第18話

「……あ、いや、その……」

 まさか気づかれているとは思わず、しどろもどろになってしまった煌を見ながら、少女は不満げに口を尖らせる。

「そんな風に人の事を笑えるんだから、君はさぞかし上手いんだろうね?」

 じろりっ。

 そんな擬音が聞こえそうな表情で、少女がこちらを見る。

「……いや、その、俺は……」

 煌は口の中で、もごもごと言い訳する事しか出来なかった。

 だが少女は意にも介さずに、すっ、と携帯ゲーム機を正面に突き出し、じとーっ、とした目で煌を見ながら言う。

「ボクを笑った罰だ、ここに来てプレイしろ、ボクが苦戦しているステージをクリアー出来たのなら、少しは認めてやるぞ?」

 煌は何も言わずに、少女の顔と、携帯ゲーム機を交互に見ていた。正直あまり、同じ学校の生徒には関わりたく無かったのだが、あの少女は、下手な言い訳で逃げても、すぐにまた追いかけて来そうな気配がした。

「……解ったよ」

 煌は、頭をボリボリと掻きながら言う。

 そのまま煌は、少女の方へと歩いて行った。


 携帯ゲーム機を受け取り、画面を見る。

 架空の星系を舞台とした、SF風の世界観のアクションRPGだ、プレイヤーはこの星系に溢れる怪物達を倒す軍事会社に所属し、戦いの中で、星系に現れた邪悪な存在との戦いに巻き込まれていく、というストーリーだった。

 煌も、このゲームはプレイした事がある、あるゲーム会社から、もう三十年以上も前から出ているシリーズだった、かつてはコマンド式のRPGだったのが、インターネットに繋げる機種を開発した事をきっかけに、国内でも珍しいオンラインRPGとして売り出したのがきっかけで、世界的なヒットになったゲームの続編だ。

 煌は携帯ゲーム機を手に取る、どうやら彼女が今プレイしているのは、まさに『ストーリーモード』のラストボスらしかった。

 少女の操作している『キャラクター』を見る。名前は『兵(つわもの)』と読むらしい。

 装備品などは、彼女のレベルにしては悪く無い物が揃っている、どうやって手に入れたのだろう、まさか……

「チートじゃないぞ」

 煌が問いかけるよりも早く、少女が言う。

「オンラインモードで、ネットに繋いで、色々な人とダンジョンを探索して手に入れたんだ、取り分けボクよりも強いプレイヤーが……」

「いや、良いよ」

 煌は片手を上げて、少女の話を遮る。チートでは無い。それが解れば十分だ。チート、つまりはゲーム内において、何かしらの不正な手段で手に入れたものでも無ければ、普段からそういったものを使用してもいない、という事が解ればそれで良い、卑怯な手段で勝ち上がろうとする者を、ゲームでも、そして人生でも、煌はとても軽蔑している。

 そして。

 煌は、ボス戦をプレイし始めた。


 このゲームのラストボスは、一度倒しても第二形態となって蘇る。

 どうやら彼女は、その第二形態に苦戦しているらしい、確かに第二形態は、通常の攻撃に加え、小さい闇属性の弾丸を連続で撃ち込む、という特殊な攻撃を持っている、この攻撃は防御が出来ない為、闇耐性と防御力をどれほど上げておくかが鍵となってくる。

 少女のプレイしているキャラクターは、防御力を上げる魔法を持っているらしい、煌は連続攻撃が来るよりも早く、その魔法で防御力を上げると同時に、装備品を闇耐性が高い者に切り替える。

「おいおい」

 少女が言う。

「その防具は防御力が……」

「だから防御力アップの魔法をかけたのさ、後は闇耐性の高い物を身につければ……」

 煌は言う。

 連続で放たれる弾丸は、少女のキャラクターに命中したけれど、ダメージはほとんど無い、回復アイテムは、一つの使用であっさりと回復する。

 そして。

「こいつは、この攻撃の後に……」

 煌は言う。

 そう。

 このラストボスは、この連続攻撃の際は、直接攻撃を当たられない位置に移動してしまうが、その後でこちらに近づいて来る。その隙を突いて、煌はそいつに攻撃を食らわせた。

 彼女はどうやら、ボスの弱点をしっかりと把握していたらしい、ボスの弱点である光属性の武器の中で、最強の攻撃力を誇る武器を装備していた。

 そのおかげで通常の攻撃でもかなりのダメージだ。体力がどんどんと削られていく。

「おお……」

 少女が感嘆の声を漏らす。

 煌は何も言わずに、すぐに次の攻撃に備える、こいつはある程度ダメージを与えれば、次第に攻撃のパターンを増やしていくタイプだ、やがて……

 一番厄介な攻撃が来る。

 ボスを中心に、戦場全体に広がる黒い渦の様なもの、当然この渦に触れればダメージを受けてしまう、だけど煌は、逃げ回らずにいっそ渦に飛び込んだ。ダメージを受けるが、広がりきった渦は、出現した時と同様に、ボスに近い位置から少しずつ消えて行く。

「つまりは、近くにいればダメージは受けないって事か?」

 少女が言う。

「そういう事さ」

 そして煌は、ボスに攻撃を食らわせる。

 そして。

 それらのスタイルでプレイを繰り返すうちに……

 ついに……

 相手のボスは、大きな声で吠え。

 身体を、大きく仰け反らせながら……

 光の粒となって、消滅した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る