【後日談】①
「おっ、ソーマの旦那。アニックの街が見えてきたぜ!」
「あっ、本当だ! ……なんだか本当に久しぶりな気がするよ」
前の席にいるポーラさんの言葉を聞いて外を見ると、懐かしのアニックの街の城壁が見えてきた。
アニックの街を離れてからまだ二ヶ月くらいなのに、なんだか半年以上この街から離れていた気がするよ。
「まあ、あれだけの出来事があったんだから、当然と言えば当然だな。本当にあれだけの戦いでよく一人も死ななかったもんだぜ」
カースドラゴンの変異種との戦いから1週間ほど王都で過ごし、そのあと1週間をかけて王都からアニックの街まで戻ってきたところだ。
「ソーマのポーションがあったのもそうだけれど、本当に運が良かった。下手をしたら、こちらが全滅してこの国が滅んでいた可能性さえあった」
「そうだな。こうしてみんなで無事にこの街へ生きて帰って来ることができて本当に良かった」
「無事って言うのかは微妙なところだぞ。何せ俺たち3人は一度死んじまったらしいもんな」
そう、今の3人はこうして元気にしているけれど、カースドラゴンの変異種との戦いで3人は一度死んでしまっている。あの時なぜか使うことができた聖男の『リザレクション』という蘇生魔法のおかげで、3人を蘇生することができた。
その代償として、俺はもう聖男ではなくなった。ドラゴンとの戦闘のあと、ポーションで治療できないほどの大怪我を負った人を治療しようとしたところ、ハイヒールなどの男巫の使用できる魔法が使えなくなっていた。
ちなみにその怪我は男巫であるデーヴァさんが治療してくれたから助かったんだよな。前日のドラゴンとの激闘の結果として一時的に使えなくなったのかと思ったけれど、翌日や数日経った後も男巫以上の魔法を使用することができなかった。
さすがにこれはおかしいと思って改めてジョブを鑑定してもらうと、俺のジョブが治療師になっていたんだよね。あの時は本気で俺の命と引き換えに3人を助けたかったから、俺の命が残っただけでもありがたい。
「もうあの死んだ感覚は味わいたくない」
「といっても私は全然覚えていないのだけれどな」
「まあ気にすることでもねえか。その後の祝勝パーティは本当に楽しかったもんな!」
「そうだな。戦闘に参加してねえ俺やイレイ、冒険者や騎士団や街の人すべてを巻き込んでの大宴会は最高だったぜ!」
ドラゴンの討伐後は王都にて盛大なパーティが開かれた。変異種とカース化が重なるという前代未聞の脅威を一人の死者を出すことなく退けたということで、それはそれは盛大なパーティだった。
国王様やディアーヌ様、カロリーヌさんもさぞ楽しそうにしていたな。それから数日は王都に滞在していたが、俺が聖男というジョブを持っていることが広く伝わり、改良されたポーションのことやドラゴンから自分の身を犠牲にしようとして王都や他の者を救った英雄として思いっきり称えられた。
なんかもう黒髪の天使やら、伝説の聖男やらの二つ名がすでに広まっているそうだ。俺はすでに聖男ではないのにな。
「ソーマの旦那はそのあとも大勢からプロポーズを受けて大変そうだったな」
「そうだね……本当に大変だったよ……」
そこまではとても楽しかったのだが、そのあとがとても大変だった。
国を救った英雄として、ディアーヌ様やカロリーヌさん、他の上流貴族から連日のようにプロポーズを受けたんだよね……
国の英雄ということで、この国の王族や上流貴族とくっつけたいという気持ちは分かるのだが、この世界の女性は肉食系すぎるんだよなあ……
さすがにカロリーヌさんが夜中に部屋へ来た時は危ないところだった。最終的にはカロリーヌさんの方が恥ずかしがって部屋から出て行ってしまったが、ああいう反応はこの世界ではとても新鮮なんだよね……
「そういう意味だと聖男じゃなくなったのはある意味助かったのかな」
プロポーズについては聖男ではなく、すでに一介の治療師になってしまったという理由ですべてお断りした。この世界では治療師の地位もかなり高いのだが、さすがに王族とは釣り合わないからな。
とはいえ元聖男ということと、これまでの功績もあるので国王様よりもぜひにと言われたのだが、とある理由もあってお断りさせてもらった。
「ソーマが結婚して王都に残ると言わないで本当に良かった」
「ああ。エルミーなんて、それが心配で夜もあまり眠れなかったらしいぞ」
「そ、それはフェリスも一緒だろう!」
「………………」
そう、どうやら俺は3人のことが好きで好きでたまらなくなってしまったらしい。
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