第10話 ストーカー
依頼者は20歳の女子大生である。
自分と歳が近い女性だったので、友達とおしゃべりするようにルカは話を聞くことができた。
女子大生は美雪と名乗った。内容はバイトの客だった
黙って話しを聞いていたケイジ先輩は無言のまま左手でスキンヘッドの頭を掻いていた。
「お前ならどうする?」
珍しくケイジ先輩が意見を求めてきた。私も少しは一人前と認めてもらえたということだろうか。
「やっぱりストーカーと話して止めるよう警告すべきなのでは?」
「まあ、そうだろうけどな」
ケイジ先輩はあまり乗り気ではないようだ。
じゃあどうするんですかと聞こうとした時、先輩の方が先に口を開いた。
「それはお前に任せるわ。カズチを連れていけ。俺は違う奴と動いてみるから」
そう言って携帯電話を取り出すとカズチを呼び出した。
カズチ先輩が横に居てくれるのが心強い。ストーカー君にも正論をズバズバ言うことができる。
「彼女は怖がっているよ。好きな女性を怖がらせたいの?」
「いえ。そんなことないです」
「だったらこれ以上係わるのを止めてくれる? もし次に係わったら警察にも連絡するし、うちらも警備に動くしかなくなるから」
「はい。分かりました」
コーヒーチェーン店での話し合いはスムーズに進んだ。あとは一週間くらい様子を見て、ストーカーとして美雪に近付かなければ解決だろう。
利明はゴクアク警備会社についてネットで調べた。
元暴力団、元受刑者、暴力、詐欺、窃盗と前科者のオンパレードが所属しているという。やつらと係わったものは消息不明になっているなんて話がネット掲示板に溢れていた。
「やっぱりそうだ。美雪さんはあいつらに脅迫されているんだ。僕が守ってあげなくちゃ。僕しか美雪さんを救ってあげられないんだ」
美雪からSOSの信号が来たのは話し合いが行われてから二週間が経過した時であった。
バイト先には利明が来なくなったが、通勤中や家の前でずっと付けられているといったものだ。
カズチ先輩と共に美雪の所に向かうと、倒れ込む美雪の前には警棒とスタンガンを持った利明が立っていた。
「やっぱりお前らが美雪さんを苦しめていたんだな」
独り言のように呟く利明は警棒を振りかざしながらルカをめがけて襲いかかってきた。
「きゃあー」
悲鳴をあげて恐怖で立ち尽くすしか出来ないルカの前に、素早くカズチ先輩が現れて警棒を取り上げようと利明の手首を捻った。
たったそれだけの動作であったが、走ってきた勢いもあって利明の体が宙を舞う。そしてそのまま地面に背中から叩き付けられた。コンクリートに全身を打ち付けられ音にならないうめき声が短く聞こえた。手首の骨が折れたかもしれない。
「大丈夫ですか?」
カズチ先輩はルカと美雪の両方に対して問いかけた。視線は利明から外していない。彼はまだ仰向けのままぐったりしている。しかし視線は空を見つめたまま、警棒を持っていない方の手が僅かに動いた。
その瞬間、カズチ先輩がスタンガンを脚に受け崩れ落ちた。それと入れ替わるようにして利明がゆっくり立ち上がった。
「はあ、はあ。犯罪者は僕がやっつけたぞ。美雪さんは僕が一生守るから」
大きく息をしながら利明はゆっくり美雪のところに近付いていった。女性と接する機会がほとんどないままこの年齢まで来てしまった。彼女に笑顔で接客されたことで勘違いしてしまうという典型的なこじらせた男である。
片手は警棒を握ることもできずダラーンと垂れ下がっているが、もう片方にはバチバチと衝撃音をあげているスタンガンを持っていた。
ルカはどうすれば美雪を守れるか考えたが、何も出来ずにいた。
ドン。
鈍い音と共にルカの目の前には想像も出来ないことが起きた。
突然現れた車が利明にぶつかる。
スピードはさほど出ていなかったが、それでも凄まじい衝撃に利明の腰は、くの字に曲がり、今度は顔面から地面に倒れ込んだ。
ぶつけた車の運転席の扉が開き、中からスキンヘッドの巨体が登場した。
「いやあ、悪い悪い」
ケイジ先輩である。棒読みでの謝罪からあきらかにぶつけるつもりであったことを察することが出来た。
「スペシャルな病院に連れていってあげるから許してくれよな」
ケイジ先輩はそう言って車の中に合図を送る。
助手席と後部座席の扉が全て開き、3人の女性看護師が登場した。皆、膝上20cmくらいの凄いミニスカートを履いている。一歩間違えたら露出狂だと思われるくらいの大胆な服装だ。
そして利明は彼女たちに介護されながら車の中に運ばれた。
「こういう女性に免疫がない野郎は、結局エロがあれば収まるんだよ」
ケイジ先輩はそう言い残して、3人のセクシー看護師とストーカーを乗せた車に乗り込み、そのまま去っていった。
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