第11話
「さて」
煌が焼いたフレンチトーストを食べ終え、佐紀が言った。
「腹ごしらえも済んだところで、そろそろ本題に入るとしようか」
佐紀は、じっと煌の顔を見る。
「ああ」
煌は頷いた。
「頼む」
煌は、真っ直ぐに佐紀の顔を見る。
「『手がかりは無い』とは、確かにボクは言っていない、だが……」
佐紀は、じっと煌を見る。
「ボクが進呈出来る『手がかり』が、正しいものかどうかは解らない」
「……構わない」
煌は言う。
「それに……」
煌は、じっと佐紀を見た。
「俺も、ここに来るまでに色々と考えた、だが妹は、今では外に出る事が恐くて、食事も自分で買いに行けないんだ」
煌は言う。
「だから、そんな果詠が……」
煌は目を閉じた。
「そんな彼女が、出かけるとしたらそれはやはり、『ゲーム』に関連する事だろう、と思った訳だ?」
「ああ」
佐紀の言葉に、煌はまだ目を閉じたままだけど頷いた。
「だから、教えて欲しい、この辺で最近開催されている、ゲームの大きなイベントだとか、あるいは大会とか……」
煌は問いかける。
「そんなところに行くのだとしたら」
佐紀は言う。
「一言、君に断って行くだろう? それに妹ちゃんは、財布も携帯も持たずに出かけたそうじゃないか?」
「……っ」
煌はその言葉に鼻白んだ。
「という事は、やはり君の妹ちゃんが姿を消したのは、普通のお出かけでは無い、という事になるね」
佐紀は言う。
煌は、何も言わない。
ただ黙って。
黙って、佐紀の言葉を聞いていた。
「もしも君の妹ちゃんが、そういう『イベント』に参加したのだとしたら、それは……」
佐紀は、じっと。
じっと、煌の顔を見る。
「……それは少なくとも、『普通』の『イベント』では無い、という事になる」
煌は何も言わない。
『普通』の『イベント』では無い。
なら、一体……
一体、それは……
「……それは、どんな……」
煌は問いかける。
「……一つだけ、心当たりがある」
佐紀はそう言いながら、ゆっくりとダイニングの椅子から立ち上がり、さっきまでゲームをしていた私室に戻って行く。
そこでしばらくの間、ガサゴソと室内を探し、そして……
ややあって。
佐紀は、一枚の白い封筒をひらひらとさせながら、部屋に戻って来た。
「これさ」
佐紀はそう言って、テーブルの上にその封筒を置いた。
煌は黙って、その封筒を見る。
コンビニで売られている様な、真っ白な無地の封筒だ、切手も貼られていなければ、差出人の住所も届け先の住所も書かれていない。
ただ一つだけ。
封筒の真ん中には、焼き印されたかの様な字が書かれていた。
『兵(つわもの)様へ』
その下に書かれている文字を、煌は黙って見る。
『死神』
「……死神?」
煌は、佐紀の顔を見る。
「ああ」
佐紀は頷いた。
「『死神』さ」
「……これは、一体……?」
煌は問いかける。
「まあ、まずは中身を見てみろよ」
佐紀の言葉に煌は頷くと、封筒の中に手を突っ込み、中身を引っ張り出した。
入っていたのは、こちらも安っぽい便箋が一枚だけだ。
ここにもやはり、焼き印したような字で短く。
『貴方を、特別な『ゲーム大会』にご招待致します』
そして。
『参加を希望される場合は、下記のQRコードよりアクセス下さい』
そして便箋の下には、確かにQRコードが書かれていた。
「……特別な……『ゲーム大会』?」
煌はその便箋を手に、小さい声で呟いた。
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