【後日談】②


 あの時、カースドラゴンの変異種から文字通り命を懸けてまで俺を守ってくれたエルミー、フロラ、フェリス。


 今回だけでなく、3人は何度も何度も俺を命懸けで守ってくれた。


 これまでも自分の3人への気持ちは多少自覚していたけれど、今回一時的にだが3人が命を失ったことによって、3人への気持ちがあふれ出てきてしまった。元の世界に帰れる可能性とか、ここは元の世界と貞操が逆転しているからとか、今までストッパーになっていた考えが全部外れてしまった感じだ。


 それにこの世界では元の世界と違って、今回みたいな事が起きて明日にでも命を落とす可能性があることを改めて自覚した。今回は聖男というジョブのおかげでみんなを助けることができたけれど、治療師になった今、そんな奇跡はもう起こらないだろう。


「ソーマ、顔が赤いけれど大丈夫か?」


「だ、大丈夫だよ、エルミー!」


 心配そうに俺の顔をのぞき込むエルミー。


 これまでだったら、これくらいの距離くらい良くあることだったけれど、今はちょっと変に意識してしまう。とはいえ、3人に告白する? いや、3人に一気に告白とか駄目だろ!


 かと言って、3人の誰かを選ぶなんてこともできないし、仮に告白して振られたらどうする? パーティハウスでめちゃくちゃ気まずくなりそうだぞ。


「ようやくアニックの街に帰って来ることができたから、これまでの疲れが一気に出てきたのかもしれねえな」


「どちらにしろ今日は家に帰ってゆっくり休んだ方がいい」


 フェリスとフロラも俺を心配してくれている。とりあえず落ち着け。今はまだ身体が疲れ切っていて、思考がまとまらない。まずはしっかりと身体を休めてからゆっくりと考えよう。


 孤児院のみんなや今回もお世話になったユージャさんに鍛冶屋のデルガルドさん、アニックの街で久しぶりに会いたい人たちは大勢いるけれど、さすが今日は王都からの長旅もあったから、会いに行くのは明日にする予定だ。


 ちなみに冒険者ギルドマスターのターリアさんやデジアナ、他の王都まで駆けつけてくれた冒険者たちは俺達よりも早くアニックの街まで帰っている。


「はあ~ようやく帰ってこれたな。さすがに今回ばかりは疲れたぜ」


「さすがにクタクタ。今日はもう寝る」


「ああ。とりあえず、今日はぐっすりと寝よう」


 時刻はまだ夕方だけれど、エルミーたちのパーティハウスへようやく到着した。ここに帰って来るのは2か月ぶりになる。俺も今までの人生の中で一番疲れているかもしれない……


「ああ~やっぱこういうのは言っておかなきゃな。おかえり、ソーマ!」


「私も! おかえり、ソーマ!」


「う、うむ。こういうのは大事だよな。おかえり、ソーマ!」


「……うん! ただいま、フェリス、フロラ、エルミー!」


 そうだな、ようやく俺はここに帰って来ることができたんだ。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 アニックの街へ戻ってきた昨日はパーティハウスへ戻ってすぐにシャワーも浴びず即座にベッドへダイブして泥のように眠った。


 起きたのは今日のお昼ごろだったけれど、さすがに高ランク冒険者のみんなでもよっぽど疲れていたようで、みんなもそれくらいに起きてきた。それからアニックの街にいるみんなへ久しぶりに会いに行って王都でのお土産を渡した。リーチェやデジアナの妹も元気そうにしていて何よりだ。


 もちろん、あのドラゴンとの戦いで本当にお世話になったユージャさんにもしっかりとお礼を伝えた。聖魔法の効果をポーションに付与できたのはユージャさんのアドバイスのおかげだ。あのポーションがなくて、俺が戦闘へ参戦する前にダメージを与えていなかったら、やられていたのはこちらの方だったはずだ。


「……それでは、これまで通りこの街で治療を続けてくださるのですな」


「はい。残念ながら、もうジョブは聖男ではないのですが、これまで通り治療師として治療はさせてください」


 そして最後に冒険者ギルドへとやってきた。すでに冒険者のみんなやギルドマスターのターリアさんはこの街に戻ってきている。冒険者ギルドへ入った時はすでに話を聞いたと冒険者のみんなに囲まれて大変だったな。


 いつも通り声が漏れない冒険者ギルドマスターの部屋へ行き、ターリアさんと今後のことを話している。聖男というジョブを失ってしまった俺だが、今後は治療師としてこの治療所で働かせてもらおうと思っている。


「ええ、冒険者の皆もとても喜んでくれますよ! この国の英雄であるソーマ殿にこんなことをお願いするのはとても心苦しいのですが……」


「いえ。ですが、回復の効果はこれまでとは落ちていると思いますけれどね」


 今では男巫が使えるハイヒールなんかも使うことができなくなってしまったので、部位欠損の怪我なんかは治療することができなくなった。その場合には王都にいる男巫のデーヴァさんの力を借りるしかなさそうだ。


「何を仰います、それでも本当にありがたいことですよ!」


「治療師がいるのといないのでは大違い」


「ああ、冒険者にとって治療師が街にいてくれるのはとても心強いことだぞ」


「ソーマがいてくれるとありがてえからな」


 聖男ではなくなってしまったが、それでも冒険者にとっては治療師がいることに意味はあるみたいだ。


「……ああ~ですが、ひとつ悪い知らせもありましてな」


「はい、何でしょうか?」


 悪い知らせ? このタイミングで何かあったのだろうか?


「まだしばらく先のことになるのですが、Aランク冒険者パーティであるエルミーたち『蒼き久遠』へのソーマ殿の護衛任務が解除されることになりそうです」

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