第16話
自機は、どんどんと進んで行く。
やがて、基地の深部に辿り着いたらしい、そこには大きな『敵(エネミー)』がいた。
それは……巨大な緑色の戦車だった。
アルファベットの『H』の様な形をした巨大な戦車、左右には沢山の大砲が設置されている。そして『H』の横棒の部分、そこには主砲とおぼしき巨大な大砲が設置されていた。
そして。
その主砲から、赤い弾が発射される。こちらの弾と同じく、扇形に広がる赤い弾だ。
だが……
「……五方向かよ」
コウは呟く。
そう。
こちらは三方向なのに対して、相手は五方向に広がって行く、上手く隙間を見つけて弾と弾の間をすり抜けないと命中してしまう、という事だ。
そして左右の大砲からも、赤い弾がこちらに向けて放たれる、真っ直ぐに撃つ、というタイプでは無く、こちらがいる場所を正確に狙って放たれるタイプだ。
コウは、ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐いた。
落ち着け。
この手のタイプのボスは、まずは左右の大砲を潰すのだ、どうせ主砲には、この状態で攻撃しても、きっと通じないのだろう、通じたとしても、左右の砲撃を避けながら攻撃するは骨が折れる。
コウは、まずは左側の大砲に向かって自機を進ませる。
左右の大砲は、全部で六門、左右に三つずつ設置されている。
それらがこちらのいる位置に向かって弾を放って来る、コウは冷静に、それらの弾を回避し、攻撃を左側の三つの大砲に集中させる。
その間にも、主砲から、例の五方向に広がる弾が飛んでくるけれど、それもコウは上手く間をすり抜けて回避する、こちらに向けて飛んで来る左右の大砲の弾も、素早く自機を操作して回避し、攻撃を集中させる。
やがて、左側の大砲が爆発し、さらには戦車の表面に、炎が燃え上がる。どうやら攻撃が効いているらしい。コウはそのまま、自機を素早く操作して右側に向かい、右の大砲にも攻撃を集中させる。
右の大砲も、一つずつ爆発して吹き飛び、ついに右側からも炎があがった。
後は、主砲だけだ。
コウは、そのまま中央に向けて攻撃を集中させた、五方向に分かれる弾が、また放たれるが、それを回避し、攻撃を続ける。
そして……
ついに。
一際大きな爆発音と共に。
敵の戦車の主砲が爆発した。
それを合図としたかのように、戦車のあちこちが爆発し、そして……
そして、後には戦車の形をした炭だけが残った。
コウは、小さく息を吐いた。こうしてゲームをするのは随分と久しぶりだけれど……
ゲームをする時に感じる、あの高揚感は……
全く、変わっていない。
そして。
自機が、オートで画面中央に移動する。
そのまま、画面が黒くフェードアウトし、中央に自機が表示されるだけになった。
やがて、画面の上部に『CLEAR』という白い文字が表示される、その下に、クリアーまでのタイムや、敵の撃破数などが表示される。
コウは、じっと画面を見る。
取りこぼしは、無かったはずだが……
そう思って、コウは画面を見た。
そして。
『撃破率』=『100%』
その表示を、コウははっきりと見た。
そしてさらに、クリアーまでのタイムも、コウはかなり短かった。
やがて表示されたのは、八人の名前と、どうやら撃破率やクリアータイムなどから選出したランキングらしい、コウの名前は……
「さすがだなあ」
横から聞こえたのは佐紀の声だ。
「最近ゲームからは離れていたって話だったけれど……全然ブランクなんか無さそうじゃないか」
佐紀が言う。
「堂々の第一位、おめでとう、ボクは残念ながら二位止まりだよ」
「たまたま得意なジャンルだったってだけさ」
コウ。
否。
煌はそう言って、肩を竦めようとして……
だが。
そこで、煌は一瞬瞬きした。
今……
彼女……
佐紀は、何と言った?
「……二位?」
そうだ。
確かに、彼女はそう言った。
煌は、慌てて画面を見る。
一位=コウ
二位=兵(つわもの)
確かに、そう表示されていた。
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