眷属

 村へと戻ったクラウスは、そこにおびただしい数の魔物の姿を見た。

 ざっと見ても五百は下らないのではないかと思えるほどの魔物が、村の中を徘徊している。


「こいつらは一体どこから湧いて出たんだ?」

「おそらく森の中にいたんだろうよ」

「森のどこかに隠れてたって事か?」

「いや、普通に暮らしてたのさ……元は森に住む獣だったみたいだな。人間だったのもいるみたいだぜ」

「こいつらは、あの眷属と関係あるのか?」

「ああ、間違い無くあれの仕業で、こんな事になってるんだろうよ」


 魔物たちの姿は熊や狼、蛇等の様々な生物によく似ていた。

 クドゥリサルの言葉通り、人に似た姿の者もいる。

 違うのはその姿が黒い影のような物で覆われていること、そしてその体躯が巨大化し、所々いびつに変形していることだった。


 クラウスはクドゥリサルを鞘から抜き放ちながら会話を続ける。


「で? お前の見立てはどうだ?」

「数は多いがそれだけだ。お前の相手にはならんだろう。だが、この間の眷属の姿が見えん。必ずいるはずだ。それだけは気を付けろ」

「わかった」


 頷き、クラウスは魔物達のうろつく村の中へと入っていった。

 その姿を認めた魔物たちが、威嚇するように声を上げる。

 クラウスは村の入口近くにある広場の中心まで歩いて行ってから足を止めた。

 その周囲を囲むように魔物たちが集まってくる。


 魔物たちは一定の距離を保ってクラウスを取り囲んでいた。

 周囲の魔物たちを、まるで意に介していないかのように平然と立つ人間の姿に、警戒心を抱いているのかもしれない。

 だがそんな状況がそう長く続くはずもない。

 しびれを切らしたのか、一匹の魔物が威嚇するような声を発しながら、クラウスに向かって飛び掛かってきた。


 その攻撃をゆるりとした動きで躱しながら、クラウスは剣を振った。

 跳躍した魔物の体は空中で両断され、二つの塊となって地に落ちる。


 それを合図とするように、周囲を囲んでいた魔物たちがクラウス目がけて殺到するように襲い掛かってきた。

 周囲の全方向から、ほぼ同時に飛びかかってきた魔物たちの攻撃をクラウスは躱し、その包囲をするりと抜け出していた。


 クラウスとすれ違った魔物たちは、例外なくその身を両断されて動かなくなる。

 無数の魔物たちが絶え間なく襲い掛かってくるのを、クラウスは慌てる様子も見せず躱しながら、捌いていく。


 その場には、ただ魔物の屍だけが、ひたすらに増えていった。






 クラウスが再び村へと向かってから一時間後。

 ローザは馬を駆り、ボルンの村へと急いでいた。

 その後ろには、四十騎程の騎馬が続いている。

 彼女は今、帝国の騎士団の一つである紅炎騎士団と共に移動していた。


 彼らは一月前にこの地域で起こった内乱を治めるために派遣されて、現在も治安維持のために駐留していた。

 それをローザは援軍として呼んだのだった


 村を一望できる丘の上まで辿り着いたローザは、そこで下馬する。

 騎士たちもまた彼女に続く。


 その丘の上から、ローザは村の様子を確認する。

 月明かりの中にクラウスが立っているのが見えた。

 その周りを無数の魔物たちが取り囲んでいる。

 さらにクラウスの周りには数え切れないほどの魔物の死骸が転がっていた。


『クラウス、聞こえる?』

『ああ、聞こえてる』

『助けは必要?』

『いや、大丈夫だ』

『そう……必要になったら言ってね?』

『ああ。ローザ、今はまだ近づくな。この間の眷属がまだ姿を見せてない』

『わかったわ。あなたも気を付けて』


 念話の術でクラウスと会話をしていると、一人の騎士が彼女に声をかけて来た。


「殿下、あれは?」

「ベルント卿、その呼び名は止めてと言ったでしょう?」

「失礼しました、ローザリンデ様」

「あれは私の雇った騎士よ。まだ危ないから近づくなって言われたわ」

「しかし、一人であの数の敵と戦わせるつもりなのですか?」

「彼なら大丈夫よ。本人もそうさせろと言ってるしね」


 ローザの言葉に、騎士……ベルントは納得がいっていないような表情を浮かべていた。

 たった一人であの数の魔物を相手にするなど、普通では考えられない。


 その気持ちはローザにも良くわかった。

 彼女自身クラウスのことをそれほど理解できてはいないのだ。


 彼についての話を聞けば聞くほど、頭が混乱してしまう。

 一度死んで蘇っただの、実は三百年以上生きているだの、荒唐無稽な話ばかり出てくるからだ。


 そして今、ローザはクドゥリサルの主であるという、クラウスの友人について考えていた。

