第155話 勝利の男神


「……いよいよですか」


 場所は王都の城壁の上、大勢の人が城壁の下にいるのを見下ろす形で見ている。


「うむ、いよいよであるな」


「はい、いよいよです」


 俺の隣には国王様とカロリーヌ様がいる。


 ついに決戦の日がやってきた。とはいえ、まだカースドラゴンの変異種は見えてこない。だが、確実にこの王都を目指してこちらに向かってきているそうだ。


「皆さん、大丈夫だといいのですが……」


「大丈夫だよ、デジアナ」


 そしてこの場にはデジアナと国王様の護衛のジャニーさんがいる。エルミーたちやティアさんたち、アニックの街から援護に来てくれた冒険者ギルドマスターのターリアさんたち、カミラさんたちこの王都の騎士団は城壁の下に陣を敷いて敵を待っている。


 情報によるとカースドラゴンの変異種はゆっくりとこちらへ近付いているようだが、ここに来るまでにまだしばらくの時間が掛かる。その前に相手をしなければならないのは変異種の影響で凶暴になって大量発生した魔物たちだ。


 ティアさんたち遠征部隊や騎士団たちのおかげで多少の数を減らすことができたようだが、カースドラゴンが近付くほどその凶暴性は増すようで、ここからの魔物は王都の城壁前で陣を構えて迎え撃つことになった。


 ティアさんたち遠征部隊も数日前にこちらへ戻ってきたが、みんな無事だった。やはり魔物はだいぶ凶暴化しているようで、多少は負傷した者も出たようだが、事前に渡してあった俺が回復魔法を掛けたポーションによって治療でき、死者はゼロだったらしい。


「凶暴化した魔物も手強いようだけれど、こっちの戦力もかなりの数がいるからね」


 そう、今この王都の城壁の前にはこの国精鋭の戦力が集まって来ている。ここには王都の騎士団に冒険者、それに付近の街から集められた腕利きの兵士や冒険者たちが数百人も集まっている。


 俺も下に降りてみんなの援護をしたかったけれど、みんなに止められてしまった。俺が回復魔法を掛けた回復ポーションはあるし、俺が事前にできることはもうすべてやったので、後衛である俺が前線に出ないのは当然と言えば当然なので素直に従った。


 俺の護衛としてデジアナが一緒にいてくれる。対人経験は多いのだが、デジアナのジョブである盗賊王は魔物との戦いではそれほど役に立たないジョブらしいので、俺と一緒にお留守番というわけだ。


 今は城壁の上で国王様やカロリーヌ様と一緒に戦況を確認している。一応この城壁の上からなら、障壁魔法を発動して味方を援護することもできるからな。とはいえ、城壁は多少高い場所にあるから、戦闘中にピンポイントでバリアを張るのは難しいかもしれないが。


「むっ、どうやら敵の第一陣が攻めてきたようであるな」


「はい、お母様」


 先を見ると森の方から結構な数の魔物がその姿を現す。カースドラゴンの変異種が向かってくる方向には平原が広がっており、その平原のさらに奥には深い森がある。そしてその森の中からは様々な種類の魔物がその姿を現した。


 基本的にこの世界では他種族の魔物同士で群れを作ることはないようだけれど、変異種のせいで凶暴化した魔物たちは、たとえ種族が違っていても群れを成して変異種本体の進行方向へと共に進んでくる。


 「来やがったぞ野郎ども! 武器を持てえ!」


「「「うおおおおおお!」」」


 そしてこちらの布陣の先陣に位置するのはこの国の第一王女様であるディアーヌ様その人だった。凛とした大きな声で味方を鼓舞していく。


「敵はカースドラゴンの変異種という今までに誰も戦ったことがない未知なる相手だ! だが我らには恐れるものなどありはしない! 国なんてものはどうでもいい、だが家族や友人、そして愛する者に仇なす魔物を自らの手で退けるのだ!」


「「「うおおおおおお!」」」


 ディアーヌ様の言葉に一気に湧き上がる味方たち。ディアーヌ様はすごいな、これがカリスマというものなのだろう。


「そして何より我らには勝利の男神様がついてくれている! この勝負、我らに負ける道理があるはずはない!」


「「「うおおおおおお!」」」


「………………」


 ……まさかとは思うけれど、勝利の男神って俺のことじゃないよね?


「全軍進めえええ!」


「「「おおおおおお!」」」


 ディアーヌ様の号令でこちらの軍が一斉に凶暴化した魔物たちへと襲い掛かった。


 ディアーヌ様のジョブは『将軍』というレアなジョブで、軍を指揮するための能力が向上するだけでなく、自身の戦闘能力の両方が向上する効果があるらしい。指揮能力と戦闘能力の両方を向上させるこのジョブは軍を率いて戦うことにとても優れているようだ。


 そして先陣をきったディアーヌ様に続いて、他の騎士団や冒険者たちも変異種の影響で凶暴化した魔物へ攻撃を始める。


 いよいよ戦闘が開始された。

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