最終話 聖男として祭り上げられてしまった件


「……こうして聖男様は自らの命と引き換えに3人の冒険者の命を救いました。聖男様というたったひとりの尊い犠牲によって、カーテリー国に現れた恐ろしいドラゴンの脅威は去ったのです」


「「「おおお~!!」」」


 パチパチパチパチ


「今宵の『伝説の聖男』のうたは楽しんでいただけましたでしょうか? 聖男様は安い治療費でどんな人でも平等に、どんな大怪我でも治療してくれた心優しき男性でした。今までにあったポーションを大幅に改良したおかげで、今もなお多くの怪我人の命を救われていると伝えられております」


「「「おおお〜!」」」


「知っている方も多いと思いますが、現在ポーションがこれほど安く、治療師の治療費がここまで安いのも聖男様のおかげですね」


「へえ~どんな男性だったんだろうな?」


「よくぞ聞いてくれました! 聖男様は見目麗しく、その美しい黒い瞳と髪はすれ違う女性すべてを虜にしたとされております。また、美しいだけではなく、エルフや獣人に分け隔てなく接してくれるまさに男神のような男性だったようですね! 巷では絶世の美男、黒髪の天使、男神様などとも呼ばれていたそうですよ!」


「ふ~ん、男巫よりも上のジョブの聖男なんて初めて聞いたよ。黒髪の天使か~一度会ってみたいものだな」


「さあ、今宵の詩はこれまでとなります。少しでも楽しんでいただけましたら、銅貨1枚でも構いませんので、こちらの箱までお願いいたします。もちろん銀貨や金貨なども大歓迎でございます!」


 パチパチパチパチ


 再び食事処に拍手の音が響き渡った。




「………………」


「くっくっく、いい話じゃねえか。あとで銀貨でも渡してくるぜ」


「……でもあれ事実と全然違うよ、フェリス」


「吟遊詩人は話を大袈裟に盛り上げるもの」


「そうだな、フロラの言う通りだぞ。それにだいたいは合っていたじゃないか」


「いや、そもそも俺生きてるし!」


 早いもので、カースドラゴンの変異種との戦いからもう3年が過ぎた。


 当然今ここにいる俺は死んでいない。あの時3人が死んだ時に突然頭の中に浮かんだ『リザレクション』という魔法。あの魔法は蘇生魔法だったようで、3人は息を吹き返してくれた。


 俺は自分の命を引き換えてもいい覚悟だったのだが、ありがたいことに俺が命を落とすこともなかった。


「……まあ、聖男としての俺は死んだと言ってもいいのかもしれないけれどさ」


 ただし、何も失わなかったというわけではなかった。リザレクションを唱えた時、真っ白な光に包まれてみんなを助けることができたが、それ以降聖男としての力を失ってしまった。


 改めてジョブを鑑定してもらったところ、俺のジョブは『治療師』になっていたのだ。これまでにジョブが変わったという前例はなかったようだが、そもそも聖男というジョブがあまりにも特殊だったからな。


 今思うと、俺が授かった聖男というジョブはあのとんでもないドラゴンへ対抗するためだけに授かったのかもしれない。


 まあなんにせよ、みんなの命と引き換えならば何を失っても惜しくはなかったし、むしろ治療師としてのジョブが残ってくれただけ儲けものだ。


「あれからもう3年か……本当に時が経つのは早いものだな」


「あの馬鹿みたいにヤバいドラゴンと戦って、死者がひとりも出なかったのは本当に奇跡だったよな。今思い出しても信じられねえぜ……」


「ソーマのポーションのおかげとただ運が良かっただけ」


「それはフロラの言う通りだよね」


 あれだけの相手に一人も死者が出なかったのは本当に奇跡だ。


 確かに吟遊詩人によって詩にされても、仕方のないことか。あれから3年が過ぎたし、その間に俺も聖男の力を失って大人しくしていたから、新しくこのアニックの街へ来た人たちは俺のことを知らないのだろう。


 今では俺個人が有名になったというよりも、聖男というジョブが有名になり過ぎて他の国まで広がってどんどん祭り上げられてしまった感じか。


 まあ、その方が俺も誰かに狙われることがなくなって助かるけどな。


「それにしても、本当に運が良かったぜ。その後のことも含めてな!」


「ああ、まさか私たちがこんなにも幸せになれるなんて、それまでは夢にも思っていなかったぞ!」


「あれほどモテなかった日々が嘘のよう。今日は3!」


 そう、俺はあのドラゴンとの戦いのあと、アニックの街へ戻ってから、3人とした。


 ……いや、待ってくれ!


