第11話 ヤクザ
呼び出されて駆けつけた店内は、ルカの他に10人以上の先輩がいた。
そんな先輩たちと対峙しているのは、人数としては5人と少ないがヤクザであることは一目瞭然である。
いわゆる尻持ちにヤクザがついているお店であった。
彼らに脅しは通用しない。
先頭にいたチョウ先輩は無言でヤクザからの罵声を浴びている。依頼者と思われる男性はその背後に隠れていた。
ヤクザ相手にどうするんだろうと興味がわいた。以前警察に任せると言っていたから、警察が到着するまでの時間稼ぎをするんだろうが。
ヤクザ側もそのことを察したみたいで、罵声から一転、いらやしい笑顔を交えて今度は組の面子を保つための話をしてきた。
「ここで警察が来ておさらばされたんじゃあ、うちとしてもバックにいる意味がなくなるんだわ。遺恨が積み重なっていつかお宅と全面戦争というのも困るだろう? 気持ちで手を打とうじゃないか」
どうするんだろう。会社がお金を払って解決するのだろうか。それとも拒絶するのだろうか。
「うちはお金のやり取りはしないんですよ」
チョウ先輩が呟くように言った一言でヤクザの表情が豹変する。
「おい。ここまでうちの看板を傷つけようとするなら、こちらも覚悟を決めさせてもらうぞ」
その後も俺の為なら何するか分からない奴がいるとか言ってきたが、チョウ先輩は直立不動のまま聞いているだけだった。
ヤクザ側の若手の「警察が来た」という声で退散するまで無言を貫き通す。最後に「てめえら全員の面、覚えたからな」とお約束の脅しにも反応しなかった。
警察の事情聴取も終わり、全員が無言のまま店から出た。あの緊張感の後では誰も喋る気にならないだろう。
ルカも今日はチョウ先輩に話しかけないで帰ろうと思った時、逆に話しかけてくる男性がいた。
「ルカさん。お疲れ様です」
物腰が柔らかい30代の男性である。店の中にいたのだろうが初めて見る人物であった。
「お疲れ様です。・・・初めましてですよね」
条件反射的に挨拶をした。
「そうですね。初めましてです。よろしくお願いします。それにしてもさっきは怖かったですよね。でも彼等が戦うのは僕たちではなくて警察ですから、きっと大丈夫ですよね」
年上ではあったが敬語で接してくるところを見ると、自分よりも後に入社した後輩であろうと思った。
ついに私も先輩になれたのかと、先程までの恐怖を忘れ、嬉しさのようなものがこみ上げてきた。
「私も最近になってだいぶ慣れてきた感じ。それでもヤクザは初めて見たから怖かったけどね。もし何かあったらこれ」
ルカはそう言ってスマホにある自社の緊急アプリを見せた。GPSですぐに録音と救助を呼べるものだ。
「あっ、ちゃんと入れているんですね。僕もです」
彼も同じスマホアプリを見せてきた。
後輩というのは可愛いものだと思いつつも、中途採用でこの会社に入るくらいだからどんな犯罪歴があるのか分かったものではないと身構える。きっと優男風だから詐欺とかだろうと想像してみた。
「それじゃあ、他の現場で会ったときはよろしくね」
初めて会ったばかりだし、あまり深入りしない方が得策だと思って切り上げることにした。本当だったらこの後一緒に飲みにでも行って、やばい先輩のことでも教えてあげたいところであったが。
そんなやばい先輩の筆頭でもあるチョウ先輩の方から珍しくルカに寄ってきた。
「印象はどうだ?」
「彼ですか? いい人そうな方でしたね。でもこの会社でやっていけるんですかね? 少し頼りなさそうでしたけど」
笑顔を交えて話すルカに対して、チョウ先輩は珍しく不可解な顔をして無愛想に呟いた。
「彼が社長だぞ」
ルカは言葉も発するのを忘れたまま驚きの表情を浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます