第168話 道連れ


「いくぞ、ソーマ殿が命を懸けて作ってくれたこのチャンスを絶対に逃すな!」


「うおおお! 防御なんて気にすんな! 何としても削り切れ!」


「ここで命を懸けないでいつ懸けるんだ! 女ならここでやってやる!」


「さっきの攻撃はもう撃たせない! 魔力もここで全部使ってやる!」


 騎士団と冒険者の全員が一丸となってカースドラゴンの変異種を攻める。防御を捨てて果敢にもドラゴンへと突っ込み、魔法使いは持てる魔力のすべてを使ってドラゴンへ魔法を放つ。


「GYAOO!」


 ドラゴンの方も残った力を振り絞って力の限り暴れている。だが、その巨大な尻尾は魔法の一斉掃射でボロボロに千切れ、右腕はディアーヌ様とティアさんの攻撃により斬り落とされ、攻撃力は半減している。


 これなら防御を捨てて攻撃しても大きなダメージを受ける可能性は低いので、味方も思いっきり攻めることができる。


「ちくしょう、タフすぎるだろ!」


「なんという生命力だ……」


「しつこい魔物は嫌われる」


 ドラゴンまで近付いて聖魔法を放ったあとはエルミーたちと一緒にドラゴンから離れる。万が一さっきの攻撃を仕掛けてきた時のために備えて王都とは反対側の森の方へと回り込んで、障壁魔法を張る準備をしている。


 最悪の場合でもこれで王都と味方に先ほどの攻撃は当たらないで済む。王都の奥には聖魔法を使用できる治療師たちも集まっている。先ほどの漆黒の光線は下手をすれば王都の城壁を破るだけではなく、その奥に待機している味方全員をも一撃で屠りかねない。


「まずい、先ほどの攻撃が来る!」


 エルミーが叫ぶ。ここからではよく見えないが、先ほどのように口から黒い炎が見えたのかもしれない。


 くそっ! 森の中へ入って木々の間に隠れて移動したのだが、やはりあのドラゴンは俺の方を向いている。聖魔法を使用できる者がどこにいても感覚で分かるのだろうか。


 先ほどの威力を見るとどんなに遠くに離れても無駄だ。それに高速で横に回避をしようと移動したとしても、あのドラゴンは光線を放つ口をほんの少しずらすだけで、簡単に俺を捉えることができる。


 頼む、何としてもドラゴンが先ほどの攻撃をする前に仕留めてくれ!


「うおりゃああああ!」


「GRUU!」


「やった!」


 騎士団と冒険者の総攻撃によって、残りひとつだった左の前足も斬られて宙を舞った。這いずるように四足歩行で移動していたドラゴンの両腕が斬られたことにより、もうこいつはまともに動くことさえできなくなったはずだ。


「いや、まだだ!」


「ちくしょう、早く止めを!」


 前衛の味方の叫ぶ声が聞こえる。


「GYAAAAA!」


「マジかよ!?」


 両前足失ったドラゴンが地に這いつくばりながらもその口を俺たちの方へ向ける。あのドラゴンは俺たちを道連れにする気だ!


「くそったれ、死なば諸共ってことかよ!」


 フェリスが盾を前に構える。


 だが駄目だ! さっきの攻撃は盾なんかじゃ防ぎきれるものじゃない!


「だけどソーマだけは守ってみせる!」


「ああ、必ずだ!」


 フロラとエルミーも俺の前に出る。


 くそっ、魔力を使い過ぎてもう障壁魔法によるバリアは出せても1枚だけだ。これじゃあ今回は防ぎきれない!


 あいつは俺がどこに逃げても、その方向へさっきの攻撃を放ってくる。かくなるうえは――


「っ!? エルミー離して!」


「どうせソーマのことだから私たちのことだけでも逃そうとするのだろう。だが、そうはいかないぞ!」


「ここまできたら一蓮托生!」


「おう。俺が何としても防いで見せるから、そのままソーマを離すんじゃねえぞ!」


 くっ、みんなに俺を置いて逃げてくれと言っても絶対に逃げてくれないのは分かり切っているから、こっそりとみんなから離れようとしたのに!


「ここでソーマだけが犠牲になるのはなし!」


「そうだな。ここまできたらたとえどんなに可能性が低くても、全員が助かる可能性に賭けよう!」


「ああ、絶対に防ぎきってやるさ!」


「みんな……」


 ここで俺さえ犠牲になれば、みんなは確実に助かるのに……


「来るぞ!」


「……っ!」


 駄目だ、もう俺が離れても間に合わない!


「障壁、障……壁!」


 1枚目の障壁を先ほどと同じようにドラゴンに対して斜めに、さらに俺たちだけを守るように小さく張る。サイズを小さくしたことにより、魔力切れの症状が起きながら、ものすごい疲労感と嘔吐に襲われながらもなんとか2枚目の障壁を張った。


「ストーンウォール!」


 フロラも先ほどの防御で魔力をほとんど使い切っていたようだが、面積は小さいながらも、先ほどと同じように土の壁を魔法で作り出す。


 そして次の瞬間、漆黒の光が俺の視界を埋め尽くした。




―――――――――――――――――――――

次話更新は5/15になります!


いよいよ5/17(金)に書籍1巻が発売されます(o^^o)


下記近況ノートの特設ページの下の方にある【試し読み】より、少しえちちな口絵と挿絵の一部を見ことができるようになりましたので、ぜひご覧くださいm(_ _)m

https://kakuyomu.jp/users/iwasetaku0613/news/16818093076510627433

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