第4話
「問題の内容は――弥生を本当に好きになってしまったということだ」
「「…はい?」」
「あくまで利害の一致ということで受け入れていた同棲だったが、同棲するうちに弥生のいいとこも悪いとこも全てが可愛く見えるようになってしまって、気付けば動向を目で追うようになったんだ。今では弥生が出かけるときにどこに行くかを聞いてしまうレベルになっている」
「…良いことじゃね?」
「ですね…。先輩は何が嫌なんですか?」
「嫌なわけじゃない。正直初めて会った時から可愛いとは思っていたが、感情が読めなかった。これは二人に話したことがあったな」
「まぁ、俺も会ったことあるけど…なんつーか、表情が変わらんし口数もゼロに等しいしで、楽しいんだかどうかもわかんなかったな」
「しかも先輩と弥生さんの間に人一人分隙間空いてましたしね。なんというか、先輩を許容してるかどうかもわからないというか…」
かつて夜斗・弥生・霊斗・雪菜の4人で遊園地に行ったことがあった
その時の様子を思い浮かべ、霊斗と雪菜は苦笑する
「そうだ。だから俺は色を見ながら表情や視線、体の動きをよく見るようになった。結果一挙手一投足が非常に愛おしく思えてしまったわけだ」
「…え?これ惚気けられてます?」
「惚気ではない。話の本質はここからだ」
夜斗は出されたアールグレイティーを飲み干し、ポットからカップに入れた
霊斗がかなりの紅茶好きなため、こういった道具がかなりの量ある
「そう、俺は弥生に多大なる愛を覚えたわけだが、向こうがそうとは限らない。お前らと違って愛を持って同棲したわけではなく、同棲したから生まれたこの感情だ。弥生が俺に対して思ってることが全く予想できない」
「えっと…。要するに、先輩は弥生さんを好きになったけど弥生さんが先輩を好きになってるかわからないから悩んでるってことですか?」
「端的に言えばそうだ」
「早く言えよ」
「端的に言えばそうだ(超早口)」
「そうじゃねえ」
「可愛いとこありますよね先輩。今の早口の下りはめんどくさいですけど」
「グサッ!」
「グサッて自分で言うのか…」
「と、とにかく。最大の問題になってるんだこれが。俺の中ではもはや弥生が最も大切な人になった。お前らは降格だ」
「一言余計です」
「ほんっとお前可愛くねぇな」
「俺が可愛くてどこかに需要あんの?」
「「ない」です」
「割と心に来る」
またため息をついてアールグレイを流し込む夜斗
そして雪菜にチラッと目を向けた
「え?恋愛経験皆無な私に答えを求めてしまいますか?」
「正直霊斗の恋愛関係とか全部知ってるから答えがわかってんだよな」
「試しに聞いてください」
「だそうだが?」
「…ちゃんと告れば?」
「ほら予想通り。できてたら苦労してねぇよ。つかお前が言うな」
「俺はしたし」
「雪菜だけだろまともに告白したの。こんなんだから雪菜に聞いてみた。一応同じ女性なわけだし」
「また一言余計です。でも私もちゃんと告白するのがいいと思いますけど…。私が弥生さんの立場なら、契約結婚になる前かその日には改めてプロポーズ受けたいってなると思いますよ」
「ふむ…。ここでお前らには話しておこうと思うんだが」
「嫌な予感がすんなぁ…」
夜斗はバイク用に使っているパーカーのジップつきポケットから小さな箱を出した
「あるんだわ、一応」
「…結婚指輪か?」
「おう。きっちり給料3ヶ月分」
「先輩結構高給取りですよね…?」
「月30くらいだな」
「その3ヶ月分って…90万かよ」
「正確には100万だな、ペアで。片方では50だ」
「変に生々しいな…」
霊斗と雪菜の薬指にも結婚指輪がつけられている
2つ合わせて夜斗が用意したものの片方分の値段だ
「というか、3ヶ月分って普通婚約指輪だと思うんですけど…。結婚指輪はだいたい二人で決めません?」
「そうなのか?少なくとも俺の同期はこれの倍の金額らしいけど」
「先輩の周りにいる人は非常識なので考慮しないでください」
「おう、あいつらがきいてたら大号泣だろうな」
夜斗は同期と年に一回程度飲みに行くのだが、一度だけ一人で飲んでいた雪菜と鉢合わせたことがある
その際に酒癖の悪い一人が雪菜を堕とそうと話しかけたのだが、持ち前の毒舌により撃沈…どころか号泣した…という事件があった
そのせいで夜斗は、毒舌後輩に慕われるすごいヤツという扱いを受けている
「まぁ…それあるなら渡せばいいんじゃねぇの?」
「ハッハッハ笑かしおる。そんな度胸があるなら片道1時間もかけて相談に来ねぇよ」
「まぁそうなんだろうけど泣きながら笑うなよ、悪かったよ」
今度は霊斗がため息をつく番だった
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