【短編】いつもは冷たいクラスのマドンナが僕が尊敬するラノベ作家だと知った瞬間に急に態度を改めてきたんだが......
みっちゃん
本編
<村木陽斗 視点>
「はぁ~」
教室の中で朝から一人小説を片手に重苦しい雰囲気を漂わせている俺の名前は、村木陽斗。
昨日、自分が初めて書籍化に至ったラノベ小説が担当編集者の口から打ち切りを告知されてしまい頭を抱え込んでいる最中だ。
『これから一体どうすれば・・・・・』
そんな風に考えていると、
「あれあれ~?今日はいつにも増して陰キャオーラが強いけど、ど~したの?
もしかして~、好きな子に振られちゃった~?」
そう話しかけてきたのは、綺麗な銀髪が特徴的ないかにもギャルといった出で立ちをした美少女だった。彼女の名前は斎藤夏奈。容姿からも分かる通り、俺とは真逆の陽キャであり、クラスの中心人物でもある。
「・・・・うるせ」
『てか、何で毎回毎回俺にばかり絡んでくるんだよ』
「あははは!そんなわけないか~。所詮陰キャだもんね~?モテる訳ないない」
「・・・・・」
『陰キャだからモテないとか、そんなの関係ねーだろ・・・。
てか、何で毎回毎回俺にばかり絡んでくるんだよ。さっさとどっか行ってくれないかな』
そう思っているとは知ったことではないと言わんばかりに、まだ絡んでくる。
「てか、何読んでんの?Hなやつ?」
「なわけ・・・。エッチな奴に栞なんか挟むかよ」
「ちょっと貸してみ」
と、否定する俺をよそに彼女は小説を取り上げる。
そして、小説の表紙を見た彼女は固まる。
僕はその隙をみて小説を取り戻す。
「もういいだろ。普通のラノベなんだからさ。」
そういって俺は持っていた小説を隠すように机に伏せる。
そのあと彼女が何か言っていたが僕は寝たふりをして乗り切った。
<斎藤夏奈 視点>
その夜、私はベッドに今日の疲れを押し付けるかの如く飛び込む。
そして、私はスマホでツイッターを眺めていた。
「おっ?今日のイラストもいい調子で伸びてるね~」
私、斎藤夏奈にはみんなに伝えていない秘密がある。それは私がイラストレーターをやっていることだ。KANAという名義で活動を始めてから早3年。ツイッターのフォロワーも5万人を超えて有名になってきた。
「この調子でいけば、ゆくゆくは・・・・。えへへ」
この調子なら目標であるラノベ作家ハルト先生の作品の表紙を任される時もそう遠くはないかもしれない、そんな妄想を膨らませながら興奮し、枕を抱きかかえゴロゴロと転がる。
「そういえば、今日何か呟いているかな~」
とふと思い立ち、ハルト先生のツイッターを見てみる。
「・・・・え?打ち切りって・・、嘘、でしょ?」
そこには、本の画像と共に打ち切りになってしまったことが綴られていた。
「めちゃくちゃ面白かったのに何で!」
そう思うと同時に画像の端に写っている栞が目に留まる。
「ん?この栞ってどこかで・・・」
そこに写っていた見覚えのあるような特徴的な栞。これを見た瞬間、今朝の出来事が脳裏に蘇った。
「まさか・・・ね」
<村木陽斗 視点>
翌日の昼休み。俺は夏奈からの呼び出しで、体育館裏までやってきていた。
『話があるからって言われたから来てみたけど・・・カツアゲとかじゃないよな?』
そう思いながらも体育館裏に到着するとすでに夏奈が待っていた。
「それで、俺に何の用なんだ・・・?」
すると、夏奈は徐にスマホを取り出しこちらに見せてくる
「これ、見てほしいんだけど・・・
あんたって・・・その・・・ラノベ作家だったの?」
「・・・は?」
「その・・・昨日のツイートを見た時、あんたが持っていた栞が写ってたから・・・」
自分がラノベ作家であることを誰にも言ってなかった手前、まさかバレるとは思いもしなかった。しかもよりによって俺のことを馬鹿にしてくる夏奈にバレるとは。
しかし、隠したいというわけでも、隠す必要もないので素直に言うことにした。
「ああ・・・よくわかったな。確かに、ラノベ作家ではあるけど・・・?」
俺がそういうのと同時に夏奈が近づきながらホントかと疑ってくる。
その夏奈勢いに圧倒されながらも僕は肯定する。
夏奈はこの時、憧れの小説家が今目の前にいることに運命を感じた。
夏奈は少しして、落ち着きを取り戻し、
「ねぇ、今また新しい作品とか考えてるの?」
「まぁ、一応最中ではあるけど・・・?」
そう聞いた夏奈は新作に関われる可能性を実感し、小さくガッツポーズをする。
「じゃあさ、私いいこと思いついちゃったんだけど・・・ちょっといいかな?」
「いいこと?」
「私と、ラブコメしよ?」
「・・・・は?いや、ちょっと待て。どういう意味だよ!」
「そのまんまの意味だけど?」
「それはわかってるけど、お前、俺のこと嫌いじゃなかったのか?」
「別に、陽斗のことは嫌いじゃない・・・・」
そう言いながら、夏奈はニヤついている。
「なにニヤついてんだ?」
「ニヤついてないわよ!
