・1-45 第60話 「神、どこにいる!? :2」
自分の力を際限なく行使し、人々の望みをすべて叶え続けると、どうなるのか。
人々は自らの力で生きることを忘れ、そして、最後には生に飽き、終焉を望むようになる。
そうして滅んだ世界を、神はこれまでにいくつも目にしてきた。
だから、長老を、この村を救うことはできない。
その理屈は、源九郎にも理解はすることができた。
望めばそれがすべて叶う世界。
それは誰もが理想とする世界だったが、しかし、実際にそんな世界が実現したら、つまらないだろうなと思うのだ。
そんな世界にはきっと、夢も、希望も存在しないだろう。
なぜならそれは、思い浮かべた瞬間には神の力によって叶えられてしまうからだ。
そんな世界ではきっと、誰もが生きる意味や目的を持つことができないだろう。
「そんなの、長老さんや、この村の人たちには、関係ねぇじゃねぇかよッ!! 」
しかし、源九郎はそれで納得はできなかった。
確かに、神が過度に力を使い過ぎれば、よくないのだろう。
だからルールを作り、自身が神として存在する世界に干渉することを避けるというのは、ある程度理解できる考え方だ。
だが、この村は、なに一つとして満たされてはいない。
人々は重税に苦しみ、飢餓を心配し、野盗に襲われている。
そんな村になにも助けを差し出さないのは、おかしいと思うのだ。
「この村の人たちは、どん底だ!
だけど、あきらめないで、懸命に生きようとしている!
みんな立派な、いい人たちじゃないか!
しかも、この人たちには何もかもが足りちゃいない!
それをアンタがほんの少し補ったとしても、なんの不都合もないじゃねぇかっ! 」
「例外を作れば、必然的に、我も、我も、と、人々は群がってくるのです」
しかし神は、源九郎の指摘にも、淡々とした口調でそう言うだけだった。
「1度でも我が力を使えば、人々はその力の存在をアテにするようになってしまいます。
人々は自身の力によってなにかを成そうとするより、神の奇跡を求めて熱心に祈るようになります。
ですが、
「なら、力を使う回数を絞ればいいじゃねぇか! 」
「それでは不公平が生じます。
なぜ彼の願いは叶えられて、自分の願いは叶えてもらえないのか。
その差は不満を呼び、人々の間に対立の種をもたらします。
源九郎。
あなたの世界のとある神話では、世界で初めての殺人は、神がある兄弟の一方の捧げものだけを受け入れて寵愛し、もう一方の捧げものを無視して冷遇したことで起こったとされていますよね? 」
「いや、そんな話は、知らねぇんだが……」
源九郎は顔をしかめた。
神が指摘したのは、カインとアベルという2人の兄弟の間に起こったとされる逸話だったが、源九郎は宗派が異なるしそういった神話に強い関心はなかったから知らないのだ。
ただ、神がなにを言いたいのかだけは、理解することができる。
おそらく、この世界ではこんなことは当たり前に起こっていることなのだ。
貧しい村が野盗に襲われ、焼かれて、そこに暮らしている人々が傷つき、死んでいく。
もしも神がこの村を救ったとしよう。
すると似たような境遇にある村では、「なぜ自分の村も救って下さらないのか」と不満が出る。
そしてその不公平感は新たな対立を生み、人々の間に争いを生むのだ。
まだ納得はできなかったが、理屈は理解できてしまった以上、源九郎はそれ以上、神に強く迫ることはできなかった。
「……なら、俺の命を、長老さんに使ってくれよ! 」
しばらく考え込んだ後、源九郎は自身の胸に右手の拳を当てながら、神に向かってそう叫んでいた。
「俺は、元々はもう死んじまった人間だ!
それなのに、この世界に転生したんだ!
自分の世界の人間じゃないから、俺を転生させて連れてくることができたんだろう!?
だからさ、この世界のことじゃない、特殊な事例ってことで、なんとかならねーかな!? 」
せっかく転生できたというのに、その命を失う。
それは残念だし、死というモノに向き合うことはあらためて恐ろしいとは思うが、しかし、目の前で救えたかもしれない長老が死んでしまったのだ。
彼の命を救い、この村をまた平和にできるのなら、自身の命をかけても決して悔いはない。
源九郎はそう思っていた。
「ダメです」
しかし神は、静かにその申し出を拒絶する。
「あなたの命を使って、その老人を生き返らせることは、可能です。
いえ、そのようなことをせずとも、我が力を持ってすれば、簡単にできることです」
「じゃぁ、なんでダメなんだよ!?
俺の命と引き換えにっていう条件があれば、他の人たちだって、おいそれとマネできないじゃねぇか! 」
「以前、同じことをしたことがあったのです。
……そしてその世界では、その後、
ですから、源九郎。
あなたのその願いは、受け入れられません」
この世界は、神が例示した世界とは違う。
同じようなことになるとは限らない。
源九郎はそう言いたかったが、しかし黙り込んだ。
神の断固とした口調から、自分が何を言っても受け入れてはくれないと思ったからだ。
代わりに、源九郎は自身の拳を強く握りしめていた。
肌が白くなり、関節が
そして空中に漂う神を勢いよく見上げ、睨みつけると、源九郎は怒りのこもった声で絶叫する。
「じゃあ、アンタ!
いったいなんだったら、できるっていうんだよ!? 」
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