・3-8 第106話 「しばしの観光:1」
王都まで護衛してもらう代わりに、報酬を支払う。
源九郎とフィーナ、そしてマオはそういう商談を結び、ここまで旅を共にしてきた。
その報酬額は、プリーム金貨二枚。
聞く限りは結構な額になるはずなのだが、しかし、それを直接受け取ったところで、すぐに使えるというわけではなかった。
なぜならこの価値ある金貨は、古王国というすでに滅亡してしまった国家で使用されていた通貨であり、現在では別の国が異なる貨幣を発行し、市場ではこちらの新しいお金が流通しているからだ。
高い純度で金を含んでいるために今でも大きな価値を持っているが、[お金]として使用することはできない。
それがプリーム金貨だった。
それに、あまりにも額面の大きな貨幣というのは使いづらい。
なぜなら、必要な代金を差し引いた分のお釣りを常に相手が所有しているとは限らないからだ。
もし相手が十分なお釣りを持っていなかった場合、欲しいものを売ってもらいたくても、こちらが損をするのを覚悟で相手に釣銭の不足分を丸儲けさせることを決意でもしない限りは取引を成立させることができない。
使えない古い金貨を、使うことのできるお金に交換する。
そのために一行が向かったのは、両替商だった。
「ここ、パテラスノープルは国際交易の中心地! いろいろな珍しい商品が売り買いされているだけではなく、外国の商人たちとの取引も盛んに行われているのですにゃ! ですから、あちこちに両替商が店をかまえているんですにゃ~」
朝早いというのにすでに大勢の人々が行きかっている通りを並んで歩きながら、マオが楽しそうに教えてくれる。
「ここメイファ王国にはメイファ王国の、外国には外国の、それぞれの通貨があるんですにゃ。そしてその国の商品を買おうと思ったら、その国で使われている通貨を使わなければならない。ですからお金を交換する需要ができるんですにゃ。そしてその需要を満たすために、この王都にはたくさんの両替商があるのです。需要を満たす供給をする。これぞまさに、商売ってやつですにゃ~」
「ほほ~、なるほどな~。みんな商売上手なんだな~」
マオの説明に感心しつつ、源九郎はせわしなく周囲を眺めている。
なにしろ、目に映るすべての物が見慣れない新鮮なもので、興味が尽きないからだ。
サムライがかつて暮らしていた日本の建物とはまったく異なる外見の建築が並び、そこを行きかう人々も様々、肌や瞳、髪の色だけではなく、そもそもの種族まで異なっている。
レンガを積み重ね、漆喰で表面を固めた構造の建物は朝日を浴びて白く輝き、カラッと気分よく晴れた空の下で美しく映えている。日差しが厳しくなるためか通りの上の方には色とりどりの布をロープで張ってひさしが作られ、その影の下を大勢の人々が通り過ぎ、その左右ではすでに商いを始めている商人たちが盛んに呼び声をかけている。
店頭に並んでいる品々は、見たこともない色とりどりの珍品ばかりだ。
不思議な模様が様々な色で描かれたカーペットに陶磁器、奇抜な形をした工芸品に、どう演奏するのか、どんな音色が出るのかもわからない楽器。武器や防具を売っている店もあるし、作っている店もあって、ハンマーを叩く音が中から響いて来ている。箱詰めされた様々な穀物や、野菜、果物も積み上げられていたし、食べ物を売る屋台では、嗅ぎなれないが実に美味そうな香りを漂わせている。また、中には魔法に関係する道具などを売っている店もあり、その店先には怪しげで不気味な、ビン詰めにされたなにかの生き物の干物や、ゾッとするような変な臭いのする薬品などが売られていた。
「ささ、急ぎましょう。欲しいものがあるのなら朝、市場に行け、と申しますからね」
その見るのにも聞くのにも賑やかな通りを先頭に立って進んでいたマオはそう言うと、歩く速度を速める。
欲しいものがあるなら朝の市場に行け、というのはあまり聞きなれない言葉であったが、マオの故郷ではそう言われているのだろう。
朝の市場には多くの商品が並んでいても、時間が経つにつれて売れていき、遅れて行くと良い商品はみな売れてしまって残っていないということがあるから、そういう風に言われているのかもしれなかった。
「ところでマオさん。どこの両替商に行くんだい? ここにはたくさん、両替商があるんだろう? 」
「もちろん決まっていますにゃ。実は宿屋のご主人に、どこがおすすめか聞いておいたんですにゃ」
「宿屋のご主人が? なんでそんなことを知ってるんだ? 」
「それはもちろん、あの宿にはミー以外にも旅の商人が大勢、宿泊していますから。自然とご主人もそういうお話に詳しくなるんですにゃ。なんでも、この先に他よりも手数料の安い両替商がいるのだとかで」
マオはやはり抜け目がなかった。
もっとも手数料の小さい、自分の獲得する利益を最大化できる店の情報を事前に仕入れてきていたらしい。
「ははっ、マオさん、しっかりしてんな~」「さっすが商人さんだべ! 」
「うふふっ。ま、まぁ、それほどでも……、ありますかにゃ~」
源九郎とフィーナから賞賛の言葉を受けて、マオはまんざらでもなさそうに笑みをこぼす。
もうすぐ大金が手に入り、がっぽりと稼ぐことができる。
そんな期待もあってか、一行の歩みは軽やかに進んで行った。
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