第17話

「お お前……」

 煌は、佐紀に向かって声をあげた。

「な 何勝手にエントリーしてるんだよ!? どんな大会なのかもはっきりと解らないのにエントリーするのは危険だ、と、お前が言ったんじゃないか?」

 煌は言う。

 だけど。

 佐紀は、軽く首を横に振る。

「もともとこの『招待状』はボクに届いたものじゃないか?」

 佐紀は言いながら、煌の顔を見る。

「ならば、ボクがエントリーするのは当然、というものだろう? 逆に『招待状』の無い君がエントリーしたのが『主催者』に知られたら、どんな面倒な事になるか解らないぞ?」

 佐紀はすらすらと言う。

 その言葉に、煌は鼻白む。

「それに」

 佐紀は薄く笑う。

「ボクも久しぶりに、君と一緒にゲームを楽しみたくなったのさ」

 ふふ、と。

 佐紀は、笑った。

「……お前は……」

 煌は、やや呆れながら佐紀の顔を見ていた。

 佐紀の顔には、笑顔が浮かんでいた。思えば彼女は……

 初めて会った時にも、こんな笑顔だったのだ。

 煌は、そんな事をぼんやりと思い出す。


 兵藤佐紀(ひょうどうさき)。

 この奇妙な友人と出会ったのは、まだ中学生の頃だった。

 その頃の煌は、父の跡を継いで、会社の経営に携わる、その事だけを考え、日々勉強の毎日を過ごしていた。

 学校でも勉強し、家に帰っても猛勉強に励む、だからこそ学校が終わったらすぐに返って来るように、と、あの『男』に命令されて、真っ直ぐに帰宅していた、そんな生活をしていた煌には、ほとんど友達はいなかった。

 そんな煌の唯一の趣味は、ゲームだった。

 休みの日、勉強の合間の時間に家を抜け出して駅前のゲームセンターに行ったり、夜眠るときに、ベッドの中で頭から毛布を被って携帯ゲーム機やスマートフォンでゲームを楽しむのが、煌の日課だったのだ、妹の果詠がゲームを好きになったのも、煌が教えたからだ、というのが大きい、そして煌は、街のゲームセンターなどでは非情に優秀な成績を修め、ネットを通じてのランキング大会でもかなりの好成績を残していた。

 それでも勉強もきちんとこなしていた、もしも成績が落ちれば、あの『男』、つまりは父は、自分の成績が落ちた原因を徹底的に探るだろう、そして部屋の中に隠してあるゲームを見つけてしまうだろう、そうなれば当然、父の事だから、そんなものは処分してしまうに違い無い。

 だからこそ、煌は成績を落とすわけにはいかなかったのだ。

 だが……

 そんな生活がいつまでも続き、煌はその日……

 その日、とても疲れていた。

 一体……

 一体、いつまで自分は……

 父の跡を継ぐ。

 そういう名目で、こんな生活を続けねばならないのだろう?


 そんなある日。

 煌は、中学から家に帰る途中、ふといつもと違う道を通った。

 何の意味も無い、家に帰るのには遠回りになる道だったけれど、その日、煌は家に帰るのが嫌で、思わずそんな行動をとっていた。

 そうして、さらに家に帰る時間を遅らせようと、ゆっくりと歩いていた時だった。


「あああああああああああああああ……!!」


「っ!?」

 思わず響いた大きな声に、煌はびくっ、と肩を震わせていた。

 声がした方を見る、そこにあったのは、住宅街の広い空きスペースの中に、無理矢理造られたような児童公園だ、小さいブランコと滑り台、そしてベンチくらいしか無い小さい公園、そのベンチの真ん中に、一人の少女が座っていた。

 自分と同い年くらい、多分中学生だろう。良く見ればその制服は、自分が通っている中学の制服と同じ制服だった、だが顔を見た事は無いから、多分違うクラスなのだろう、と、煌は思った。

 少女の手の中には、携帯ゲーム機が握られていた、煌が毎晩毛布の中でプレイしているゲーム機と、色こそ違うが同じタイプのゲーム機だった。

 少女は、そのゲーム機を両手で持ち、睨む様に画面を見ながらプレイを再開した。

 かち、かち、とボタンを押す音。

 そして……

 しばらくしてから……


「うわあああああああああああ……!!」


 またしても、少女は叫んだ。どうやら負けたらしい。

 解りやすいリアクションをするその少女に、煌は思わず……

 思わず、呆れた様に笑った。

 だが。

 その次の瞬間。

 少女が顔を上げ、煌の顔を真っ直ぐに見る。

「おい」

 少女が言う。

「負けて悔しがっている人間を見て笑うとは、失礼じゃないか?」

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