第157話 第二陣
「みんな、怪我はない?」
「ああ、大丈夫だ。怪我ひとつないぞ」
「今のところ死んだやつは一人もいねえようだな」
「ソーマが回復魔法をかけてくれたポーションのおかげ」
「よかった!」
交代で休憩をしている城壁の上にエルミーたちが上がってきてくれた。今のところ死者はひとりも出ていないようだ。
やはりこちらの世界の騎士団や冒険者の人は今まで回復手段がなく、防御に特化した戦い方をしていたことが幸いしたようだ。今までに回復ポーションがなく、治癒魔法が高価だったこの世界に初めて感謝したかもしれない。
「ああ。だけど本番はこれからだからな」
「おう、ここからが俺たちの腕の見せ所だぜ!」
「ちゃんと魔法も温存していた」
「うん、気を付けてね!」
エルミーたちもちゃんと力は温存していたみたいだ。ここからは先ほどよりも大きくて強い魔物が現れる。どうかみんな無事でいてほしい。
「……あまり納得はしていないけれど、ソーマを任せる」
「はい! ソーマ様は私の命に代えても守ってみせます!」
フロラがそう言うと、俺の隣にいたデジアナが元気な返事をする。
……デジアナは本気で命をかけて俺を守ってくれそうだから、そういうことは言わなくてもいいかもしれない。
「むっ、来たか!」
「はい! 一際大きな魔物の群れがやってきております」
変異種の影響で凶暴化した魔物の群れの勢いが収まってきてからしばらくして、先ほどよりも大きな魔物の群れが森の奥より現れた。これがおそらく先ほどみんなが言っていた第二陣ということだろう。
「……確かにさっきの魔物よりも身体の大きい魔物たちが多いね」
「エイドリノサス、グレイベルボア、アーロディア……どれも人を襲うことがない草食の大人しい魔物達ですが、カースドラゴンの変異種のせいで凶暴になっているみたいです」
カロリーヌ様が言うにはあの魔物達の多くは普段大人しい魔物らしい。普段大人しくても、あれだけ大きな魔物なら、その巨体を活かして突進してくるだけでだいぶ脅威だ。
「他にもハイオークやホブゴブリンなどの元から凶悪な魔物たちもいるな」
国王様の指差す方向にはオークやゴブリンたちよりも大きな体躯を持った魔物も現れてきた。
……なんともすごい光景だ。なんの備えもなくこんな魔物達が攻めてきたら、カースドラゴンの変異種以前の問題だ。小さな村なんかへこの魔物たちが攻めてきたらひとたまりもないだろうな。
「必ず単独で戦うな、複数人で連携して戦うのだ! われらの連携を魔物どもへ見せてやれ! 怯えるな、我らには勝利の男神様がついておられるぞ!」
「「「おおおおお~!」」」
「………………」
第一王女のディアーヌ様の号令により、今まで以上に味方の士気が上がっていく。……この際勝利の男神様については置いておこう。
「進めええええ!」
「「「おおおおお~!」」」
大きな歓声が上がり、再び変異種の影響で凶暴化した魔物との戦いが始まった。
「……うむ、なんとかみな戦えているようであるな」
「はい、お母さま。さすが国の精鋭の方々です」
第二陣の魔物たちとの戦いが始まったが、城壁の下にいる味方はうまく連携を活かして戦っている。先ほどよりも身体の大きい魔物たちが多く手こずっているようだが、こちらの味方の方が数が多く、多対一でうまく戦えているようだ。
「うおらあああ!」
「おい、多少の攻撃程度じゃ反撃してくるから気を付けろ!」
「おう、さっきの凶暴化した魔物との戦いでそいつは分かっているぜ!」
「よっしゃあ、少しずつ削っていくぞ!」
先ほどの第一陣の凶暴化した魔物たちとの戦いで、ちょっとやそっとの攻撃くらいでは迷わず反撃してくる敵の魔物の特性には多少慣れてきたようで、あまり深くは踏み込まず、機動力である足や目を狙っていき、とどめを刺す時は一気に決めるような戦法を取っているようだ。
決める時は魔物弱点である首や心臓を狙って敵の反撃を食らわないように攻めているらしい。先ほどの魔物たちよりも身体が大きいため、一度の反撃が致命的な一撃になりかねない。
そう考えると、先ほどの第一陣での魔物たちの戦いによって、多少は凶暴化した魔物達との戦いに慣れることができたのはある意味で良かったとも言えるかもしれない。
「キシャアアア!」
「ぎゃああああ!」
「くそっ、腕をやられたか! おい、こっちの援護を頼む!」
「おう、ここは俺たちに任せて、一旦引け!」
「感謝する! ……くそっ、ポーションじゃ治らねえ! おい、ソーマ様のもとへ連れていくぞ!」
「ああ! おい、大丈夫だから耐えるんだぞ!」
「ううう……」
女性冒険者のひとりが、大きな狼型の魔物により右腕を食いちぎられてしまったようだ。彼女をかばうようにパーティメンバーが彼女に肩を貸して他の援軍を呼ぶ。
すぐに近くにいた味方が狼型のモンスターのタゲを取る。そして右腕を食いちぎられてしまった女性の冒険者は仲間たちに連れられて城壁の上へとやってきた。
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