第169話 聖男

次話は明日の18時に更新。

明後日より書籍第1巻が発売されますので、よろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/users/iwasetaku0613/news/16818093076510627433

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「うう……」


 身体中が痛い……


 全身が燃えるように熱い……


 魔力切れの影響で頭が痛いし、吐きそうなほど気持ちが悪い……


「生き……てる……」


 だけど俺は生きていた。


 カースドラゴンの変異種の最後の攻撃を受けて、それでもなお生き残っている。


「みん……な……」


 そうだ、みんなは!


 エルミーは、フェリスは、フロラはどうなったんだ!


「うっ……」


 重い身体を何とか起こしながら、周囲を見渡す。さっきまでたくさんの木々があったのに、周囲は完全な焼け野原となっていた。


「っ!」


 俺が倒れていたすぐ傍に倒れていた3人の姿を見つけた。だが、全身が真っ黒になっており、ピクリとも動かない。


「エルミー、フェリス、フロラ!」


 俺が声を掛けても3人にはまったく反応がない。


「痛っ……」


 立ち上がろうとすると、全身にさらに激痛が走った。自分の身体を見ると、身体のところどころが黒い火傷のようになっていた。右腕に関してはそのすべてが真っ黒になっていて、動かせないどころか感覚が一切ない。


「ヒール……」


 回復魔法を口にするが、魔法が発動しない。完全に魔力を使い切ったせいで、もうただのヒールですら使えない。


 全身の痛みに耐えながら、身体を引きずるように3人のもとへ歩みを進める。


「嘘だ……嘘だ!」


 3人ともまったく呼吸をしていない。


「ハイヒール! ハイヒール! ハイヒール!」


 何度回復魔法を唱えても魔法がまったく発動してくれない。


「う、うう……」


 朦朧とした意識の中、ドラゴンの漆黒の光線が迫ってきた時のことを思い出す。


 漆黒の光線が俺の3枚の障壁をぶち破り、フロラの土の壁を破壊してフェリスの盾をも溶かして、俺の視界が黒い光に埋め尽くされたその時、フェリスの盾の後ろでエルミーとフロラが俺をかばうように覆いかぶさってきた。


 みんなが俺をかばってくれたおかげで、今俺は生きている。


「……ふざけんな! ハイヒール、ハイヒール、ハイヒール!」


 再び回復魔法を唱えても、いつも見ている回復魔法の緑色の光は起こらない。魔力切れ……それとも、3人はもう……


 いや違う、単に俺の魔力が切れているだけだ! そうに決まっている!


「ソーマ様、ご無事で良かったです! 早くポーションを!」


「デジアナ!」


 デジアナが駆けつけてくれた。遠くの方から、ティアさんたちやターリアさんたちがこちらに向かって走ってくるのも見える。ドラゴンに止めを刺せたのか? いや、今はドラゴンなんてどうでもいい!


 デジアナが俺にかけてくれたポーションのおかげで一気に身体中の痛みが引いていく。


「デジアナ、みんなにもポーションを!」


「は、はい!」


 俺やみんなが非常用に持っていたポーションは先ほどのドラゴンの攻撃によりすべて吹き飛んでしまっていた。回復魔法を使えない今はこのポーションに賭けるしかない!


「ソーマ様……残念ながらもう……」


「……っ!」


 嘘だ、そんなわけがない! そんなことを認めてたまるか!


「ソーマ様!」


「「ソーマ殿!」」


「ティアさん、ターリアさん、ディアーヌ様! 早くポーションをみんなに! それとすぐに王都にいるデーヴァさんを呼んできてください! 俺はもう魔力が切れて、回復魔法が使えません!」


「ポーションが残っている者は早くエルミーたちにかけてやるんだ!」


「すでにドラゴンとの戦闘は終わって、王都にいる治療師のみなをこちらに集めているところだ。すぐに他の治療師の者もこちらに来てくれるはずだ!」


「デーヴァ殿を連れてくる! 俺が連れてきた方が早いはずだ!」






「………………」


「ソーマ殿。残念ながら3人はもう……」


 ティアさんや集まって来てくれた騎士と冒険者が持っていたポーションをあるだけ全部3人にかけた。だが、何も起こらなかった。


 ディアーヌ様がデーヴァさんを連れてきているところだが、すでに命を落とした者に対して回復魔法は効果がない。


「エルミー、フェリス、フロラ。君たちは本当に立派だった。僕は命を賭してソーマ様をたちを守り抜いた君たちを一生尊敬するよ!」


 ティアさんが3人に向かって片膝をついて頭を下げる。


「うむ、カース化したドラゴンの変異種という前代未聞の強敵からソーマ殿を守ったのだ。その功績や名誉は一生称えられるであろう」


 ターリアさんも3人に向かって頭を下げた。

 

「うう……」


 違う、そうじゃない! 俺だけが生き残ってみんなが死ぬだなんてことは許されるはずがない!


「ハイヒール! ハイヒール! ハイヒール!」


 何度回復魔法をかけてもみんなが目を開けることはない。


「くそっ!」


 頼む、神様! 一度だけでいい、一度だけでいいから奇跡を起こしてくれ!


「ハイヒール! ハイヒール! ハイヒール!」


 金も名誉も何ひとついらない! 俺にできることなら何でもする! だから彼女たちを生き返らせてくれよ!


「ハイヒール! ハイヒール!」


 みんなには何度も命を救ってもらった! 俺のすべてを――命を捧げても構わない! だから、どうかみんなを!


「ハイヒール……」


 頼むよ、聖男様……


「んなっ!?」


「こっ、これは!?」


「ソーマ様!」


 俺が両手を組んで祈りを捧げると、突然俺の身体全体が白い光に包まれた。それと同時に頭の中にひとつの魔法が浮かんだ。


 治療師が使える魔法でも、男巫が使える魔法でもない。まさか、これは聖男だけが使える魔法……?


 俺は両手を3人に向け、その魔法を口にした。


「リザレクション!」


 その瞬間、この場が眩いほどの真っ白な輝きに包まれた。

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