 先日聞いたその友人の名が、あまりにも信じがたいものであったからだ。

 ローザは大きくため息をついた。


「どうされましたか?」

「少し考え事をね……アディメイムという名の銀髪金眼の人物と言ったら、あなたは誰を思い浮かべる?」

「それはもちろん、千年前に死の女神を封印した英雄を思い浮かべます」

「……その英雄が持っていたと言われる、意思を持つ剣の話は知っている?」

「はい。英雄の所持していた三本の宝剣のうちの一本が、解語の剣と呼ばれる意思を持つ剣であったはずです」

「……そうよね」


 ローザは一人村の中に在るクラウスに視線を戻す。


 アディメイム。

 それは千年前に死の女神を封印したと言われる英雄の名だ。

 神の血を引く彼はローザと同じ銀髪金眼であったと言われている。

 また、彼の持つ三本の宝剣のうちの一本が、意思を持つ剣であったとも伝えられていた。


 アディメイムは死の女神を封印した後、様々な不幸に見舞われたという。

 そして最期は狂ってしまい、自身の妻に殺されたと伝えられている。


 その千年前に死んだ筈の英雄と、クラウスの友人であり、彼にクドゥリサルを譲ったという人物の特徴が一致する。

 もしかして自分はとんでもないペテンに掛けられているのではないかとも考えてしまう。

 だが、クラウスやクドゥリサルが嘘をついている様には感じられなかった。


 さらに、先日遭遇した得体の知れない存在は死の女神の眷属であるという。

 一体何処から何処までが真実なのか、ローザにはわからない。


 だがもし本当にクドゥリサルが英雄の所持していた伝説の宝剣で、クラウスの友人が千年前に死んだはずの英雄その人であったなら……。


 この地にローザの運命を大きく変える出会いがあると、彼女にそう伝えた師の顔を思い浮かべる。


「婆や……私の運命が変わる程度じゃ済まない気がするわ……」







 クラウスは剣を持った手をだらりと下げたまま、ただ立っていた。

 剣を構えることすらしない彼の周りを、魔物たちが取り囲んでいる。


 無防備に佇んでいるように見える彼に対して、魔物たちは手を出すことすら出来ずにいた。

 クラウスの周りには数え切れぬほどの魔物の屍が転がっている。

 近付けばその屍の仲間入りをするだけであると、魔物たちも理解しているのだろう。


 だがその状況にしびれを切らした魔物がクラウスに飛び掛かり、両断されて地に落ちる。

 クラウスが手にした剣を振るうたび、手近な魔物の四肢や首が宙を舞う。


 そんなことを何度か繰り返し、地に横たわる魔物の屍がゆうに百を越えた頃。


 魔物達が突然下がってクラウスから距離を取り始めた。

 それだけではない。

 魔物たちは大きく左右に広がり、何かを出迎えるように道を作る。

 その向こうから、一人の女が歩いて来るのが見えた。


 美しい女だった。

 闇のような色の黒髪と、同じく闇のような漆黒の衣を纏っている。

 その黒の中にあって、顔や手などの肌の露出した箇所の雪のような白さが浮き上がって見えた。

 さらにその白さの中で、真っ赤な色をした瞳と唇の鮮やかさが際立っている。


 その女の足元から円状に闇が広がっていった。

 その闇に飲み込まれた箇所の草が枯れ、塵となって消えていく。


 距離の目測を誤ったのか、少なくない数の魔物たちがその影響範囲に入ってしまい、そのまま干からびて塵となる。


 女はクラウスと十歩程の距離まで近付いて足を止めた。

 その地面を覆う死の闇の中に、女とクラウスの二人だけが立っていた。


「ようやくお出ましか」


 クドゥリサルが呟く。

 数日前に出会った、あの影の主がこの女なのだろう。

 女……死の女神の眷属がクラウスを見てわずかに警戒したような表情を浮かべる。


「我が領域の中に在って平然としているとは、随分と上等な護りを身に付けているようだな?」

「……ああ、そうかい?」


 クラウスはその眷属が何を言っているのか理解できず、適当に言葉を返す。

 そして手にした剣に問いかける。


「お前の見立てはどうだ?」

「問題ねえが、一つだけ気を付けろ。あれは霊体だ。一太刀じゃ殺せん。魔力を削り切るまで攻撃し続けろ」

「へえ、そんなのがいるのか」


 二人の会話が聞こえていたのか、眷属は不快気に表情をゆがめる。


「貴様は……たった一人でここに立って何をするつもりなのか? その身一つで、偉大なる神のしもべたる私に挑もうなどと考えているのか? 人間風情が随分と思い上がったものだな?」


