第156話 第一陣
「おりゃあ!」
「くらえ!」
「グギャアアアア!」
凶暴化した魔物の群れとこちらの軍がぶつかり合う。相手は変異種の影響で凶暴化した魔物とはいえ、王都に集まっているのはこの国の精鋭の騎士団や冒険者達だ。それぞれで数人のグループを作って魔物と戦い、次から次へと魔物を屠っていく。
凶暴化した魔物はゴブリンやオークのような魔物だけではなく、オオカミやイノシシ型の動物型の魔物までさまざまだ。普段は大人しいはずのウサギやシカの魔物なんかも変異種の影響で凶暴化して人を襲うようになっている。
「……今のところは問題なさそうですね」
「うむ、こちらの騎士団や冒険者たちは腕利きの者たちばかりだえあるからな。しかし予想よりも凶暴化した魔物の数は多い。予め魔物の数を減らしておかなければ危なかったであろう」
国王様の言う通り、森の奥からは次々と魔物が現れてくる。事前にティアさんたちの遠征部隊やエルミーたちが魔物の数を減らしてくれていなかったら、もっと大変なことになっていただろう。
この世界は元々回復魔法が治療師しか使うことができなく、ポーションの効果もあまりなかった。そのため、戦闘は攻撃よりも防御に重点が置かれており、熟練の戦士ほど敵の攻撃を回避したり防いだりすることができる。
「うっ、やられた!」
「気を付けろ! 凶暴化している影響で、ちょっとやそっとの攻撃じゃ止まらねえぞ!」
しかし、今回の相手は変異種の影響により凶暴化した魔物たちで、多少の攻撃ではひるまずに反撃してくるため、みんなも普通の魔物を相手にするよりも苦戦しているようだ。
変異種の魔物は数十年に一度くらいの割合でしか発生せず、凶暴化した魔物との戦闘経験がある者はほとんどいなかった。
「おい、大丈夫か! ほら、ポーションだ!」
「ああ、すまねえ……うおっ、なんじゃこりゃ!? 一瞬で怪我が治っちまったぞ!」
「こりゃすげえ! なんて回復力だ!」
だが、今回は聖男のジョブである俺が回復魔法を使ったポーションを準備してある。そのため、今回戦闘に参加している人たちには即死だけはしないように立ち回るよう伝えてある。
最悪四肢をやられてしまっても、ハイヒールによって治療をすることができるから、命さえ失わなければなんとかなる。
「ソーマ様のポーションのおかげで、たとえ凶暴化した魔物であっても問題なく倒すことができそうですね」
「さすがソーマ様です!」
「……うん、今のところは問題なさそうだね」
カロリーヌさんとデジアナの言う通り、今のところこちらの味方にはまったくと言っていいほど被害が出ていないようだ。凶暴化した魔物は確かに脅威で数も多いが、こちらの味方はうまく連携をとって、多対一になるように魔物と当たっている。
そして連日ポーションに回復魔法を掛けていたこともあって、ポーションにはかなりの数のストックがある。だれかが怪我をしても味方の誰かが即座に回復をしているし、問題はなさそうだ。
逆に今まで変異種と戦う時は今回のような回復ポーションがなかったわけだから、変異種本体と戦う前からかなりの被害が出ていたに違いない。そりゃ災害とか天災と呼ばれているわけだよ。
「せい!」
「おらあ!」
「ファイヤーバレット!」
「ゲギャアアアア!」
城壁の上からエルミーたちを見つけた。その周囲にはティアさんたちのパーティやターリアさん、アニックの街から応援に駆けつけてくれた冒険者のみんながいる。
エルミーたちはもうすでにかなりの数の魔物を倒している。さすがAランク冒険者だ。
今のところは問題なさそうだが、油断してはいけない。なぜなら凶暴化した魔物は変異種に近付けば近づくほどより凶暴性を増すらしいからな。
「……ようやく魔物の波が引いたようであるな」
「はい、お母様。調査部隊の報告と過去の変異種の記録と一致しております」
国王様の言う通り、城壁の下を見ると先ほどまでと比べて襲ってくる魔物の数がだいぶ減ってきた。
「まだこれからというわけであるな……よし、皆にこのことを伝えて、作戦通り交代で休息を取るように伝えてくれ」
「はっ!」
伝令役の騎士が下の味方にこのことを伝えに行く。事前の調査部隊の報告とこの王都にあった変異種の記録や他国から集めた情報によると、変異種の影響で凶暴化した魔物たちは2つのグループに分かれてるようだ。
先ほどまで戦っていた魔物はひとつ目のグループで、小型の魔物の集団となる。そしてここからやってくるのがふたつ目のグループで、より身体が大きく凶暴な魔物の集団だ。その後に今回最大の敵であるカースドラゴンの変異種が控えている。
魔物の中でどうしてふたつのグループに分かれるのかはいまだに解明されていないが、なぜかより強い魔物は変異種の周囲に集まっていくらしい。そしてこれからふたつ目の魔物のグループがやってくる。それまでの間に少し魔物の進行が遅れるようなので、交代で少しだけ身体を休めることができる。
さあ、ここからが本番だ。
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