第15話
朝になり、二渡が別荘に到着をした。留美は車で近くの病院に運ぶことになり、車を運転してきた村の人と先に別荘を出た。
「じゃあ、我々も出発をしますか。村まで歩いて20
快晴の中、気持ちよく出発することができた。気温も暑すぎることはなく山歩きには丁度良かった。途中、難所もあったが陽介の足でも問題なく通過できた。二渡の言葉通り20分後には目的地の村に到着をし、古い民家に案内された。
「この家をご自由にお使いください」
「一人一部屋というわけではなさそうですね」
「二階に二間と一階に居間とは別に二間ありますので、そこをお使いください。布団は各部屋にご用意してあります」
「女性と男性で分かれますか。留美さんが足を怪我していますから、女性陣は一階の方がいいですかね」
「そうしましょ」
和香子の言葉に茉莉も頷く。
「では、私は一旦退散します。本日の夕食は村長の家でご用意をしておりますので、また迎えに参ります。それまではご自由にしていてください。昼食は優斗君が来ることになっています」
「はあい」
誰も何も言わなかった。そうなることがわかっていたという思いは陽介も同じだった。
「私はお昼まで寝るわ。夕べはあまり眠れなかったし、さすがにちょっと疲れたわ」
和香子は大きな食卓のある部屋から出て、奥にある座敷へと向かった。茉莉がその後を黙って追いかける。
「僕、散歩してきます」
「気をつけて。昼には帰るのだぞ」
「うん」
まるで親子のような会話を太一と将平はしていた。
「まずは二階でゆっくりしますか。私も慣れない山歩きで疲れました」
将平は太一のリュックサックと自分の荷物を一緒に抱え、二階へと上がって行った。それに裕太が続いたので、陽介もそれに倣った。
「部屋割りですが、どうしましょうかね。太一君が帰ってきてからでいいかな。とりあえずは奥の部屋で私は休ませてもらいます」
「あっ、自分は下にいますから、裕太君はこっちの部屋で休んでいてください」
陽介は思わずそう言っていた。最初からそうすればよかったと少しだけ後悔をしていた。荷物を持って再び階段を下りる。一階の茶の間と呼ぶにふさわしい部屋で過ごすことにした。昼までまだ時間はたっぷりある。和香子や将平以上に身体が悲鳴を上げている自覚があった。座布団を枕にして畳の部屋で大の字になる。全身の力が抜けていくのと同時に、頭の中が空っぽになる。いつの間にか陽介は深い眠りの底に落ちていた。
「陽介、おい、陽介」
目を開けると人の顔があった。驚くことも忘れるくらい、まだ眠い。陽介は再び瞼を閉じた。
「起きているのだろう」
「ううん?えっ、あれ、ここどこ?」
「おい、大丈夫か?」
「えっ、ああ、優斗か」
「お昼だぞ」
「えっ、もうそんな時間?」
「外でバーベキューするから、お前も手伝え」
「えっ、ああ、わかった」
二人でバーベキューの準備をしていると和香子と茉莉が一緒に手伝いだす。
「バーベキューですか。いいですね」
二階から将平が叫んでいた。将平と裕太も加わり賑やかに準備が進むと大きなトウモロコシを沢山抱えた太一が戻ってきた。
「どうしたの、それ」
和香子の嬉々とした声が庭に広がる。
「貰ってきました」
今まで聞いたことのない明るい太一の声だった。
「ちょうどいい。それも焼こう」
将平が太一からトウモロコシを受け取りバーベキューの準備が整ってくる。陽介はデジャブを感じていた。太一よりもう少し幼い頃、こんな風にこういう場所で父とバーベキューをしたことがある。母はいなかった。六歳下の妹がまだ小さかったからということもあるのだが、社交的でなかった母はこういう場が苦手だった。将平が太一を笑わせている。二人の笑い声を聞いていると、自分と父もこうして明るくはしゃいでいたことを思い出す。そうか、あの時、優斗の家族もいたはずだ。中学に入るまでは優斗の父親がやっているレストランによく遊びに行っていたのだが、ある時期からそれがパッタリ途絶えた。高校生になり優斗の家に遊びに行くようになり、仏壇に優斗の父親の位牌を見つけたとき、父が優斗の父親と会わなくなった謎は解けた。将平が太一を追い回している。そっくり同じ場面が記憶の底から蘇ってくる。そして別の記憶も同時に浮かぶ。優斗の父親の死を知った父の驚愕ぶりが鮮明に頭の中に広がる。その後、明るく陽気だった父が別人のように変貌したことも。優斗の父親の死と、陽介の父の変貌ぶりを結び付けて考えたことはなかったが、今はそれを切り離しては考えられなくなっていた。
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