・3-7 第105話 「まずは両替商へ」

 王都・パテラスノープル。

 源九郎とフィーナの、旅の目的地。

 なんとかそこにたどり着くことができたものの、一行はもうくたくたで、その日はなにもするつもりになれずに、入城許可証を受け取る時に役人から教えてもらった宿屋へと直行した。

 なかなかいい宿屋だった。

 建物の造りはしっかりとしていて外も中もきれいで清潔だったし、部屋もたくさんあったから一行が部屋を取るのも簡単だった。

 しかもそこには名物まであり、海で豊富にとれる貝類を利用した料理が美味しいと評判で、他の宿屋と同じく併設している食堂には宿泊する客以外にも大勢の客が訪れていた。

 だが一行は、その名物料理を堪能することもしなかった。

 城門をくぐるまでにずいぶん長い間待たされただけではなく、特別検査まで受けさせられ、肉体的にも精神的にもあまりにも疲労してしまっていたからだ。

 だから彼らは部屋を取るとすぐにそこに向かってすぐにベッドに横になり、食事も、旅の途中で食いつないできた携帯食料の残りで済ませてしまった。


「まぁ、なにをするにしても、明日にしましょうにゃ」

「賛成、賛成。今日は本当に疲れちまったぜ」

「ぅぅっ、村の人らには申し訳ねーけど、このベッド、いい感触だべ……」


 その日はそれぞれそう言い合うと、そのまま、襲って来る睡魔に身を委ねた。


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 夜が明けると、一行は強い空腹を覚えていた。

 昨日は携行食糧の残りで食事を済ませていたが、疲れもあって軽く済ませてしまったからだ。

 だから三人はまずは食事をということで意見が一致し、朝一で、宿泊客のために早くから営業している食堂へと向かった。


「ミーはさっそく、このプリーム金貨を売りに行って来ようと思いますにゃ」


 みんなで食事をしながら、まずマオがそう言って今後の予定について話し始める。


「つきましては、約束通りこちらを。金貨二枚、確かにお渡しいたしますにゃ。王都まで無事に護衛していただき、感謝を申し上げますにゃ~」


 それから彼は、革袋から金貨を二枚取り出すとテーブルの上に置き、源九郎とフィーナに差し出す。


「いや、やっぱりそれはふぎゃふっ!? 」


 その美しい黄金の輝きに源九郎はまたもや遠慮しそうになってしまったのだが、フィーナがすかさず彼の太腿をつねって黙らせた。

 もう、金銭面については自分がしっかりせねばならないのだと、彼女はそう腹をくくったらしい。

 つねり方に容赦がなかった。


「ありがたくいただくだよ、マオさん! だけんど、おらたちこれをどこに持って行ったら売れるんだべか? 」

「両替商に持って行けば、代わりにメイファ金貨でもアセスター銀貨でも、それ以外にでも引き替えてもらえるはずですにゃ。なにせここは交易の街ですから、どの国の通貨にでも交換できますにゃ! ただし、いくらかの手数料を取られますし、中には交換比率をごまかす悪徳業者もいるので、注意ですにゃ」

「なんだ、それ? そんなことをする奴らがいるのか? 」


 サムライが顔をしかめつつ、つねられたところをさすりながら問いかけると、「はいですにゃ」とマオははっきりとうなずいてみせる。


「まぁ滅多にいないんですがにゃ。いいですか、プリーム金貨一枚は、メイファ金貨八枚、もしくはアセスター銀貨十枚と交換になりますにゃ。これは銅貨に換算しますと、メイファ銅貨で八千枚、アセスター銅貨で一万枚になる計算ですにゃ。手数料は一パーセントくらい取られるのが相場ですから、それ以上高額な請求をされる場合は悪徳業者の類に入りますにゃ。騙されないように気をつけて欲しいですにゃ~」


 それから彼は、源九郎とフィーナが損をしないように必要な情報を嬉々として教えてくれる。


「な、なんだって? 」「も、もーいっぺん、おねげーするだ! 」


 しかし二人は一度では覚えきれずに戸惑い、朝食のスープを口に運んでいたスプーンを止めて、困った顔をマオの方へと向ける。

 サムライはこの世界の通貨単位やルールにまだ慣れていなかったし、元村娘はそもそもお金という物に縁のない生活を送っていた。

 だから急に交換比率だの手数料だのと言われても、わけがわからないのだ。


「ふぅむ、でしたら、こういうのはどうでしょう? 」


 そんな二人の様子を見て取ると、マオは一瞬だけわずかに双眸を開き、それから体の前で肉球と肉球を重ね合わせ、揉み手をし始める。


「お二人にお渡しする分の金貨も、ミーが両替して差し上げましょう。そしてそこから手数料を差し引いた分をお渡しいたします。……ただし、手間賃として、手数料と同額をいただきたいですにゃー」

「んなっ!? そ、そこはしっかり取るのかよー」

「もちろんですとも! ミーは商人、タダで[お仕事]はしないんですにゃー」


 源九郎は驚いて口をへの字にしたが、マオは少しも悪びれた様子もなく、揉み手を続けている。


「……な~んて、冗談ですにゃ! 」


 だが、すぐに彼はそう言うと、ぽん、と手を叩いてみせた。


「ここまで旅をしてきたのも何かのご縁ですし、今回はおまけして手数料はミーの方で負担しちゃいますにゃ! お二人にはプリーム金貨二枚分をきっちりお渡しいたしましょう! 」

「えっと、手数料負担って、いいのかい? マオさん? 」

「あっはっは、まぁこちらも十分利益が見込めますから、初回限定サービス、ということで。ただ、もしよろしければ、またどこかで出会った時にごひいきにしていただきたいですにゃ~」

「ああ、もちろん、そんなことでよければ! 」

「マオさん、太っ腹だべ! 」


 そのサービスの申し出に、二人とも喜んで乗ることにした。

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