第160話 カースドラゴンの変異種


「なんという禍々しさ……あれがカースドラゴンの変異種であるか……」


 しばらくすると、城壁の上にいる国王様や俺たちの目にもカースドラゴンの変異種が見え始めた。


 身体の大きさはかなり大きく、ドラゴンというだけあって、その体長は10メートル近くありそうだ。事前に聞いた話だと、カース化も変異種への変化も身体の大きさ自体は変わらないらしいので、この大きさは生前のドラゴンの元々の大きさということになる。


 そして身体の大きさも目を引くが、何よりヤバいのはその禍々しい雰囲気だ。ドラゴンと言えば赤色や緑色の鱗を想像するが、このカースドラゴンの変異種の肌や鱗は腐っているのか爛れているのか分からないがドス黒い色をしている。


 また、ドラゴンのイメージだと二足歩行で歩き両の翼を大きく広げて空を舞うイメージだが、このカースドラゴンの変異種は前足を地につけ、王都の街を目指して地を這いながら4足歩行でゆっくりと歩いてくる。


「あれほど禍々しい気配を纏った魔物は私でも初めて見ます……正直なところ、もしも騎士団だけであれに遭遇したならば、間違いなく私は即時撤退を指示するでしょうね」

 

 国王様の護衛であるジャニーさんもあんな魔物は見たことがないと言う。もちろんあんな魔物がしょっちゅう発生していたら、間違いなくこの国は滅んでいるだろうけどな。


 数十年に一度発生するという変異種、そして変異種とまではいかないが、非常に稀な確率で起こってしまうカース化の現象が、一体のドラゴンに対して起こるというこの辺りの国では過去に一度も起こったことがない緊急事態だ。


「カースドラゴンの変異種の他にもまだ周囲の凶暴になった魔物はまだまだいるみたいですね」


「前面に来ていた凶暴化した魔物たちは一通り皆さまが倒してくれましたが、横や背後に集まっていた魔物たちはまだ多く残っているようですね」


 なるほど、カロリーヌさんの言う通り、まだ凶暴化した魔物たちは残っているらしい。


「よし、作戦通りいくぞ!」


「「「おおおおお!」」」


 城壁の下で指揮を執っていたディアーヌ様の号令により、部隊が二手に分かれていく。


 ここからはカースドラゴンの変異種本体を狙う部隊と、その部隊の周囲にいる凶暴化した魔物を相手にする部隊へと分かれて戦う。


 本体を狙う部隊は最大限の注意を払い、倒すというよりもそれ以上進行させないことを第一とし、周囲の魔物を相手にする部隊が本体以外の魔物を一掃するまで耐えるのが狙いだ。


 そして周囲の魔物を一掃してから本体を相手にしていくという作戦になる。


「GYAAAAAAA!」


「うおっ!?」


「くっ……」


 カースドラゴンの変異種がものすごく大きな咆哮を上げた。


 城壁の下にいる味方がその咆哮に委縮してしまった。城壁の上にいる俺でもものすごく怖いわけだから、そいつの目前にいるみんなの恐怖はそれ以上に違いない。


「怯むな! 勇敢な者たちよ、我らが王都を――我らが国を守るのだ! 進めえええ!」


「「「うおおおおお!」」」


 対してこちら側の士気も負けてはいない。ディアーヌ様の号令の下に冷静さを取り戻し、カースドラゴンの変異種へと突撃していく。


 もちろんディアーヌ様のジョブの力もあるが、あれはディアーヌ様自身のカリスマ性が成せることでもあるのだろう。


「俺たちもいくぜ! 本隊に凶暴化した魔物を近付けさせるな!」


「おうっ!」


「任せておけ!」


 本隊の突撃と合わせて、もうひとつの部隊がドラゴンの周囲にいる凶暴化した魔物へと襲い掛かり、残りの魔物を倒していく。エルミーたちやアニックの街から来てくれた冒険者たち、そして他の街や村から集まってくれた部隊がこちらの部隊となる。


「さあて、こいつの出番だぜ!」


 ディアーヌ様が透明な液体の入った瓶の蓋を開ける。


「おらっ、食らいやがれ!」


「GRUOOOO!」


 ディアーヌ様が瓶をドラゴンに向かって投げる。そして瓶の中身の液体がカースドラゴンの変異種の右前脚へと掛かると、蒸気のような白い煙が発生して、黒く爛れていたドラゴンの肌の色が赤黒い色へと変色していく。


 そして本隊の騎士の人たちの攻撃がドラゴンの変色した部位へと当たった。


「……よし、攻撃による傷は再生されていない! やはりこの聖水は効果があるぞ!」


「「「うおおおお!」」」


 ディアーヌ様の言葉に周囲にいた味方の歓声が上がる。


 事前の調査では周囲にいる凶暴化した魔物のせいでカースドラゴンの変異種に近付くことはできなかったため、はるか遠距離から投擲された聖水によりドラゴンの肌の色が変色したところまでしか確認ができなかった。


 だが今の攻撃により、一番懸念していたカース化に対する対抗策である聖魔法を掛けたポーション――聖水の効果がしっかりと確認された。聖水を掛けて変色した部位への攻撃はカース化した魔物の特徴である不死の再生能力を抑えることができるようだ。

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