 一夫一妻制の元の世界で育ってきた俺が、なんでいきなり3人と結婚してんだよ、と突っ込まれるかもしれないが、あの時3人を失ってしまった俺はすでに彼女たちがかけがえのない女性であることに気付いてしまったのだ。


 自分の気持ちを自覚してから3人と結婚するまでは本当に一瞬だった。……まさか彼女ができるのをすっ飛ばして一気に3人と結婚することになるとは思ってもいなかったぞ。


 そのあとも本当にいろいろとあった。この世界では一夫多妻制なので、3人と結婚をしてからも多くの女性からアプローチを受けたりもした。その中にはこの国の王女であるカロリーヌさんやディアーヌ様もいるし、最近ではデジアナもかなり距離が近いような気もするんだよなあ。


 3人からはカロリーヌさんだけなら妻を増やしていいとも言われているんだけれど、3人と結婚してからすぐはちょっとね。いや、さすがにこれ以上結婚する気はないぞ! ……たぶん。


「本当にいろいろなことがあったけれど、みんなのおかげで俺は今最高に幸せだよ」


 俺は俺の今の素直な気持ちを口にした。


「きゅ、急にどうしたんだよ、ソーマ?」


「そんなことを言われると、少し恥ずかしいが嬉しいぞ。お、お礼に私の番の時は私の方からいっぱい奉仕するからな!」


「まだ店の中なのにソーマは大胆……今夜は寝かさない!」


「ちょっと待てフロラ! 今日は俺の番だろうが!」


「3人とも声が大きいから!」


 この世界に来てから本当にいろいろなことがあった。


 多くの人に助けてもらいながらここまでこられた。


 そしてかけがえのない女性たちと出会うこともできた。

 

 始めは男性が女性に襲われるようなこの世界で本当に生きていけるのか不安で仕方がなかったけれど、今ではこの世界に来ることができて、本当に良かったと心の底から思っている。


 本当にありがとう、聖男様!


ー完ー





―――――――――――――――――――――

 ここまでお付き合いいただきまして、誠にありがとうございましたm(_ _)m

 皆様のコメント、★★★、フォローなどなど、本当に励まされておりました。


 そして最終話になってようやく旧タイトルの伏線を回収することができましたね(笑)

 この話のラストは連載当初から決めていました。

 ありがたいことに第8回カクヨムコンテストにて受賞して書籍になるということで、国外編の話を続けるか迷ったのですが、書籍版は改稿をしてWEB版とは別物になるため、編集さんと相談をしてWEB版は最初の予定通りの形で物語を完結する運びとなりました。


 書籍化作業をしていると、WEB版は作家としてまだまだ未熟だったなあと思いましたね。物語が中弛みする場面も多かったですし、もっともっと貞操逆転異世界を活かせたと思います。


 そんな訳で、いよいよ明日の5月17日より、ファンタジア文庫様からタイトルを『男女の力と貞操が逆転した異世界で、誰もが俺を求めてくる件』に改題して書籍版の第1巻が発売されますo(^▽^)o


 ファンタジア文庫様の特設ページの試し読みにて口絵や挿絵の一部が見られますので、ぜひご覧になってください!

https://kakuyomu.jp/users/iwasetaku0613/news/16818093076510627433


 WEB版には出てこなかった男騎士の友人や海の話などだいぶ改稿されており、WEB版を読んだ方でも楽しめるようになっております!

 続刊やコミカライズなど、発売から1週間の売り上げが非常に重要らしいので、何卒よろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾


 また、物語自体は完結しましたが、来週あたりに蛇足・おまけ編として2〜3話更新する予定なので、完結後のお話が気になる方はフォローは1〜2週間そのままで(笑)

 ★★★がまだの方はぜひよろしくお願いいたします。


 こちらの作品は完結となりましたが、執筆活動はこれからも続けていきますので、他の作品も含めて今後ともよろしくお願いいたします(*´꒳`*)

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