第22話

 煌は何も言わずに、画面を見ていた。

 『死神』の言葉は、さらに続いた。

『見事に『優勝』した者には、『死神GAME』優勝の栄光に加え、賞品を与える』

「……賞品」

 煌は呟く、トロフィーでも貰えるのだろうか? と、煌は一瞬、そんな事を考える。

『『賞品』の内容は、ただ一つ』

 煌の心を見透かした様に、画面に映る『死神』が告げる。

『どんな願いも、一つだけ叶える事だ』

「……『願い』……」

 煌は、思わず小さい声で呟いていた。

 『願い』。

 どんな『願い』でも……

 一つだけ……

 一つだけ、叶える?

 煌は、じっと。

 じっと、画面に映る『死神』を見ていた。それはつまり……

 つまり、妹を取り返すだけでは無く……

 『あの男』、父を、優しい人間にする事も……

 もう……

 もういない母を……

 母を、生き返らせる事も……?

 そこまで考えて、煌は軽く首を横に振る。

 まさかな。

 いくら何でも、そんな事が可能な訳が無い、つまりはこれは、この大会の『演出』なのだろう。

 そう思って、煌は画面にもう一度視線を向ける。


『さて』

 画面の中では、『死神』がまた言葉を続けていた。

『では、そろそろ『本戦』の会場へと来て頂こう』

 『死神』が言う。

『今夜零時までに、自宅から一番近くにあるバス停へと向かってくれたまえ』

「……バス停?」

 煌は呟く。

『零時ちょうどに、迎えのバスを寄越す、時間厳守だ、遅れた場合は出場を辞退した、と見なすのでそのつもりで』

 煌は壁の時計を見る、現在の時刻は二十三時半、あと三十分しか無い。

「大丈夫だよ」

 佐紀が言う。

「ここから一番近くのバス停までは、五分もあれば十分だ」

 その言葉に、煌は頷く。

 画面には、まだ『死神』が映っていた。

『バスに乗れば、会場までは数十分だ、諸君等の参加を心待ちにしているよ、是非とも意義のある大会にしてくれたまえ』

 そして。

 画面に映る『死神』は。

 現れた時と同じく……

 闇の中に、溶ける様にして……

 その姿を、消した。


 煌は、黙って画面を見ていた。

 既に画面は真っ暗になり、もう……

 もうそこには、何も映っていない、招待状に印刷されていたQRコードをもう一度読み込むが、もう何も映らなかった。

「これ以上の事は……」

 佐紀が言う。

「『本戦』に参加して、自分自身の目で確かめろ、という事だろうな」

 その言葉に。

 煌は、何も言わなかった。

 確かに、そういう事なのだろう。

「解った」

 煌は、頷いた。

 そのまま、ゆっくりと立ち上がる。

 佐紀も、無言で立ち上がった。

「……佐紀、お前、その……」

 煌は、じっと。

 じっと、佐紀の顔を見る。

「ボクも参加する、せっかく『予選』をクリアーしたんだしな、全国屈指の『ゲーマー』というのも見たいからな」

 ふふん、と。

 佐紀は腕を組んで笑う。もう何を言っても、参加を辞退する、という事は無いだろう。

「解ったよ」

 煌は苦笑いと共に言う、どちらにしても……

 どちらにしても、見知った相手がいる方が心強いというのも事実だ。

「一緒に行こう」

 煌は、佐紀に向かって言う。

「ああ」

 佐紀は、優しく微笑み。

 そして。

 頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る