第3話

夜斗は霊斗から封筒を2つ受け取った

1つでいいと言ったのに霊斗が聞かなかったのだ



(変なとこで律儀というか頑固というか…)


「夜斗は契約結婚かぁ。なんつーか、ご愁傷さま?」


「特に後悔はしていない。そもそも俺の選択ではないしな」


「とか言って卒業当初は愚痴しか聞いてなかったぞ。考えてることがわからんとか、口数が少なすぎるとか」


「最近は視線と表情、あと手の動きとかで判断できるようになった」


「おおぅ…同棲で相手のことを知れたわけか…」


「元々契約結婚は同棲期間が長いと離婚率が低いっていうデータから作られた制度だ。離婚率が低ければ子供が育ちやすい。つまり少子高齢化を間接的に解消するのが目的だ」


「よく覚えてんなー…。俺は元々雪菜が二十歳になったら結婚する予定だったから全く興味なかったんだよな」


「だろうな。んで、子供はまだか?」


「舅じゃねぇんだから…。まだだよ、結婚生活が安定するまでは作らない」


「妊娠がわかったらこちらから連絡しますよ、先輩」



雪菜は焼き上がった茶菓子を机に置きながら言った

夜斗は二人の性欲の高さをよく知っている。嫌というほど聞かされたからだ

なにせ同棲が始まった5年前には毎日どちらかから電話がかかってきており、あらゆる相談事を受けていた



「…やることはやってんのな」


「え?なんで?」


「そんな感じの色が見える。二階の突き当り右」


「え、こわ…」



夜斗の目は見るためだけのものではない

原理は不明だが、ある程度過去を見たり霊的なものを見ることができる

また、『色』というものを見て状況を把握することも可能だ



「本当に厄介ですね。先輩を殺そうと思ったら相当苦労しそうです」


「あまりにひどいな」


「そこが可愛いんだろ」


「ダメだこのカップル…いや、夫婦…」



夜斗はため息をついた

この二人はお互いの愛が強すぎてあらゆるものを許容してしまうため、いわゆるバカップルだったのだ

夜斗からすれば狂気を感じる愛なのだが…



「つーか夜斗、お前なんでわざわざ来たんだ?実家帰るときに寄ってくれりゃ渡したのに」


「あー…。そこについては色々あるんだよ」


「ここで先輩から買っていた恩を返すわけですね」


「まぁだいたい合ってる」


「…?何かあったのか?仕事の悩みくらいは聞くぞ?聞くだけだけど」


「それがだな…。これは俺にとってかなり深刻な問題だ。かつて直面したことがなく、対処にかなり困っている。そしてこの問題はとてつもなく今後の人生に関わってくるんだ」


「先輩をそこまで追い込むなんて…。まさかパワハラですか!?」



夜斗は頭を横に振った



「じゃあセクハラか?俺の職場だとよくお局様が新入社員にやるんだが」


「それも違う。俺は職場だと30代扱いを受けてる」


「…わかる気もしますね。先輩は落ち着きがありすぎて、5年くらい年上に見えますし」


「ちょっと傷ついた。って別にそんなことじゃなくてな」


「じゃあアルハラか?お前酒弱いもんな」


「私より弱いですもんね。人生相談のときに飲み屋行きましたけど、まさか自分から飲むのに5杯目でダウンするなんて…」


「待って二人で飲み行ったの俺知らない」


「オメーが夜を求めてこないから魅力ないんじゃねえかとか半ば惚気気味に相談されたんだよ!」



当時の霊斗は欲を抑えるのに必死だった

そのため、夜を求めずに半年ほど生活していたのだが、先に雪菜の抑えが効かなくなった…などということもあったりしたのだ



「じゃなくて!これから伝えることは最重要機密だ。他に漏らすことは許さん。漏らせば、それぞれの黒歴史をSNSのリア垢で公開する」


「「えっ!?」」



夜斗は二人の秘密をいくつか握っている

その中で霊斗は元カノとの別れ話、雪菜はかつて書いていた恋愛小説が黒歴史として夜斗の中に記憶されていた

しかしそれは夜斗以外は知らないことだ



「その問題の内容は――」



夜斗はようやくここで話し始めた

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