第19話

「ほら」

 煌は少女にゲーム機を返す。

「勝てたぜ、この後のエンディングは、自分で……」

 煌は少女に向かって言う。

 少女は、あんぐりと口を開けて煌を見ていたけれど、ややあって……

 ややあって、はっ、と我に返った様に言う。

「あ、いや、エンディングは……自力で見るよ……」

 少女はじっと煌を見る。

 煌も少女を見ていた。

「君……」

 少女が言う。

 そして。

「おい、君!!」

 言いながら少女は、がっ、と煌の両肩を掴んだ。

「……!?」

 煌は思わず息を呑んだ。だが少女は煌の様子など気にした様子も無く、大きな声で言う。

「君、凄いじゃ無いか!!」

 少女が大きな声で叫ぶ。

「ボクなんか、こいつを倒すのにすっごく苦労したのに、あんなに簡単に……!!」

「あ、いや……」

 煌は困惑した様に言う。

「装備もレベルも悪く無かったし、後はあの攻撃を避けられれば……」

 煌は何でも無い事の様に言うけれど、少女は気にした様子も無く、興奮した様子で捲し立てる。

「君、他にはどんなゲームをやっているんだ?」

「いや、僕は親が……」

 煌はしどろもどろに言う。

 そうだ。

 自分の家ではゲームが出来ない、煌は今は名うての『ゲーマー』だけれど……それも中学を卒業してからは引退するつもりだった。

 煌はそう考えて目を閉じる。

 そうだ。

 所詮自分は……

 自分は、父に逆らえないんだ。もし……

 もしも、自分の成績が落ちたりして、父に見限られたら……

 その時父はきっと……

 きっと……妹に、今まで自分にしていた様な事をするに違い無いのだ。自分の跡を継げとしつこく命じ、そして……妹の人生を台無しにするに決まっている。

 それは……

 それだけは、絶対に……

 絶対に、させない。


「何だー?」

 物思いに耽る煌の顔を、少女が覗き込んでくる。

「もしかして、親が厳しくてゲーム出来ないとか、そんな家か、君は?」

「……あ ああ」

 煌は頷く。

「そうか」

 少女はその言葉ににっこりと笑う。

「だったら話は簡単だな、学校でやれば良いんだ、見たところ君とボクは……」

 少女は煌の制服を見て言う。

「同じ中学みたいだし、校内で会えば出来るだろ? 何ならボクの家に来たって良いんだしな」

 ははは、と少女が笑う。

「いや、行ける訳が無いだろ!? 僕はこの後も帰って勉強しないといけないし、それに……」

 煌は少女の顔を見る。

「それにそもそも、知らない女子の家に……」

 そうだ。

 そもそもこの少女と自分は、たった今初めて出会ったのだ、そもそも彼女も女子なのだから、知らない男子を家に簡単に招くなんて……

「ボクは兵藤佐紀(ひょうどうさき)、君と同じ中学に通っている、多分学年も一緒だろう、ああ、クラスはA組だ、他に何を言えば、『知らない男子』と『知らない女子』でなくなるのかな?」

 少女。

 兵藤佐紀は、早口で捲し立てる。

 煌はぽかん、と口を開けていた。

 佐紀は、にこにこと煌を見ていた。

「僕は、水城煌(みずしろあきら)」

 煌は言う。少女の勢いに気圧された、というのもあるし……

 何よりも。

 きっと自分の名前を聞けば、この少女だって……

「B組の、水城煌だ」

 煌は、はっきりと名乗った。

 そうだ。

 ここまで言えば、彼女も気づくだろう。

 自分が誰なのか……

 そして。

 きっと……

 きっと、彼女も……

 煌は、心の中で嘲笑を浮かべて思った。

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