 それに応えるようにクドゥリサルがあざけるような声を上げる。


「まあ、お前程度ならな。所詮眷属だ。本物のルツェルハ神と比べたら大したこたぁねえや」


 そのクドゥリサルの言葉を聞いた眷属の眉が吊り上がる。


「貴様……今我らの大いなるしゅ御名みなを口にしたか?」

「ああ、古い知り合いなんでな」

「知り合いだと? ……戯言ざれごとを!」


 眷属の表情が怒りに染まり、その足元から無数の黒い蛇のような形をしたものが、頭をもたげるように立ち上がってくる。


 その闇の蛇が一斉にクラウスに向けて殺到してくる。

 その無数の蛇の攻撃は人が通り抜ける隙間など無い様に見えた。

 だが到底躱すことなど不可能と思える攻撃の、そのことごとくが空を切る。

 クラウスはまるで流れる水のように、闇の蛇の間をすり抜け、眷属との間合いを詰めていた。


 まさか攻撃の隙間を縫って接近されるとは思っていなかったのか、眷属はたじろいでいるように見えた。

 そのままクラウスは眷属に斬撃を浴びせる。


 眷属は完全にクラウスの力量を見誤っていたのだろう。

 自分に傷を付けることが出来るとは思っていなかったのか、その顔が驚愕に歪む。

 下がって距離を離そうとするが、クラウスはそれを追い、斬撃を繰り出し続ける。

 眷属はなおも距離を取って逃げようとするが、クラウスは剣が届く間合いを維持したまま、その動きについていく。


 逃げながら闇の蛇による攻撃を繰り出すが、クラウスにはまるで当たらない。

 眷属の顔に怒り、焦り、憎しみといった様々な表情が目まぐるしく浮かび上がっていく。


「AAAAAAHHHHHHHHHHHHHH!!」


 突然眷属が鼓膜を突き刺すような叫び声を上げた。

 クラウスはその声に何らかの力が込められているのを感じ取る。

 おそらくは、何らかの能力を使用したのだろう。


 クラウスは敵を追う足を止め、手にした剣に問いかける。


「今のはなんだ?」

「あれは死の呼び声って呼ばれてる権能だ。あの叫び声を聞いただけで生命力を奪い取られる。並の人間ならそれだけで死んじまうだろう」

「あれも俺には効かんのか?」

「ああ。だが後ろの連中には影響があったかもな」


 その言葉を聞いて、クラウスはそれほど離れていない場所にローザ達がいたことを思い出す。


「まあ、あの程度で死ぬような弱い奴はいなさそうだから気にすんな。距離もあるし被害も大したもんじゃ無いはずだ」








 眷属の叫び声を聞いたローザは、軽い立ち眩みを覚え、わずかにふらついていた。


「……今のは?」


 クラウスの様子を確認するが、問題が起きているようには見えなかった。

 ローザは後ろに居並ぶ騎士たちに目を向ける。


「ベルント卿、被害は?」

「確認します。副団長、君は大丈夫か?」

「はい、団長」

「ならば団員の被害を確認して報告してくれ」

「了解しました」


 副団長が確認のために立ち去った後に、ローザはベルントの様子を確認する。


「あなたは大丈夫?」

「はい、少し立ち眩みがした程度で問題はありません。しかし、今のは一体……」

「精霊の中には、その声を聞いた者の生命力を奪い取る力を持つ者がいると聞いた事があるわ。おそらく、それと似たような能力なんでしょうね」


 この丘の上から村までは相当な距離がある。

 にもかかわらず、わずかとはいえ影響を及ぼす程なのだ。

 至近距離であの声を聞かされていたらどうなっていたか。


 やがて被害の確認を行っていた副団長が戻って来た。


