第4話
彼からのメールはますます頻繁になり、彼を信用するようになった。
「昼食は食べましたか」
「眠くないですか」
これから風呂に入ると言うと
「一緒に入りましょう」
風呂にまで携帯を持っていくようになった。
「あなたは今日は何をしましたか」
「あなたと一緒にいたい」
「一日中あなたを想っています」
最初は警戒していたが、やりとりが頻繁になり、オリバーからの連絡が絶え間なくなると彼を身近に感じるようになった。そしてだんだん警戒心も無くなってきた。常に彼からメッセージが届くので、彼といつも一緒にいると言う気持ちになり、彼が家族のように思われてきた。
彰子は次第に彼とのメールに引き込まれていった。彼からメールが来ないと彼からのメールを待つようになった。彼は次々とメールを送ってきた。
「僕はアキコを愛しています。あなたの心はどうですか。愛していると言ってください」
「僕は孤独です。アキコは美しい。あなたを愛しています」
「僕はアキコと一緒に暮らしたい。あなたのような女性が理想です」
「今日は何を食べましたか。早く僕の自慢の料理を作ってあげたい」
「本当にあなたは僕が今まで見たことがある中で一番素敵な女性です」
「アキコは運命の人です」
「アキコに会いたい。アキコと結婚したい。結婚しましょう」
彰子は最初は相手にもしなかったけれど、何度も言われると次第に彼を結婚相手と考えるようになった。
コロナの流行が少し収った頃、オリバーから日本へ行くからお金を送ってほしいと連絡があった。
「アキコに会いたい。僕は日本へ行きます。日本で結婚しましょう」
「どうやって生活するのですか」
「日本のIT会社に就職します。すぐ見つかるでしょう。日本へ行くために旅費が必要です。今使える現金がありません。旅費を送ってもらえませんか」
それ来た。やはりオリバーは詐欺師なのではないか。
「そんなお金は私にはありません」
「アキコは僕を愛していないのですか。アキコと投資した資産は増えていきます。大丈夫です。それに僕も日本へ行けばお金を返すこ
とができます」
仮想通貨を確認すると確かに増えている。彼は詐欺師かも知れない。しかし仮想通貨で儲かっているので彼を信用していた。彰子は
迷ったが、彼を信用しようと思った。
「本当にお金を返してもらえるのですか」
「本当です。僕を信じてください。日本で結婚しましょう」
彼に対する疑いが湧き起こってくるが、彼と交信し彼の言葉を読むと彼に対して疑いがなくなってしまう。詐欺でもいい。全てが嘘
ではないはず。彼を信じたい。と思うようになった。
オリバーから羽田空港に着くと連絡があった。羽田空港?私はコロナが怖くて電車には全然乗っていないのにと彰子は思う。羽田なんて行けない。彼は執拗に来てくれと頼む。
「いま外国から日本へ入国するのは規制があって入れないのではないですか」
「いえ、僕はビジネス枠で入国するから入れるのです。入国はできます。僕を迎えに羽田まで車で来てください」
「羽田は私のいる名古屋からはとても遠いです。車の運転は苦手ですからとても行けません」
「僕を愛していないのですか。お願いですから羽田まで来てください」
詐欺でもいい。彼を信じよう。と彰子は思う。車も最近はほとんど運転していない。しかも市内を走る程度で市外へはほとんど出た
ことがない。ましてや車で東京へなんて行ったこともない。しかしオリバーへの気持ちが過去に抱いたマルセルへの思いと重なっていく。
――マルセルと二人になると彼を取り囲む空気に引き込まれてしまったわ。そして恋の虜になってしまった。胸が切なくときめく。とにかく一緒にいたい。わたしの胸はまだ熱い。マルセルが世の中にいるだけで幸せ。マルセルと話ができるだけで幸せ。彼の美しい顔を見ているだけで幸せ。何もかも投げ捨ていますぐにでもマルセルのところへ行きたい。マルセルの胸で思いっきり泣きたい。わたしは
マルセルと結婚するの。マルセルにこれから会いに行くの。これからマルセルに会って結婚するのよ。これから。これから――
羽田に行こうと決心する。コロナは怖いけれど、どうしようか。用心して行こう。
朝早く五時に起き高速へ入った。途中何度もサービスエリアで休み、カーナビを頼りに昼過ぎにやっと羽田空港についた。彼の到着時刻は午後二時十五分である。何とか間に合う。羽田空港の駐車場に迷いながら駐車をする事ができた。そして午後二時頃に空港ターミナルへ入ることができた。彰子は疲労困憊だったが、力を振りしぼり這うようにして到着ロビーへ向かった。
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