・6-2 第147話 「調査方法:1」
すでに王都・パテラスノープルを出発してから、十日以上が経っていた。
あと少し。数日ほども歩けば、目的地であるケストバレーにたどり着くことができる。
一行はすでに、主要な交易路となっている太い街道からは外れ、宿場町として整備された街のない道を進んでいた。
交易に使われる幹線道路ではないとはいえ、メイファ王国の通貨を鋳造している、重要な鉱業都市に続いているものだ。
太く、石畳でしっかりと舗装された路面が続く。重い馬車が何度も通過したのか、石畳の上には轍掘りができている。
相変わらず、目立たないように徒歩での移動だ。
単なる旅人、放浪の集団である風を装いながら、昼は歩き、日が暮れてきたら街道から少し外れたところに野営地を設け、静かに夜を明かす。
姿を隠すわけでもなく、あくまで、堂々と。
だが、相手を警戒させないように進んでいく。
「ところでよ、ラウル。ケストバレーについたら、どうやって贋金の作り方を調査するつもりなんだ? 」
集めた薪で起こした火でフィーナが調理したスープと、携帯用の固焼きパンで夕食を摂っている最中、源九郎はずっと気になっていたことをこの一行のリーダーということになっている獣人にたずねていた。
贋金作りの製造方法を明らかにすると言っても、「どうやって作っているんですか」と聞いて、素直に教えてもらえるはずがないのだ。
「……まずは、旅の商人になりすます」
すると、木皿に盛ったスープにパンを浸す手を止め、顔をあげたラウルは、ちらり、と周囲を確認してから、これからの計画を話し出した。
「実は、前々から噂になっていたんだ。ケストバレーの辺りで、とんでもなく利率のいい交換レートでプリーム金貨を売ってくれる商人がいる、ってな。あの
「それから? 」
「相手にもよるが……、基本的には、なんとか贋金の製造現場を押さえて、その製造方法を明らかにし、できれば証拠も押さえたい所だな。贋金作りに関わっていた誰か、もしくは偽プリーム金貨に魔法を施している魔術師の身柄を抑えられると、なおいい。いろいろ話してもらわないといけないからな」
「つまりは、忍び込んで、盗む、っていうことか」
話を聞いた源九郎は、渋面を作る。
こっそり行動するというのは、苦手なのだ。
元々[立花 源九郎]というサムライは正面切って相手に挑んでいき、その剣術の腕前でなんとかしてしまうというタイプのキャラクターであったし、そもそも図体が大きいので隠密行動には向いていない。
「まぁ、その辺はオレがなんとかするさ。お前は、荒事になった時の助っ人をしてくれればいい」
するとラウルは、分かっているさ、と言いたそうにニヤリとした笑みを浮かべてそう言った。
「なら、わらわたちはどうすれば良いのじゃ? 」
自分も役割を確認しておくべきだと思ったのか、今度は、小夜風にパンをちぎって与えていた珠穂が編み笠の下から犬頭に視線を向けつつ口を開く。
「そうだな……。あんたは、潜入とかは得意か? 」
「わらわはそういうのはあまり得意ではない。しかし、小夜風であれば役に立とう。この者は賢いし、なにより見た目がキツネじゃ。あるいは、敵も野生動物が紛れ込んだだけと、誤認してくれるやもしれぬ」
「なるほど、そいつは助かる。それなら、もぐりこむ時に手助けして欲しい。巫女さんの方は、そっちのタチバナと一緒に、荒事になった際の援護を頼みたい」
「承知じゃ」
巫女がうなずくと、その足元でアカギツネも前脚をそろえて姿勢を正した座り方をし、うなずいてみせる。
「えっと、おらは、どうすればいいんだっぺか? 」
焚火の火加減を調節しながら話を聞いていたフィーナだったが、非戦闘員である自分も一応なにをするべきか確認しておくべきだと思ったのだろう、手を止めてラウルに訪ねる。
「娘。お前は、うん……。陽動でもしてもらおうか。もしなにか騒ぎになったら、火をつけて欲しい。つけるのは得意だろう? 」
「そりゃ、得意だけんど……、それって、火事を起こせっていうことだか? 」
故郷の村を火災で失っているためか、元村娘は表情を青ざめさせ、嫌そうに眉をひそめる。
幸いなことに、犬頭は首を左右に振ってくれた。
「いいや、違う。さすがにそんなことは頼まないさ。ただ、ちょっと、ボヤ騒ぎを起こして欲しいんだ。……火事は、誰だっておっかないのさ。だからもし騒ぎになった時、お前がボヤ騒ぎを起こしてくれれば、敵の意識は自然とそっちに向く。火事になって建物が燃えてしまえば、贋金作りどころじゃなくなってしまうからな。だから、ボヤ騒ぎを起こせばオレたちは逃げやすくなる。それで、騒ぎを起こしたらお前もさっさと逃げ出すんだ。谷の外のどこで合流するかは、また後で決めよう」
「なるほど。わかっただ」
自分の役割を理解したフィーナは、真剣な表情でうなずいた。
源九郎としても、異論はない采配だ。
ボヤを起こして敵の気を引くというのはいいアイデアだったし、少なくとも元村娘は戦闘に巻き込まれる恐れが小さい立ち位置にいられる。
「ねぇ、ラウル。ケストバレーの管理を代行している、シュリュード男爵に事情を説明して、手を貸していただくわけにはいきませんの? 」
その時、空腹だったのか、あるいはまだ当事者意識が薄いのか、話し合いに参加せず黙々と食事を続けていたセシリアが顔をあげてそう言った。
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