【後日談】③


「んなっ!?」


「おい、どういうことだよ、ギルドマスター!」


「そんな話聞いていない!」


 エルミーたちがターリアさんへ詰め寄る。


 いきなりのことで、俺も内心ではかなり驚いている。


「3人ともまずは落ち着いてくれ。順を追って説明する」


 ターリアさんが3人を落ち着かせようとしている。


「3人とも落ち着いて! まずは話を聞こう」


「うっ、そうだな。詳しい話を聞かせてくれ」


 俺がそう言うと、エルミーたちも多少落ち着いてくれたみたいだ。自分でも落ち着いてよく考えてみると、確かにそう言われるのに思い当たる節もある。


「先日の件で、ソーマ殿が聖男ではなくなってしまい、治療師となってしまったであろう」


「っ!? だ、だが、ソーマにはこれまでの功績があるぞ!」


「ああ! 新しいポーションの開発だってソーマのおかげだろうが!」


「それにまた聖男のジョブに戻る可能性だってある」


 ターリアさんの言葉で、みんなもターリアさんが何を言いたいのかを察したらしい。


「もちろん分かっておる。ソーマ殿はこの国の英雄だ。聖男というジョブを失ったとはいえ、まだまだソーマ殿を狙おうとする輩も多いだろう。それにこの街周辺にはソーマ殿しか治療師はおらん」


「だったら、なぜ私たちが護衛を外れなければならないんだ!」


 エルミーが机をバンッと叩く。いつもは温厚なエルミーがここまで激情をあわらにしているのは珍しい。


「蒼き久遠の皆がソーマ殿の護衛をして何か月か経ったが、そろそろAランク冒険者パーティの皆にしか頼めないような依頼が溜まってきておる。それに冒険者ギルドからの指名依頼は公平に行われなければならん。蒼き久遠にだけソーマ殿の護衛を頼むわけにはいかんからな。複数のBランク冒険者パーティに交代で行ってもらう予定だ」


「くっ……」


 なるほど、確かにターリアさんの言う通りだ。俺が治療師になって、護衛の優先度が下がったこともあるけれど、そっちの方も問題になっているのか。


 そもそもこの街にいるAランク冒険者パーティは限られている。冒険者ギルドとしても、このままずっと俺の護衛だけ依頼をさせるわけにはいかないのだろう。


「へっ、だったら話は早えよ。俺たちが冒険者を辞めればいいってことだろ!」


「そうすれば冒険者ギルドからの依頼なんて関係ない!」


「ちょっ!? フェリス、フロラ!?」


 いきなりとんでもないことを言う2人。いくらなんでも、みんなが俺のために冒険者を辞める道理はない。


「むろん、それも選択肢のひとつだ」


「ターリアさん!?」


「冒険者は縛られるものではないからな。とはいえ、皆もよく考えてから選択をしてくれ。どちらにせよ、しばらくの間はこのままソーマ殿の護衛を継続して行ってもらうからのう」


「……分かりました、ターリア殿。我々でも考えさせてもらいます。それでは失礼します」


「まあ、考えるまでもねえけどな!」


「フェリスに同意!」


「ちょっ、ちょっとみんな……」


 そう言いながら、エルミーたちが冒険者ギルドマスターの部屋を出ていくので、俺もそれについていった。みんな冒険者ギルドの決定にかなり不満のようだ。




――――――――――――――――――――――――――――――――


「……いいんですか、ギルドマスター? あの様子だと、本当に蒼き久遠のパーティが揃って冒険者を引退してしまうかもしれませんよ?」


 4人が部屋を出て行った後、冒険者ギルドマスターの部屋に残っていた職員が不安そうに冒険者ギルドマスターへ尋ねる。


「そうなったらそうなったで仕方があるまい。あいつらにも言ったが、冒険者である以上、選択は自分たちで決めなければならんからな」


「ソーマ殿は人気がありますから、その護衛をしている蒼き久遠の皆さんに以前から他の冒険者からの嫉妬が集まっておりますからね……我々ギルド職員としても、日ごろから評判の良い蒼き久遠の皆さんにこのままソーマ殿の依頼をお願いしたいところなのですが……」


「まあ、これもある意味良いきっかけとなるかもしれんな」


「きっかけですか?」


「ああ。あいつらもソーマ殿も先日のカースドラゴンの変異種の件で、いろいろと感じるところもあったであろう。冒険者と治療師である以上、それだけの関係では一生一緒にいられるという訳ではないからな」


「……ああ、なるほど! ギルドマスターも意外と男女の機微に鋭いんですね」


「意外とは余計だ! 儂も昔は男にモテモテだったぞ。とはいえ、こればかりは当人同士の気持ちもあるから難しいところであるな。良い方向に進んでくれれば良いのだが……」


「憎まれ役を買うのも大変ですね。ですが、そういうギルドマスターのお人好しなところは私たちギルド職員も好きですよ」


「ふん、女にそんなことを言われても嬉しくないわい。ほれ、さっさと仕事へ戻れ」


「はい。それでは失礼します」


「さて、どうなることやらのう……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る