「三人が意識を失い、現在治癒術師の治療を受けておりますが命に別状は無いようです。それ以外には大きな影響を受けた者はおりません」

「そうか。その三人に騎士を二人付けて休ませてくれ」


 あの叫びは、この距離で屈強な騎士を昏倒させるほどの力を持っているということになる。

 ならば並の人間、特に子供や年寄りなどは、この距離であっても命を落としかねない。

 クラウスはその声を至近距離で聞いたというのに、まるでその影響を受けているようには見えなかった。

 ベルントもそれに気付いたのだろう。

 困惑した表情でローザに問いかけてきた。


「それにしても……あの戦士は一体何者なのです?」

「私も数日前に出会ったばかりなの。クラウスという名で以前は傭兵をやっていたのだそうよ」

「傭兵ですか? クラウスという名の?」


 ベルントが驚きの声を上げる。

 その反応を見て、ローザは先日冒険者から聞いた噂を思い出す。

 クラウスという名の傭兵が紅炎騎士団の団長との一騎打ちに敗れ、死んだという噂。


「知っているの?」

「……いえ、私の知っている人物と同じ名でしたので」

「それは一月前にあなたが戦場で倒した傭兵の事?」


 ローザの問いかけに、ベルントは再度驚きの表情を浮かべる。


「ご存じなのですね。ですが彼は死にました。ローザリンデ様の騎士とは同名の別人なのでしょう」

「その傭兵の顔は覚えている?」

「はい、覚えております。素晴らしい戦士でした。忘れられるはずがありません」


 そのベルントの言葉を聞いて、ならばじきに答えは出るのだろうとローザは考える。

 クドゥリサルは言っていた。

 クラウスは一度死に、狭間の世界で数百年の時を過ごして帰ってきたのだと。


 これまで、その荒唐無稽な話を信じる根拠となるような物は何も無かった。

 それを証明することのできる人物が、今彼女の目の前にいる。


 クラウスの顔を見たベルントがどのような反応を示すのか。

 もし彼がベルントの知っている傭兵と同一人物であったなら……その時はクドゥリサルの言葉を信じる以外に無いだろう。







「なぜだ? この距離で……なぜ平然としていられる!? 貴様、本当に人間か!?」

「ああ、少し前までは違ったかもしれんが、今は間違い無く人間だ」


 クラウスに問いを投げ掛ける眷属の表情には焦りの色が見えた。

 対するクラウスには焦りや緊張といった感情は一切ない。

 表情一つ変えずに眷属と対峙している。

 さらに追い打ちをかけるようにクドゥリサルが声を上げる。


「自分でもわかってんだろ? お前のその力は強力だが、欠点も多い。自分より強い奴には効果が無いってことも知ってるはずだ」

「ありえん! 人の身で、大いなる神のしもべである私よりも魂の位階が上だとでも言うのか!?」

「その通りさ。現実を見ろ」


 クドゥリサルの言葉を聞いた眷属の顔が憤怒に歪む。

 闇の蛇がなおも攻撃を続けるが、相変らず空を切り続け、クラウスには届かない。


「何度やっても変わらねぇよ。お前程度じゃ、こいつに触れることすら出来ねえさ」


 眷属の攻撃は届かず、しかしクラウスの剣は眷属の身を何度も切り裂き続ける。

 やがて眷属の体の輪郭が揺らぎ始める。


「馬鹿なっ! こんな馬鹿なことが!!」


 叫ぶ眷属の体を縦に両断するように、クラウスの剣が振り下ろされた。

 切り裂かれた眷属の体は、それ以上元に戻ることは無く薄れ、消えていく。


「馬鹿な……人間ごときに……しゅよ、どうかお許しを……」


 恨めし気な声を残して、眷属の姿は消え去っていく

 それと共に辺りを覆っていた闇もまた消え去っていた。