とにかく、今はラノベにおいてもラブコメが主流なの!ブームなの!
だから、この私が協力してあげるって言ってんだから、ありがたく思いなさい!」
夏奈はそう一方的に言うと走って逃げていった。
「ありがたく思いなさいってどの立場で言ってんだよ。」
でも、女性経験という観点から言えば、俺は当然のように今までお付き合いしたことはない。これまで馬鹿にされた分、癪ではあるが、ひとまずありがたく受けることにした。
物語を作成していく上で、やはり資料集めというのも大切になってくる。ラブコメを書くということもあって、夏奈の提案により週末、俺たちはデートすることになった。
そしてデート当日、俺はベンチに座って夏奈を待っていた。
しかし、約束の時間を五分過ぎても夏奈はやってこない。
すると、
「お待たせ~。遅くなっちゃってごめんね?
せっかくのデートだから気合い入れてきたんだけど変かな?」
顔を上げると、そこにはいつもとは雰囲気の違う夏奈が立っていた。
「まぁ、似合ってるんじゃないですかね?」
「ほんと!?えへへ・・・よかった。」
俺がラノベ作家であることを知られてしまって以来、夏奈の態度はなんだか変わってしまった。今でも馬鹿にしてくることはあるけど、妙に以前より積極的なような気がする。
そんなことを考えていると、
「えいっ」
という声と同時に左腕に夏奈がしがみついてくる。
「え、ちょ・・・何してんの?」
俺が動揺しながら夏奈に聞くと、
「デートと言えば、やっぱ腕を絡めるものでしょ?だからそうしてるだけ!」
「そういうもんなのか?」
僕は少し疑問に感じながらも、夏奈に引っ張られてデートは始まった。
それからというもの俺たちはデートらしく、ショッピングモールでウィンドウショッピングをめいいっぱい楽しんだ。
「この服可愛くない?」
「あー、うん。可愛い可愛い。」
「なーに、そのつまらなそうな反応」
夏奈はむくれながらそういった。
しかし何か思いついたのかどこかに向かっていく。
「ねぇ、私に似合う下着選んでよ」
「な、何言ってんだよ!馬鹿かお前!」
「えー、もしかして恥ずかしがってんの?初心だね~」
ニヤニヤと笑みを浮かべる夏奈に対して、俺はデートとは果たしてこんなものでいいのだろうかと疑問に思う。
こんなことで女子は楽しいのだろうかと思うことは多々あったが、気づけば時間もだいぶ過ぎ去っていた。
「はぁ~。今日は楽しかった。いい資料は集まった?」
「そこそこだけどな」
「そっか。一回デートしたぐらいじゃデータは集まらないもんね。
じゃあ、また今度デートしようよ!」
以前の夏奈との関係はただの陽キャと陰キャだったが、「また今度」という言葉に対して、不思議と嫌な思いはしなかった。
「また今度な」
「うん!約束だよ?絶対だからね?」
そんな話をしながら、それぞれの家へと帰宅するべく別れを目前にした時だった
「あれ?陽斗君?それに・・・夏奈ちゃん?」
声をかけてきたのは俺の担当編集者である高木さんだった。
なぜだが焦っている夏奈をよそに俺は高木さんに挨拶をする。
「あ、お久しぶりです。って、高木さん夏奈の事、ご存じなんですか?」
「ご存じも何も仕事でよくお世話になっているからね。
ほら、イラストレーターのKANAって知ってるでしょ?」
「え?」
驚く僕をよそに高木さんは話を続ける。
「それにしても夏奈ちゃんは陽斗君の大ファンだからね~。そんな2人が一緒に・・・って、
これ言っちゃマズかったんだっけ?」
リンゴのように真っ赤に赤面する夏奈を見て、何かを察した高木さんはそそくさと帰っていった。
夏奈がイラストレーターだったこともそうだが、一人のファンだったことにも当然驚いた。この際、一人の読者として執筆に向けた相談相手にもなってくれるかもしてないと思い
「夏奈、この後少し時間あるか?新作に向けた話がしたい」
と、俺は夏奈に提案する。
夏奈は赤面した顔を手で隠しながら、
「・・・・陽斗の家だったら」
と了承してくれたのでそのまま俺の家に向かった。
俺の家で打ち切りになってしまったラノベの感想や今後の創作について、話し込んでいるうちに夏奈はすっかり元の調子に戻っていった。
そして、帰り際、すっかり夜が更けてしまったということもあって駅まで夏奈を送ることにした。
「今日はいろいろとありがとな」
「うん・・・じゃあ、またね」
そういって夏奈は手を振ると、駅の改札口まで向かう。
が、改札機を前にして一瞬立ち止まったかと思ったら、またこちらへと戻ってきた。
そして、いきなり俺の頬に柔らかい感触がした。
俺が何が起きたのか分からず固まっていると、
「これからももっとラブコメして、最高のラノベを一緒に作ろうね!」
そういって、夏奈は帰っていった。
つい先日まで馬鹿にしてくる陽キャと馬鹿にされる陰キャという関係だったのに、この数日間でこうも変わってしまうとは・・・。
これから先の新作ラノベ作りがどうなってしまうのか想像もつかない。
【短編】いつもは冷たいクラスのマドンナが僕が尊敬するラノベ作家だと知った瞬間に急に態度を改めてきたんだが...... みっちゃん @nanashi689
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