第20話
「うむ」
だが。
煌の心の中の嘲笑など、もちろんこの少女には見えていないだろう、だが少女は、それすらも見透かした様に、煌を真っ直ぐに見据えて頷いた。
「よろしくな、あっ、煌って呼ぶからな?」
少女は、あっけらかんと言い放つと、そのまま立ち上がって、煌の手をぎゅっ、と掴んだ。
「では煌よ、早速ボクの家に来てくれ、色々と語り合いたい」
「は?」
煌は、目の前の少女の、そのあっけらかんとした口調に、むしろきょとん、とした顔になる。
「い いや、君……」
煌は、思わず口に出して少女の……
兵藤佐紀の顔を、見ていた。
「君は、僕の事を……」
煌は言う。
「知らないのか?」
煌は問いかける。
「んん?」
その言葉に、兵藤佐紀は、じっと……
じっと、煌の顔を見ていた。
沈黙が、二人の間に下りる、そして……
「ああ」
ややあって。
佐紀が、ぽん、と手を打ち鳴らした。
「君は、クラスメイト達が噂をしていた奴か? 何処かの金持ちの息子で、お高く止まって他のみんなを見下している奴がいるとかいないとか……」
その言葉に。
煌は、何も言わない。
そんなつもりは、もちろん無い。
だけど、クラスメイト達には……
否。
この少女、兵藤佐紀は隣のクラスの人間だから、つまりは自分は、隣のクラスの者達にまで、そんな風に思われているのだ、あの『男』、父が強要する、山ほどの勉強をしなければならなくて、早く家に帰らないといけなくて、授業が終わるとすぐに帰っているだけで、他のみんなを見下しているわけでも、お高く止まっている訳でも無いのに……
だが、この少女の言葉のおかげで、煌はようやく……
ようやく、自分が『そういう存在』である、という事が解った。
そして……
みんなが自分を、本当はどう思っているのかも。
煌は、目を閉じる。
そんな風に思われても、仕方が無いのかも知れない。
だからこそ……
自分は……
自分はずっと……
ずっと……
一人で……
そんな風に思っていた時だった。
「で?」
声がする。
相変わらずの、あっけらかんとした声だった。
「それがどうした?」
「……え?」
煌は顔を上げて、佐紀の顔を見る。
「それがどうした、と聞いているんだよ」
佐紀は、ふん、と鼻を鳴らして言う。
「ボクは生憎と、クラスメイト達の噂話になんかちっとも興味が無い、君が皆にどう思われていようが、そんな事は気にもならないよ」
「だ だけど……」
煌は言う。
「僕と一緒にいれば、君まで色々と……」
そうだ。
きっと彼女も、周りから色々と、ある事無い事を言われるに違い無いのだ。それは……
それは、あまりにも……
「ボクは別に、どんな噂をたてられようとも怖くも何とも無い、嫌がらせを受けたって同じさ、そんなのは然るべき筋にでも訴えて、黙らせてやれば良いんだ」
佐紀は、ふん、と鼻を鳴らして言い、煌をもう一度見る。
「ボクはそんなものよりも、今、目の前にいる、もの凄く『ゲーム』が上手い君と仲良くなりたい」
佐紀は言う。
「それでは、ダメかな?」
佐紀はそう言って…点
そう言って、煌に笑いかけた。
その言葉に……
その言葉に……
煌は、初めて……
初めて……
妹以外の人間に、心から……
心から、笑った。
そして。
「良い、よ……」
煌は、少しだけ……
少しだけ、照れた様に言い、そして。
そして、真っ直ぐに……
真っ直ぐに、佐紀を見る。
「ただし……」
煌は、佐紀に向かって告げた。
「僕は、ゲームに関しては結構五月蠅いぜ?」
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