入前に終わらせたかったが仕方ない、事情聴取に応じるとしよう」



夜斗・霊斗・煉河は両手を上げて警察を見た

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