第5話 クレーマー

どうやらシンヤ先輩に気に入られているようだ。

ただ女性として好意を抱かれているのとは違って、ペットを可愛がるという感覚に近い。

ペットと言ってもチワワを可愛がっているというよりか、パグを相手にしているような感じがするのは気のせいだろうか。

今日もコンビニで買い物をしているところを見つかりつきまとってきていた。

シンヤ先輩はポッチャリ体型で力士のようである。もじゃもじゃ頭にあごまで伸びるもみあげがトレードマークだ。

ご多分に漏れず怖い。


「おいおい。二十歳だって言ってるだろ。客を疑ってんじゃねえぞ」

学生であろうアルバイト店員に、同じくらいの年齢の若者の集団が暴言を浴びせだした。

会話の内容で揉めている原因は一発で分かる。どうせお酒かタバコを買う年齢確認に腹を立てて食ってかかっているのだろう。


こんな場面に遭遇したら、血の気が多いシンヤ先輩は喜んで首を突っ込んでいきそうなのだが、隣を見たらニヤニヤしているだけで動かずにいる。

「助けにいかないのですか?」

ルカは小声で隣に問いかける。

「SOS信号出していないからな。どうやら顧客じゃないらしい」

その間もヤンキー集団の怒声は店員を追い詰めている。

そして店員がこの状況から逃れたい一心で、年齢確認をしないでお酒を販売しようとした時になってシンヤ先輩が動き出した。


「コンチワー。ゴクアク警備会社でーす。営業に来ました」

ヤンキー集団と店員の間に体をねじ込み、シンヤ先輩はスマホを取り出した。身長180cm以上、体重130kg以上の巨漢の登場は、さすがのヤンキーも黙るしか無かったようだ。

「ここのアプリをダウンロードしたら月々500円でいつでも警備員が駆けつけますよ。どうです? 契約してみますか?」

なんかお酒を販売しろと迫る若者たちより、シンヤ先輩の方が悪徳勧誘業者のように思えてきたが、ここは見なかったことにしよう。


しばらくするとヤンキー集団は黙ったまま店内を出ていき、ニコニコしながらシンヤ先輩が戻ってきた。

「営業成功」

「あっ、はい。良かったですね」

冷めた声でルカは言ったが、鈍感なシンヤ先輩がそれに気付くことはなさそうだ。

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