・1-6 第21話 「分かりやすい状況」
※作者注
本話、閲覧注意です。不愉快に思われる方がいらっしゃるかもしれません。
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源九郎はすぐ、声を出すために開いていた口を閉じ、険しい表情を作った。
小屋の中で、男たちが話している声が聞こえて来たからだ。
小屋の中にいる男たちは、優越感と欲望に満ちた声で話していた。
「へっへっへ……、そのまま大人しくしていな? 嬢ちゃん。
これから、たっぷりとかわいがってやるからよォ……」
男の1人が下品な声で、もう逃げ場のない獲物をなぶるようなねっとりした口調で言う。
どうやら神は、この世界の言語を源九郎がちゃんと理解できるようにしてくれていたらしい。
「しっかし、アニキ、あの村、しけてますねー。
まともに食い物もよこせないってのに、女まで、こんな貧相な……。
てか、コイツ、ほとんどガキじゃないっすか? 」
続いて、少し斜にかまえたような気取った男の声。
「フン、文句があるなら、お前は外で見張りでもしていればいい」
3人目の声は、少し威張っている。
おそらくこの声が「アニキ」で、今、小屋の中にいる3人の中ではもっとも格上なのだろう。
「どうせ、あの村にゃ年増しかいねぇんだ。
確かにこいつは貧相なガキだが、あの村じゃ一番[女]に近い。
ババアを抱くより、ガキの方がよっぽどマシってもんだろう?
それに、やっちまえば気にならねぇさ」
「そうそう。
どうしてもこの女じゃ嫌だってんなら、お前は外で馬の世話でもしてな! 」
威張った声に続いて、下品な声の男が、吐き捨てるような口調で言う。
「そ、そんな、仲間外れはズルいですよ~。
オレだって、楽しいコトしたいですからね~」
すると、斜にかまえた声の男はおもねるように言う。
どうやらこの3人の中では一番の下っ端であるようだ。
そしてどうやら、良心から、この蛮行を
3人の男たちは全員、悪に染まりきっているようだった。
(少なくとも、まともな人間じゃなさそうだ)
源九郎は男たちの下劣な会話に不快感を覚え、表情を険しくする。
それから、音を立てないように背負って来た風呂敷包みを置くと、そっと刀の
そうしてから、そっと、窓から小屋の中をのぞいてみる。
するとそこにはやはり、3人の男たちと、1人の少女がいた。
3人の男たちはチュニックとズボンの上から鎧を身につけ、なめした皮でできた鞘に納まった
おそらくは、野盗の類だろう。
その薄汚れた風体だけではなく、装備している鎧は多くが欠損し部品が足りていないし、表面は錆が浮き出ているし、身に着けている武器も、お粗末な手入れしかされていないことから、源九郎はそう判断した。
どこかの戦場で戦死した兵士たちから奪ったモノを身に着けているのだろう。
そして、その3人の男たちの前には、1人の少女の姿があった。
(……まだ、小学生とか、中学生くらいじゃねぇかッ! )
その少女の姿を見て、源九郎の不快感は怒りへと変わった。
少女はまだ幼さの残る顔立ちで、背丈も大人の女性とは思えない、小柄なものだった。
身体つきも
髪の色は黒で、ミディアムショートほどの長さ。あまり手入れができていないのか少し薄汚れていて、ボサボサとしている。
肌は小麦色よりも少し濃い褐色で、恐怖に見開かれた瞳は、満月のように輝く金色をしていた。
服装は、髪と同じように薄汚れていて、ところどころほつれていたり擦り切れたりしている粗末な布でできたチュニック1枚だけ。
そして少女は、両手と両足をしばられ、さるぐつわを噛まされ、小屋の中に置かれた
男たちが自分に、これからなにをしようとしているのか。
少女はそれを理解しているのだろう。
彼女の見開かれた
(なんて、分かりやすい……! )
源九郎は、怒りを覚えつつも、そう呆れてしまっていた。
おそらく少女は、神が近くにあると言っていた村からさらわれて来たのだろう。
そして男たちは誘拐犯で、これから少女に対して[楽しい]ことをしようとしている。
典型的な、悪人だ。
しかも、三下、ドラマなどで正義の味方に悪事を暴かれた挙句、大勢で襲いかかったのに一方的に成敗されていく[やられ役]だ。
だが、これはドラマの撮影ではなかった。
このまま源九郎が黙っていれば、少女は男たちの慰み者にされてしまうだろう。
(絶対、そんなことはさせねぇ! )
もちろん、源九郎はそんな悪事が自分の目の前で起こることなど、認めるつもりはなかった。
悪党を懲らしめ、少女を救う。
そう決めた源九郎は、小屋の中へ押し入ろうと考えて扉へと向かおうとし、だが、すぐに考え直してきびすを返した。
この小屋は、小さい。
だからこちらから突入して行っても、満足に刀を振るうことが難しい。
なにより、少女を人質に取られでもしたら、どうしようもない。
(奴らを、おびき出すか……)
野盗たちと外で戦うと決めた源九郎は、周囲になにか、野盗たちをおびき出すのに使えるものがないかを探す。
するとその時、ヒヒン、と小さく
それはまるで、「自分を使ってくれ」と、源九郎に訴えかけているような声だった。
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