第二章:初戦と脱落
第23話
数分後。
二人は、佐紀の自宅近くのバス停にいた。時刻は、夜の十一時五十五分。あの『死神』の言葉が正しければ、あと五分で迎えが到着するはずだ。だが……
煌は、目を閉じる。
『死神GAME』。
あの大会には、おかしなところがいくつもある。
例えば最初に『予選』にエントリーした時。あの時、自分は『プレイヤーネーム』のみを記入した。そして無事に『予選』をクリアーしたわけだが、その後がおかしい。
あの『死神』は、深夜零時に、最寄りのバス停で待て、とだけを告げ、それ以降は、幾らあの『招待状』のQRコードを読み込もうが姿を現さないし、何の反応も無かった。迎えを寄越す、とは言っていたが、住所も聞かれていないのだ、そんな相手を、一体どうやって迎えに来る、というのか。
それにこれから行われる『本戦』の場所も不明だ、一体あれは何処なのか。
そして……
そして。
あの大会は……一体何処の誰が運営しているのか。そういう事も結局解らない、ネットで調べてみたけれど、どうにも曖昧な情報ばかりだった。
ただ一つだけ。
解っている事。
それは……あの『死神』が言っていた言葉。
『優勝すれば、どんな『願い』でも叶う』
煌は、ゆっくりと目を開ける。
バカバカしい。そんな事があるものか。きっとあれは、あの大会の演出なのだろう。
煌は、軽く息を吐く。得体の知れないゲームの『大会』。妹は、本当にそんな物に参加したのだろうか?
解らない。
とにかく、会場に行けばはっきりする事だ。煌は、自分にそう言い聞かせる、そして妹を連れて……
連れて……
煌は顔を俯かせる、思えばその後、自分は一体何処に帰れば良いのか、あんな風に飛び出した後では、当然もう家には帰れないだろう。煌はその事を考えて、だんだんと暗い気持ちになって来た。
だが。
煌は、また首を横に振る。今は、そんな事を考えても仕方が無い。
とにかく妹を……
果詠を、取り戻す。
それが、今の煌にとっては、もっとも重要な事だ。
ひゅう、と。
ひんやりとした夜風が吹き付ける。
「……寒く、無いか?」
煌は隣にいる佐紀に問いかける。
「問題は無いさ」
佐紀の答えはのんびりとしたものだ、思えばこいつと一緒に外に出るなんて、随分久しぶりだな。そんな事を考えていた時だ。
「そろそろだな」
佐紀が、ポケットから取り出したスマートフォンで時間を確認しながら言う。
煌もそれに習い、腕時計で時刻を確認する。確かに、時刻は十一時五十九分になっていた、あと一分でバスがここに来る、周囲を見回すが、何処にもバスなんか見当たらないし、何よりももうこの時間、バスは終わっているはずだが、本当に来るのだろうか?
そんな事を考えていた時だ。
ぱあっ、と。
金色の光が、突如として宵闇の中に輝いた。煌がそちらを見ると、真っ暗な道路の上を、車のヘッドライトがゆっくりとこちらに向かって来るのが見えた。
近づいて来るにつれて、それがかなり大きな車……
否。
バスだ、とはっきりと解った。
だけど……
「……何だあれ……」
煌は呟く。
確かにあれはバスだ、少なくとも、闇の中に浮かび上がるシルエットは間違い無くそうだ、だが……
そのバスからは、車のエンジン音もしなければ、タイヤが道路に擦れる音も聞こえてこない、まるで道路の上、というよりも地面の上を滑っているみたいに何の音もしなかった、 ややあって。
そのバスが、ゆっくりと……
ゆっくりと、二人のいるバス停で停車した。
ぷしゅうう、と音がし、運転席横の扉が開く。
煌はじっと車体を見る、何の変哲も無い、街の中を走っていても違和感の無い普通のバスだ、だがバス会社の名前も、目的地までの案内板も、どういう訳か黒いペンキのような物で塗りつぶされていて見えない。
運転席には中年の運転手が一人座っていたけれど、ずっと顔を伏せて俯いていて、その表情ははっきりとは見えなかった。
煌はぶるっ、と身を震わせた。バスが来て、ドアが開いた途端に、さっきの夜風とは比べものにならない程冷たい空気が吹き付けて来たからだ。これに乗ったら……
もう、二度と帰れない。
そんな予感が、した。
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