「終わったのか?」

「ああ、終わりだ。それにしても……」

「どうした?」

「偶然とは思えねえんだ。この世界に戻ってきて最初に立ち寄った街の近くに、因縁のある神の眷属が現れたってことがさ」

「考えすぎだろ?」

「……そうだといいんだがな」


 そのクドゥリサルの言葉に重なるように、ローザの声が聞こえてくる。


『クラウス、終わった?』

『ああ、終わったよ』

『ありがとう。すぐにそっちに行くわ』


 クラウスはクドゥリサルを鞘に戻し、辺りを見回した。

 周りにいた魔物たちは全て倒れ伏していた。


「あの女が消えたら他の魔物も皆動かなくなったな」

「ああ、親玉が倒れたせいで、こいつらもあるべき姿に戻ったんだろう」


 そのまましばらく待っていると、ローザが騎士達を引き連れて村の中へと入ってきた。

 クラウスの前まで来て馬を降り、声をかけてくる。


「お疲れ様、怪我は無い?」

「ああ、大丈夫だ」


 クラウスに労いの言葉を掛けるローザの後ろで、一人の騎士が突然声を上げた。


「……馬鹿な、そんなことが……」


 その騎士は前に進み出て来て兜の面頬を上げ、顔を露わにする。

 その顔には信じられないといった表情が浮かんでいた。


「戦士クラウス……私を覚えているか?」


 問われたクラウスは笑みを浮かべる。

 懐かしい顔だった。


 この騎士からすれば、それはついこの間の出来事なのだろう。

 だがクラウスにとって、それは三百五十年前の記憶になっている。

 当時の記憶は、ほとんどが時を経て曖昧になってしまっていた。

 だがそれでも、この騎士が何者であったのかは覚えている。


 どれ程時が経とうとも、自分を殺した相手を忘れる筈が無い。


「……懐かしいな。ああ、覚えてるぜ。騎士ベルント」

「そう……やっぱり、知り合いなのね?」

「はい、知っています。ですが……」

「死んだ筈……なのよね?」

「間違いありません。確かにこの手で……」


 ローザが説明を求めるようにクラウスに視線を向けてくる。


「ああ、確かに俺はこのベルントと戦って、そこで死んだ」


 それを聞いたローザが心を落ち着けようとするかのように、大きく息を吐いた。


「クラウス……死んだはずのあなたが何をどうやって今ここにいるのか……後でその辺りの話を詳しく聞かせて貰える?」

「……馬鹿馬鹿しいくらいに荒唐無稽な話だが、それでもいいか?」

「ええ、ここまで来たら聞くだけ聞いてみないとね」


 ローザはそう言って苦笑を浮かべて見せる。


「でも、今はやるべきことを済ませましょう。ベルント卿。村に脅威となるものが残っていないかを確認するわ。クラウスは休んでいて」

「いいのか?」

「ええ、あなたはもう十分働いてくれたもの。後は私たちに任せてくれればいいわ」

「なら、そうさせてもらおう」


 クラウスは一人村の外に向けて歩き始めた。

 背中に騎士たちの視線を感じる。


 歩きながら、クラウスは腰に吊るした相棒に話しかける。


「ありのままを話すべきなんだろうな」

「まあ、そうするしかねえだろ」


 苦笑を浮かべながら、クラウスは休める場所を探す。


 村の外に出た彼は一本の木を見つけ、その根元に腰を下ろした。


 そこで夜空を見上げながら、数日前までいた世界のことを考える。

 彼はその世界で三百五十年もの時を過ごした。

 その間にあった様々な出来事を思い出し、懐かしみながら、彼は一人夜空の星々を眺め続けた。

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