第12話 飲み会

ゴクアク警備会社は最初は三人でスタートした会社だ。

タイガ社長が会社を作って、リキ先輩とリュウ先輩を迎え入れた。その三人で探偵兼用心棒みたいなところから始まっている。


そのリキ先輩とリュウ先輩は現在は事務所で、社員のGPSや動画や録音データを見ながら指示を出す仕事をしている。

指示はメールや電話だったりするからルカはその二人は見たことがない。もちろん社長もだった。

その社長とこの前初めて会った。おもいっきり後輩だと思って先輩風を吹かせながら。


「あーーー。私はクビになるのかな? だって普通気付かないよね。ヤクザと対峙する社員の中に紛れ込んでいた一番弱そうな人がこんな会社の社長をやっているなんて」

ルカの愚痴に付き合ってくれたのはカズチ先輩であった。

同じ20代で、この会社では若手だしかっこいい。文句も言わずに聞いてくれる性格であり、ルカにとって唯一のオアシスのような存在だ。

「そこがタイガ社長の凄いところです。危険な場合はできる限り現場に駆けつけてくれるんです。給料だって基本給の部分はうちらと同じで、社員数で頭割りした金額なんです」

そこまで話すとビールが入ったグラスを口に運び、唇の乾きをいやすために少しだけ傾けた。

「それぞれが、それぞれの部署で全力を尽くす。そこに上も下もない」

格言を発表するかのようにカズチ先輩が宣言をした。ルカは聞くことしか出来ない。


「おう。カズチ」

バカでかく、野太い声が店内に響いた。

ライカ先輩とケースケ先輩であった。普段はおもり役のケイジ先輩たちと絡むことが多いルカは二人とはそこまで接点はなかったが、実は一番仕事をこなしているのが彼等である。

本来ケイジ先輩たちは幹部として、依頼内容から作戦をたてたりして指示を出す方側なのだ。


ライカ先輩はいつもマスクを着けていて目しか見たことがない。食事の時もマスクをずらしながら器用に食べている。

ケースケ先輩は長髪で寡黙な性格である。いつもライカ先輩に連れられて飲み歩いているそうだ。


「聞いたぞ。タイガ社長にタメ口で接したらしいな」

「うわああ。言わないで下さい。恥ずかしすぎて消えたくなる」

ライカ先輩のからかいにルカは崩れるしかなかった。

「おいルカ。お前は地方に飛ばされるらしいぞ」

「えっ、地方に支店なんてあったんですか?」

「いや、ない。だからお前のために稚内営業所を作ってやった。そこで流氷に乗って白熊と戦う仕事だそうだ。わははは」

ライカ先輩は大声で笑っているが、ルカはその冗談を笑えなかった。


二人で気持ちよく飲んでいたのに急に四人に増えて大騒ぎとなった。

そこからルカは悪酔いして、翌日ベッドから見事に起き上がれなくなってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る