第158話 空飛ぶ魔物
「ソーマ様、治療をお願いいたします!」
「ええ、任せください! ハイヒール!」
俺も下での状況は見ていたので、すぐに彼女に対してハイヒールの魔法を掛ける。
激しい緑色の輝きが彼女を包み込み、失ったはずの彼女の右腕が、食いちぎられてしまった根本から一瞬で生えてきた。
「うおっ、右腕が!? う、動く! ちゃんと今まで通りに動くぞ!」
「す、すげえ! こ、これは奇跡だ!」
「無茶だけはしないでくださいね。即死さえしなければ、必ず治療して見せますから!」
「は、はい! ありがとうございます、この御恩は決して忘れません!」
「ソーマ様、感謝します!」
無事にハイヒールで失った女性冒険者の右腕を治療した。さすがに相手が大きな魔物だと、こちらも多少の怪我くらいでは済まないみたいだ。
「よっしゃあ、すぐに戦線に戻るぜ!」
「おう、これならいけるぜ!」
怪我を治療した女性の冒険者がすぐに戦線へと戻っていく。そしてその姿を見た味方の士気がさらに上がっていった。
実際に右腕を失った人が一瞬でその右腕を治療されて戦線に復帰したら、その士気も上がるというものだ。あれを見て、他の人たちも即死だけは避けて戦ってくれるに違いない。
ちなみにだが、俺が使用する回復魔法については失った血も合わせて回復されることはすでに確認できている。つまり即死しない限りは何度でもすぐに回復して戦線に戻れることとなる。
俺の魔力も有限ではあるが、多少休憩すれば少しずつ魔力は回復していって、またすぐに回復魔法を使用できるようになるからな。
「さすがソーマ殿であるな」
「ええ、ソーマ様のおかげで味方の士気もとても上がっております」
「戦闘では役に立てない分、後衛で頑張りますよ」
俺の方も直接戦闘では役に立てないが、後衛で味方の士気を上げつつ、味方を治療することはできるようだ。
「国王様、カロリーヌ様!」
「ソーマ様!」
「うわっ!?」
「ゲギャアアアア」
俺や国王様とカロリーヌ様の目の前に現れた、巨大な翼を持った魔物が護衛のジャニーさんとデジアナに斬られて、城壁の下へと落ちていった。
「ご無事でしたか、ソーマ様」
「う、うん。ありがとうね、デジアナ!」
「いえ、とんでもございません! ソーマ様がご無事なようで何よりです!」
「うむ、よくやってくれたぞ、ジャニー」
「はっ! どうやら変異種の影響で凶暴化したワイバーンのようです。空中から襲ってくるので、地上部隊も迎撃の撃ち漏らしもあるようですので、皆さまもお気を付けください!」
「は、はい。ありがとうございます」
城壁の下を見ると先ほどこちらを襲ってきた両翼のあるトカゲのような魔物が落ちていた。どうやらあれがワイバーンという魔物らしい。空を飛んでくる魔物までいるのか……
城壁の上にいるから安全だと思って、少し気を抜いてしまった。
「ソーマ、すまない! 無事だったか?」
「うん、ジャニーさんとデジアナに助けてもらったよ!」
城壁の下へエルミーたちがやってきて声を掛けられたので、こちらからも城壁の下へ顔を出して返事を返す。
「わりい、何匹か撃ち漏らしちまったぜ!」
「空を飛ぶ魔物も出てきたから、ソーマたちも気を付けて!」
「うん、了解!」
周囲を見ると、先ほどのワイバーンの他にも鳥型の魔物なんかも少しだが現れ始めていた。
あいつらは空を飛んでいて、城壁を一気に飛び越えてこれるから俺たちも注意しなければいけない。
「空を飛んでくる魔物はこちらでも倒してゆくぞ! 皆の者、構えるのだ!」
「「「おおおおお!」」」
ジャニーさんの号令により、城壁の上に登っていた騎士団も陣を敷いて空を飛んでくる魔物へ向けて構える。
「ゆくぞ、ファイヤーランス!」
「くらえ、エアリアルランス!」
城壁の上からは下にいる味方へ攻撃が当たらないように弓矢は使わずに魔法攻撃を主体としているようだ。さっきくらいまで近付いてきたらジャニーさんたちが剣や槍で仕留めている。
「城壁の中には決して入れてはならぬぞ!」
「はい!」
「了解です!」
空を飛んでくる魔物たちが現れ始めたこともあって、城壁の上の方にも騎士の人たちがさらに集まってきた。
王都の住民の大半は避難しているが、王都から離れなかった住民も多少はいる。その人たちは今回カースドラゴンの変異種が来る方向から一番離れた場所に集まって避難している。
一応その避難先にも戦える兵士は少しいるが、この前線よりもはるかに少ないから、この城壁から先は魔物を一匹も通してはならない。
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