・1-32 第47話 「腹を割って:3」
※作者より
皆様、明けましておめでとうございます!
昨年は、大変お世話になりました。
本年はより一層お楽しみいただけますよう頑張って参りますので、どうぞ、熊吉をこれからもよろしくお願い申し上げます!
また、本作は、カクヨム様にて、コンテストに参加しております。
もしよろしければ、フォロー、そして☆評価等をつけてくださると嬉しいです!
それでは、どうぞ、本編をお楽しみくださいませ!
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「長老さん。
お分かりだと思いますが、俺は別に、なにか見返りが欲しくって、野盗どもと戦うって言いだしたわけじゃありません。
それが、正しいと思ったから。
自分の考える正義にかなっていると思ったから。
だから、この刀を振るおうと思ったんです」
長老の考えていることは、源九郎にも理解できる。
自分の力で、生きていく。
他人にすがらなければ生きていけないような弱々しい存在ではなく、1個の独立した存在として、堂々と生きていきたい。
その気持ちは、源九郎も少なからず持っているのだ。
正義のヒーローに、自分の思い描いた[サムライ]になる。
そう思い立った源九郎は実家を飛び出し、そして、その夢を叶えるために両親を頼ろうとはしなかった。
元々、自分の好きなように生きるために家を飛び出したのだ。
今さら両親に「助けて」などと言うことはできなかったし、そんなつもりは源九郎にもなかった。
時には誰かを頼ってもいいだろう。
自分1人の力ではどうにもならないことは間違いなくあるはずだったし、そんな困難に直面した時、周囲を頼ることは決して恥ではない。
それは、弱さではない。
無理に自分の力だけで挑んでいって、折れてしまうよりは、誰かの助けを借りるべきだ。
そうすることができるという幸福に感謝しつつ、堂々と頼ればいい。
きっと、頼られた人々はそのことを喜んでくれるはずだ。
だが、それをするのはまず、自分自身の力を出し切ってからだ。
自分の限界までを使い切り、それでも足りないとわかった時に初めて、助けを求めるのだ。
そうしなければ、それは本当に、自分の力で勝ち取ったものだとは胸を張って言えない。
源九郎は、「俺はサムライだ」と胸を張って言えなくなる。
長老も、それと一緒だ。
ここで安易に源九郎に頼り、命までかけさせてしまっては、「ここはオラたちの村だ」と堂々と言えなくなってしまう。
自分たちで努力を尽くさずに源九郎に頼ってしまったら、そえは、「オラたちの村」ではなく、「源九郎の村」になってしまうのだ。
「だから、お願いします、長老さん」
長老がなぜ、自分に、サムライに頼ることを拒んでいるのか。
その理由を理解することができる源九郎は、そう言うと、長老に向かって頭を下げていた。
力を貸して「やる」、ではない。
力を貸させて「欲しい」。
そう言わなければ、源九郎が自分自身の想いから自発的にこの村の厄介ごとに首を突っ込むという立場でなければ、長老を納得させることなどできないはずだからだ。
少なくとも源九郎が長老と逆の立場であったら、そう言われなければ納得することはない。
「ほんに……、アンタ、ええお人だな……」
源九郎の誠実な言葉は、長老にも伝わっているようだった。
自然に長老の口から
「ならっ」
長老の心が揺れ動いている。
そう感じ取った源九郎は、ガバッ、と顔をあげている。
どうか、この村のために戦わせて欲しい。
そのまっすぐな気持ちを認めて、受け入れてもらえると、そう思ったのだ。
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源九郎は期待と共に顔をあげたが、しかし、長老は何も言わなかった。
「あの……、お酒、持って来ただよ」
その時ちょうど、猟師の家に酒を取りに行ってきたフィーナが戻って来たからだ。
手には小さな、持ち運びのできる陶製の容器を持っている。
なんの飾りも模様もない陶器で、表面は土の色を濃く残していて側面には持ち手があり、上の方はビンのように細長くなっている。
最上部の口の部分には、コルクで栓がしてあった。
酒、といっても、ほんの1合程度しかないのだろう。
悪いタイミングで戻ってきてしまったなと、源九郎と長老の様子を見てバツが悪そうな顔をしたフィーナがおずおずと部屋の中に入ってくると、容器の中でちゃぷちゃぷと音がする。
小さな容器なのに、半分も入っていない様子だった。
「すまねぇな、フィーナ。
コップも1つ、取ってくんねぇか? 」
「えっと、長老さま。コップは1つだけで、ええんだか? 」
「ああ、それでええ。
どうせ、2人で飲むには足りねぇくれぇしか、量がねぇだろうしな」
長老と源九郎に挟まれたテーブルの上に酒を置いたフィーナに、長老が申し訳なさそうな口調で頼む。
自分で取りに行けばいいものをなどと、フィーナはそんな風に考えた様子もなく、素直にコップを取りに行く。
長老の足が不自由で、身の回りのことは自分がしてやらねばならないことを、フィーナはよく知っているし、身寄りのない自分を引き取って育ててくれた長老に恩を感じてもいるからだった。
やがてテーブルの上にコップが1つだけ並ぶ。
木を彫り出して作った、小さな、マグカップほどの大きさのコップだった。
きゅぽん、とコルクの栓を抜いた長老は、そのコップにとぽとぽ、と酒を注ぐ。
注がれた酒の色は、濃い紫色をしている。
どうやらワインの一種のようで、アルコールの匂いの中に、果実由来のものらしい爽やかで酸味を想起させる香りが混ざり合っている。
「去年の秋に、森で取れた山ブドウを使って作った酒だっぺ。
毎年な、猟師の家のもんが、自前でこさえとるんだよ。
都会で売っとるようなもんとは比べ物にもならんような素っ気ねぇもんだが、まぁ、酒には間違いねぇでよ」
村にはブドウ畑などなかったから、このワインは森で採集された、完全に天然由来の材料で醸造されたものであるらしい。
それぞれの家庭で作られている、ハンドメイドの酒だった。
「さ、旅のお人。
ぐっと、やっておくんな」
そして長老はそう言うと、ワインの注がれたコップを源九郎の方へ差し出してきた。
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