・3-5 第103話 「検問所:1」
王都の城門をくぐるためには、時間がかかる。
マオがそう言っていた通り、一行が並んだ列の動きはのろのろとしていて遅かった。
原因はどうやら、厳重な持ち物検査のためであるらしい。
昼の間は開け放たれている城門の手前側に作られた検問所には、平時だから軽装で制服の上に鎖帷子を身につけ兜をかぶり、腰に剣を差しただけの兵士が何人も集まっていて、人々を呼び止めては事細かに調べている。
背負ったり手に持ったりしている荷物はもちろん、ポケットの中まで。
「なぁ、マオさん。あの……、魔法使いみたいな人って、なんだ? 」
そして厳しく検査を行っている兵士たちの中に、全身を覆うフードつきのローブを身にまとい、手にうねうねと折れ曲がりうろの空いている木でできた杖を持っている人物が混じっているのを見つけた源九郎は、マオの三角耳に顔をよせてひそひそとたずねる。
するとマオは、怪訝そうな顔でこちらの方を振り返った。
「魔法使いみたい、って……、あの人は、魔法使いですにゃ。服の下になにか怪しいものを隠し持っていないかどうか、魔法を使って取り調べているんですにゃ~」
「な、なるほど、魔法使いね……」
源九郎はそう言われて、ここが地球ではなく異世界であるということを思い出していた。
自分をこの世界に転生させる力を持った神がいるのだ。
魔法使いがいたっておかしくはない。
「おら、初めて見ただよ、魔法使いさま」
源九郎の隣で、フィーナが感嘆する声を漏らしつつ、興味深そうに首をのばして検問所の方を見つめている。
どうやら魔法使いも、彼女が生まれ育った辺境地域にはなかなかいないものであったらしい。
その視線の先では魔法使いが検査を受けている旅人に向かって腕をのばし、杖の先端を向けているところだった。
「この辺りでも、珍しいのか? 魔法使いって? 」
できればこの世界についての情報をより多く知っておきたい源九郎がたずねると、マオは大きくうなずいた。
「ええ、そりゃぁもう、滅多にお目にかかれませんにゃ! なにせ、魔法を使えるのはエルフ族か、ナビール族だけなんですからにゃ」
「エルフ族もこの世界にはいるのか……。やっぱり耳が長くて、背が高くて、美男・美女ばっかりなのか? 」
「ミーもそう聞いておりますにゃ。ただ、エルフ族の方々は滅多に他の種族とは関わらずに、それぞれの秘密の故郷でひっそりと生きている、幻のような人々なのですにゃ。ミーもそこそこ旅をしていますが、また見たことがないんですにゃ」
「それで……、ナビール族っていうのは、けっこうあちこちにいるのか? 」
「えっ!? ……源九郎さんの住んでいたところには、ナビール族ってあまりいらっしゃらないんですかにゃ!? 」
源九郎は何げなくたずねたつもりだったのだが、マオには大げさに驚かれる。
「お、おう、まぁな。その、ナビール族って、この辺じゃいて当たり前、だったり? 」
その驚かれ方に少し面食らいつつ、なんとかサムライは話をつなぐ。
実を言うと彼は、自分が異世界人であるということを明かすかどうか決めかねていた。
というのは、神の方針である世界に対する不干渉は、一面では正しいと認めているからだ。
もし[神]が実在し、人々がその力を、たとえば死んだ人間を復活させて転生させる、などということができることを知ってしまえば。
きっと、自分も死者を転生させて欲しい、あるいは自身を転生させて欲しいと神に願うようになり、そしてそれは神が危惧していた、その力を求める人々の対立という望まぬ状態になりかねない。
マオやフィーナに異世界から来たのだと知らせても別段、なんの問題も起こらないはずだったが、しかし、そこからさらに話が広まっていった場合、どうなるかわからない。
だから源九郎は、慎重に自分が転生してきたことを黙っている。
「まぁ、いない地域もあるのかもしれませんが……、この辺りでは珍しい方々ではありませんにゃ。なにせ、ナビール族というのは貴族や王族に連なる方々ですから」
「なに? じゃ、貴族や王族のことをそう呼んでるってことか? 」
「そうじゃありませんにゃ。ナビール族というのは元々、エルフと人間との混血種族のことを指しているんですにゃ」
「エルフと人間の混血? でも、エルフ族ってのは、自分の故郷に暮らしていて、外界との関わりはほとんど持たないって……」
「遠い昔、古王国時代よりももっと昔はそうではなく、その時代にはさほどエルフ族は珍しい存在でもなかったのだそうですにゃ。というのも、伝説によれば元々エルフ族というのは神が人々に技術や文化を伝えるためにつかわした方々なのだそうでして。そしてナビール族は、その時にエルフ族と人間族が交わって生まれた混血種族の子孫たちなのですにゃ。彼らはエルフ族の特別な力、魔法の力だけではなく、長命や、優れた容姿などの素質を受け継いでおりますにゃ。そのために、貴族となったり、王族となったりしているのですにゃ。それはどこでも大体そうなっているはずなんですが、そちらのご出身では違ったのですか? そんな場所もあるんですかにゃ? 」
「いや、それは……」
源九郎とマオが話し込んでいると、フィーナがくいくい、とそでを引いて来る。
「おさむれーさま、マオさん、列が進んでいるっぺよ。早くおらたちも動かねーと、後ろの人らに怒られっぺ」
どうやら話し込んでいる間に検問所へ向かう列が進んでいたらしい。
後ろに並んでいた人たちからさっさと前に進んでくれよという視線を感じた一行は、慌てて先に進んでいた人々に追いつくのだった。
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