第159話 観測者
「……くそっ、なんとか戦線は維持できているが、このままじゃキリがねえぜ!」
「泣き言を言っている暇があったら、もっと攻撃を仕掛けていくぞ!」
「分かっちゃいるが、こう倒しても倒しても新しい魔物が現れるからな……」
「しかも本命のために魔力は温存しておかなければいけないので、私たち魔法使いは厳しいですね」
「おい、あぶねえ!」
「うおっ、しまった!」
「まずい、もう一体もこっちに来たぞ!」
「やべえ、やられちまう!」
「ぐわあああ!」
「ぐっ、やべえ! あいつを助けねえと!」
キンッ
「うおっ、なんだこりゃ!?」
「しめた! それはソーマ様の障壁魔法だ! 今のうちにポーションで回復して戦線を立て直すぜ!」
「「「おうっ!」」」
「……よし、もうあっちは大丈夫だ。バリアを張っている間に戦線を立て直しているな」
城壁の上まで魔物が上がってくるようなら、俺やカロリーヌ様たちは城壁の下に降りて指揮をしていたほうが良さそうに思えるが、俺たちにはもうひとつできる役割がある。
「……っ! ソーマ様、あちらに障壁魔法をお願いします!」
「了解! バリア!」
カロリーヌ様の指示により、視界の先にいる味方が危険なところへ障壁魔法を張って時間を稼ぎ、味方を援護していく。
第一陣の時は小さな魔物たちが相手では障壁魔法で援護をしている余裕はなかったが、身体の大きな魔物たちを近付けさせないようにするための障壁魔法は使うことができた。とは言っても、城壁の上から俺が見える範囲には限りがあるけれどな。
そして多くの味方と魔物が戦っている混戦状態の中で、適切な援護をするためには戦況すべてを見極めることができる人材が必要となる。
カロリーヌ様のジョブである『観測者』は直接戦闘をする際には何の役にも立たないジョブであるが、戦闘を指揮する際にはその効果を強く発揮する。常人よりも広い視界を持つことができ、視力も上がって遠くの状況を把握できるようになるらしい。
確かにそれほどレアなジョブではなく、国の後継ぎとしてそのジョブはあまり魅力的でないのかもしれないが、今の状況でそのジョブはとても有用だ。様々な知識を持っているし、以前第一王女のディアーヌ様が言っていたように、最前線で戦うことはできないが、指揮官としてはかなり優秀なのかもしれない。
「……多少危ういような場面も増えてきたようであるな」
「はい、お母さま。こちらもソーマ様のポーションがあるおかげで戦えておりますが、やはり敵の数が想像以上に多いようですね」
今のところはうまく戦えているようだけれど、やっぱり敵の数が多すぎる。倒すたびに新しい敵がまた森から現れるといった様子だ。これですでに遠征隊が多少数を減らしているんだから厳しいものだ。変異種に近付えば近づくほどこんな魔物がたくさん出てくるのだから、仕方がないと言えば仕方がないけれどな。
こちら側も多少はポーションでは治療できない部位欠損の怪我や大きな怪我をする人たちが出てきたので、順番にハイヒールで治療を続けていく。そしてカロリーヌ様が危険な状況を検知したら、城壁の上から障壁魔法で味方が立て直す時間を稼いでいく。
「ソーマ様、無理だけはしないでくださいね」
「ええ、俺は大丈夫ですよ。カロリーヌ様こそ無理はしないでくださいね」
なかなかせわしない状況だが、泣き言を言っている時間はまったくないぞ。後方からの援護とはいえ、俺が気を抜けば大勢の人が死んでしまうかもしれないんだからな。
後方支援の俺がこれだけ気力を消耗しているということは、最前線で戦っているみんなの消耗はすさまじいだろう。怪我や疲労なんかはポーションで回復できるかもしれないが、精神的な疲労は回復できない。
常に即死の攻撃は避けつつ、巨大な魔物の強烈な一撃をさばいていくんだから、その精神的疲労は想像もできない。しかもこの後に控えているカースドラゴンの変異種のために魔法使いは力を温存しているんだからさらに厳しいところだ。
とはいえ、何とか戦線は維持できているようだ。空を飛んでくる魔物もほとんど倒したらしい。さすがに城壁を飛び越えられるような空を飛んでくる魔物の数はそこまでいないようなので助かっている。このまま戦闘を続けていけば何とかなるはずだ。
「……っ!? お母さま、前方にカースドラゴンの変異種を確認しました!」
「ついに来たか……ジャニー、皆の者に警告を頼む!」
「はっ!」
しばらく第二陣の変異種の影響で凶暴化した魔物たちと戦いを続けていると、遠くを見ることができるジョブを持つカロリーヌ様がついにカースドラゴンの変異種の姿をその目に捉えた。
さあ、ここからが本当の戦いだ!
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