第162話 集中砲火


「ちっ、やはり聖水がなければ、攻撃が届かねえな。これがカース化ってやつか、なんつー面倒な野郎だ!」


「ディアーヌ様、あまり近付かないようにお気を付けください!」


「今はカースドラゴンの変異種をこれ以上王都の城壁へ近付けさせなければよいだけですから!」


「わあっているよ!」


 ……ディアーヌ様の声は大きいから城壁の上からでもよく聞こえるな。


 今カースドラゴンの変異種の相手をしているのはこの国の第一王女であるディアーヌ様の精鋭騎士団だ。彼女たちはドラゴンの周囲に数人ずつ分かれてうまく連携をして、その場にドラゴンを釘づけにし、王都のある城壁へ近付けさせないように戦っている。


「ディアーヌ、あまり前に出過ぎでないぞ!」


「ああ、分かっているよ!」


 国王様が拡声器のような声の大きさを増幅する魔道具を使って、巨大なドラゴンにだいぶ近付いて戦っているディアーヌ様に指示を出す。


 いや、戦っているのではなく、完全に時間を稼ぐように立ち回ってもらっている。……若干ディアーヌ様は前に出過ぎているような気もするが、それもある意味あいつにこちらの動きを悟らせないようになっているのかもしれない。あのカースドラゴンの変異種にどれほどの知能があるかにもよるけれどな。


 というのも、問題は聖魔法を込めたポーションである聖水の数だ。アニックの街にいるユージャさんの協力によってカース化を無効化する聖水ができたのは良いが、素材の関係もあって、限られた時間の中ではそれほどの量を作ることができなかった。


 先ほどのように聖水の効果時間はかなり短いようだし、何も考えずに使用していたらすぐになくなってしまう。そのため、国王様やカロリーヌさんたちはある作戦を立てた。


「……今のところは死者も出ておらず、作戦通りのようであるな」


「はい、お母さま!」


 まずはディアーヌ様たちのこの国の騎士団たちの精鋭がドラゴンの相手をする。人数は少ないがこの国の精鋭かつ、攻撃はしないであまり近付かず防御に徹しているため、巨大なドラゴンの攻撃に何とか耐えている。


 味方の方はうまく連携をして、危ないところはお互いカバーをしながらなんとかあの巨体と渡り合っている。


 そして他の街や村から応援に来てくれた冒険者たちが周囲にいる変異種の影響で凶暴化した魔物をどんどん削っていく。凶暴化した魔物も数はものすごく多いが、こいつらは無限に湧いてくるわけではないので、先にこいつらを片付けていく作戦だ。


 周囲の魔物を一掃してからドラゴンに聖水を使って一気に全員で叩く。一番の正攻法だが、問題は周りの凶暴化した魔物を倒しきるまで、ディアーヌ様たちの部隊がドラゴンの攻撃に耐えられるかどうかだ。




「よし、このままのペースで行けば押し切れそうであるな」


 順調に凶暴化した魔物たちを削り続け、周囲の凶暴化した魔物をほとんど倒しきれたようだ。ここまで死者が一人もいないことが本当に奇跡のようだ。みんな国王様の命令通り、とにかく死なないことを優先して戦っている結果だ。


 確かにドラゴンは個体としても十分な脅威だが、こちらも今回の戦いでは回復ポーションがある上に、王都だけでなく多くの味方が集まってくれた。はっきり言って、普通の変異種の魔物あるいはカース化した魔物であったら余裕で倒せたと思う。


 だが、こちらも綱渡りなことに代わりはない。なにせ敵の巨体による攻撃力はとんでもないからな。俺でさえバリアを張るタイミングを見計らって精神をすり減らしているので、実際に戦っているみんなの消耗はそれ以上だろう。


「お母さま、森の方向からもほとんど凶暴化した魔物は現れなくなりました。そろそろ頃合です!」


「うむ、作戦通り一部の部隊を残して総員でカースドラゴンの変異種本体を攻める! ジャニー合図を頼む!」


「はっ!」


 ジャニーさんの合図により、まだ現れるかもしれない魔物を警戒するために一部の部隊を残して、味方が円を描くようにドラゴンの周囲へと配置につく。


 ドラゴンを相手にしている間は背後を警戒している余裕がないから、味方を信じて背後を預ける。


「総員配置についたな! 一気にケリをつけようぞ! 作戦通りディアーヌの合図にて一斉掃射である! こちらも城壁の上より一定の余力を残して全力で魔法を撃て!」


「「「はっ!」」」


 国王様の号令により城壁の上にいる魔法使いたちが魔法によって集中砲火する準備を始めた。それと同時に他の兵士たちが投擲機の準備をしている。もちろん投擲機に載せているのは俺が聖魔法をかけたポーションである聖水だ。


「よっしゃあ、粘った甲斐があったぜ! 総員投擲準備!」


 そして城壁の下でもドラゴンを取り囲んだ騎士団や冒険者の味方が各自で持っている聖水を投擲する準備をする。


 聖水の効果が切れてしまえば、カース化した魔物の特徴である不死の力によりすぐに回復してしまう。それを防ぐためにも勝負は一瞬で決めなければならない。そのため、今回の一斉掃射で今回用意できた半分の量を一気に使う。


 勝負が決まるのは一瞬だ。

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