第3話 いじめ
ルカは中学生の自宅に訪問していた。
もちろん家庭訪問ではない。教師になった覚えはない。なっているのはゴクアク警備会社の社員であるのだから。
今回はイジメの被害者からの依頼である。
だから加害者のいじめっ子のお宅に行って両親に報告と共に、うちの会社がバックについたことを告げにいった。
あなたのやっていたことは悪ふざけの延長ではなく、いじめや犯罪だと認識してもらうことで解決することが結構多い。
ルカがそのことを話している隣には全身黒ずくめの服装をしたチョウ先輩が座っていた。
両親とその息子から謝罪を得られて、ルカは少し上機嫌になって家を後にした。
「チョウ先輩。なんか上手くいきそうで良かったですね」
笑顔のルカとは対照的にチョウ先輩の表情は固い。
「そうだといいがな」
ぶっきらぼうにそう言った。
数日間、校長と非常に平和的なお話をして学校内でも監視することができた。
3人の先輩達に校長室に押し入られたのだから「はい」と言うしかない、とっても平和な交渉である。
依頼者の
教育実習生として潜り込んだルカは肩の荷が下りたことを感じた。そしてまだまだ大学生でもいけるのではないかと、スーツ姿の自分を見てにやけてみた。
「おい。やっぱりダメだったぞ」
チョウ先輩からの怒声の電話でルカは飛び起きた。いじめっ子への家庭訪問から1ヶ月後のことであった。
チョウ先輩の恐れていた通りである。
わざと土下座して謝罪をすることで精神的に追い詰めてみたり、良成君に話しかけようとする同級生には「そいつと話すとヤクザがくるぞ」と言って孤立させようとしていた。
チョウ先輩はいじめっ子の家に乗り込み両親の目の前で子供を連れ出した。両親は警察に連絡したそうにしていたが息子側にも非があるため出来ずにいた。
「おい。空手の試合しようぜ」
チョウ先輩が舌舐めずりをしそうなほどの気持ち悪い笑顔で言い放った。
「中学生が大人に勝てるわけないだろ。こんなの暴力だ」
チョウ先輩を前にしても言い返してくるとは、いじめをするだけのしたたかさはあるようだ。
「お前は弱い相手にだけ攻撃するのか。どうせいじめるなら強い相手にすべきであろう。来い」
もう逃げることも出来ないいじめっ子はやけくそ気味にパンチを胸板めがけて打ってきた。
「もっとだ」
ひるむことなくチョウ先輩は打たれ続ける。そしていじめっ子の息が切れてきた頃に反撃を開始した。
一言で表せば、大人気ないである。まさにボコボコという表現が相応しいくらいのチョウ先輩からのパンチやキックであった。
ルカはこれでいじめっ子も懲りたであろうから解決と思えた。そこにケイジ先輩に連れられて良成君も来た。
いじめっ子がボコボコにさせられた姿を見せる為というわけではなさそうだ。どうして連れてこられた疑問に思っていたところにチョウ先輩の声が再度響き渡った。
「良成。試合をしようぜ」
ルカには意味が分からなかった。いじめっ子にするのは分かるのだが、どうしていじめられていた方側にもするのであろうか。
もしかしたらいじめられないように稽古を付けてあげるという優しさであろうか。
そんなルカの思いは見事に裏切られて、良成君も同じくらいボコボコにされた。
やはり先輩たちは酷い人だという恐怖を改めて感じた。一緒に行動していく中で、どこか良い人なのではないかと思い始めていたことを後悔する。
いじめっ子と良成君は二人とも痛みで動けず床に寝転がったままであった。
その後不思議なことが起きた。
良成君の通う学校ではいじめがなくなったのだ。いじめっ子をボコボコにしたからというだけではなさそうだ。
なぜなら家庭訪問しただけの後には腫れ物に触るように扱われていた良成君が、クラスに溶け込んで楽しく過ごせているからだ。
どうして良成君まで殴られたのか。どうしていじめがなくなったのか。ルカには分からないままであった。
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