第21話

 煌は、ゆっくりと……

 ゆっくりと、目を開ける。

 そうだ。

 こんな風にして、自分と目の前の『親友』。

 つまりは兵藤佐紀は、出会ったのだ。

 あれから佐紀と自分は、良く校内や、あの公園で出会ってはゲームを楽しんだ。

 佐紀は本当にゲームが上手かったし、何よりも知識が豊富だった、古いゲームも新しいゲームも、どんな会社のゲームであっても、彼女はほとんどのゲームを知っていたし、煌も知らない様な攻略法も知っていた、煌も彼女とゲーム攻略に勤しみ、時には夢中になりすぎて、帰宅時間が遅くなってしまうこともあったけれど、そんな時には『図書館で勉強していた』と誤魔化した。


 そうだ。

 煌は、思う。

 あの頃から、自分は……

 自分は、毎日を『楽しい』と感じる様になった。

 煌の毎日が、何か劇的に変わった、という訳じゃない、家を抜け出す時間と回数が少し増えただけだ、父は訝しんではいたようだが、成績が落ちなければ、と、特に気にしてもいなかった。

 妹を、佐紀と会わせたのは、知り合ってからしばらくしてからだ、妹は最初、なかなか彼女と打ち解けなかったけれど、ゲームをしているうちに仲良くなった。

 あの頃……

 自分と佐紀、そして妹は……

 間違い無く、本当の……

 本当の『友達』だった。


 その後、佐紀は煌と別な高校に通い、自分達は別の道を歩むことになってしまった。

 もしも……

 もしもあの時、自分が父に反発していれば。

 もっと早く、先ほどのように、父に頼らない生き方を選んでいれば、今頃は佐紀と同じ高校に通い、あんな『事件』も起こらずに、妹と自分と、そして佐紀は三人で、ゲームをしながら高校に通っていたのかも知れない。

 だけど……

 だけど今……

 煌の目の前に広がっているのは、あまりにも違う現実だった。

「……果詠……」

 煌は呟く。

 果詠は……今……

 今、何処にいるのだろう?


「そんな顔をするなよ」

 声がする。

 佐紀だ。煌は佐紀の顔を見る。

「君の妹ちゃんは、きっと無事さ、きっと今頃、あっけらかんとした顔で、君が来るのを待っているのに違い無い」

 佐紀はそう言って、軽く笑う。

「さっさと行って、連れ戻してやるとしよう」

「ああ」

 煌は、その言葉に。

 しっかりと、頷いた。

 そうだ。

 果詠の……

 妹の帰りを待ち望んでいる人間は、何も自分だけじゃ無い。

 お前は……

 お前は、一人じゃ無いんだ。

「ありがとう」

 煌は、佐紀に頭を深く下げた。

「佐紀」

 その言葉に、佐紀は照れた様にそっぽを向いた。

「そんな言葉は、無事に妹ちゃんを取り戻してから言ってくれよ」

 佐紀はそう言って、二人の間に漂う空気を変えるように、大きな声で告げた。

「ほら、画面に何か映っているみたいだぞ?」

「あ ああ……」

 煌も、少し照れた様に頬を掻きながら、画面をもう一度見る。


 画面には、いつの間にか再び、またあの『死神』が現れていた。

 その後ろには、何やら大きな西洋風の建物が見える。周囲には長く、太い木々が生い茂っている、何処かの森の中だろうか?

 そして。

 画面の真ん中に映った『死神』が、その骸骨そのものの口を動かす。

『『予選』のクリアー、まずはおめでとう、と言っておこう』

 『死神』が言う。

『だが、これで安心するのは早い、諸君はまだ『予選』をクリアーしたに過ぎないのだから』

 『死神』は、そこでゆっくりと……

 ゆっくりと、画面の端へと移動していく。

『この後、諸君等には本大会の『本戦』に挑んで頂く事になるが、その前にお見せしておこう』

 『死神』が言う。

『これが『本戦』の会場だ、そこで諸君等は……』

 煌は黙って画面を見ていた。そして……

 そして、『死神』が告げる。

『全国屈指の『ゲーマー』達と、戦って貰う事になる』

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