・3-6 第104話 「検問所:2」
列の進みは遅かったが、かといって、検問所で検査を行っている兵士たちがさぼっているわけではなかった。
ポケットの中身までいちいちすべて確認しなければならないために、あまりに作業に手間がかかり過ぎるのだ。
まず兵士たちが旅人や商人の荷物を隅々まであらため、それから魔法使いが衣服の内側に怪しいものが隠されていないかを取り調べる。
そこまでやってようやく城内へ入る許可が下りるらしい。
検問所の責任者らしい、兵士の服装ではなく、青色のジャケットに少しくすんだ白のズボンという姿の役人風の男が許可証を発行して渡すと、調べの終わった旅人は荷物を取りまとめ、ペコリ、と軽く会釈してから城内へと向かっていく。
馬車などの大荷物が通過しようという時は、大変だった。
兵士たちは苦労して馬車の荷物を一度すべておろして確認し、馬車自体にもなにか細工がされていないかを必ず確認しているからだ。
検査が終わってやっと城内に入れることになってもまた荷物を積み直さなければならない商人や運送業者は、少し恨みがましい視線を兵士たちへと向けていた。
「厳重だっていうのは聞いていたけど、本当に厳しいなぁ……。これじゃ本当に、日が暮れちまいそうだぜ」
「前は、厳しいといってもここまでではなかったはずなのですが。なにかあったんでしょうかにゃ? 」
検問所の検査には、源九郎だけではなくマオも戸惑いを隠せない様子だった。
どうやら以前はこれほど厳しくはなかったらしい。
その後も列はのろのろとしか進まず、ようやく一行の番になったのは、本当に日が傾き始めてからのことだった。
「人間が二名、
「観光と休養、それと商いを少々」
青い服の、少し疲れた様子の役人の確認に、応対を買って出たマオが揉み手しながら愛想よく応じる。
「観光と休養はともかくとして……、商い? 」
「なぁに、大したものは売り買いしませんにゃ。旅に必要な路銀を稼ぐために、少々」
マオがそう説明するのに合わせて、源九郎とフィーナが一斉に背負って来た荷物を差し出す。
旅の間に必要な道具に、村を助けて入手した毛皮などの商品。
役人と同じく長い検問作業で疲れた様子の兵士たちはそれらを丹念に取り調べて行った。
そしてその間に一行は、魔法使いによる検査も受けた。
「ふむ、異常はなさそうだな。……と、キミ、その背負っている革袋の中身はなんだね? 」
問題ないという兵士の言葉を聞き、書類に入城を許可したことを示すサインと日付を書き始めた役人だったが、ふと、まだ確認していないものを見つけて手を止めた。
「こ、これは、ミーの大事な財産なんですにゃ」
問われたマオは、言いづらそうに口ごもる。
すると役人はいぶかし気に顔をしかめ、兵士の一人に合図して取り調べさせた。
「いや、マオさん、さっきまで愛想よかったのに。あれじゃ疑ってくれって言ってるようなものじゃないですか」
「う、うー、そうなんですが……。だけど、実は十枚ものプリーム金貨って、ミーも初めて手にしたくらいの大金でして、どうにも緊張してしまうというか」
「わかる、わかるっぺよー、その気持ち! 」
ひそひそと話し合っていると、革袋の中身を確認していた兵士から、「おおっ!? 」と驚きの声が漏れる。
「……ほほぅ、プリーム金貨か」
少し慌てた様子の兵士の報告を受けると、役人は少し双眸を細め、鋭い視線をマオへと向けた。
「申し訳ない。実は先日、国王よりのお達しがあり、城内へプリーム金貨を持ち込もうとする場合には格別の注意をせよと、命じられているのだ」
「そ、そんな、ミーたちは中に入れてもらえないのですかにゃ!? 」
突きつけられた冷たい印象のする声に、マオは驚いて両手をあげ、普段は閉じている目を見開いて悲鳴をあげた。
「安心なされよ。特別検査を実施した後、問題がなければ許可は出してよいことになっている。もちろん、金貨も没収したりせず、そのままお返しする。ただ、しばし余計に時間をいただかねばならない」
どうやらプリーム金貨を持ち込もうとする者は全員入城拒否、というわけでもないらしい。
その説明にほっとした一行だったが、しかし、彼らは列から離れた場所で、より厳重な検査を受けなければならなかった。
といっても、あらためて調べられるのはプリーム金貨だけだ。
兵士の一人に案内されて向かうことになったのは城壁の手前に作られた天幕で、兵士たちの詰所兼休憩所となっている場所だった。
そしてそこには今まで表に出て来ていなかった、一人のドワーフが待ちかまえていた。
暇そうに足を机の上に投げ出してイスに座っていた彼だったが、一行がやってきたことに気づくとすぐに居住まいを正し、真面目な様子になって兵士からマオのプリーム金貨の入った革袋を受け取った。
どうやら彼は、プリーム金貨について鑑定するためだけにこの場に呼ばれていた技師であるらしい。
まずルーペを取り出した彼は、金貨を一枚一枚、丹念に、しかも両面だけではなく側面までもチェックすると、それからテーブルの上に設置されていた秤にかけ、慎重に何度も重りを入れ替え、金貨の質量を測定していく。
その光景を、一向ははらはらとしながら見守っていた。
というのは、金貨を調べるドワーフの様子があまりにも真剣で、表情が険しく厳つく、いったいなにをそんなに調べているのだろうと思わず不安になってしまうほどだったからだ。
「ふぅむ……。ここにある道具でわかるだけは確認してみたが」
やがて技師のドワーフは天秤からすべての金貨を革袋に戻すと、難しそうな顔で豊かなヒゲを指でしごきながら結果を告げる。
「この金貨については、問題は認められなかった。この人たちは通しても問題ないと、役人殿にお知らせくだされ」
その言葉に、源九郎もマオもフィーナもみな、ほっと胸をなでおろした。
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