第150話 浄化魔法の付与


 やはり他国から戦力を集めるというのは難しそうだ。カースドラゴンの変異種がこの王都にまでやってくるまでにまだ一週間ほどあるようだが、他国から戦力を集め、この王都まで集結させるためにはそれ以上の時間が必要になるらしい。


「情報だけであれば、早馬を走らせたり鳥に手紙を持たせるなどをして、間に合うかもしれないが、1体の魔物にカース化と変異種が重なるという異例の事態の情報を得られる可能性は低いであろうな」


 確かに今回の件はだいぶイレギュラーだ。他の国から情報が手に入る可能性は低いのかもしれない。


 とはいえ、他国との関係が良好であるということは唯一の救いだな。なんとかカースドラゴンの変異種を討伐することができたとしても、この国の戦力が疲弊しきってきた状態の最中に他国から攻められたりしたら、たまったものではない。


 魔物も怖いが、人が怖いというのもこれまでの出来事で良く分かっているつもりだ。


「現状では付近にいる戦力を王都へと集め、ここでカースドラゴンの変異種を迎え撃つのが最善であると判断している。すでに付近の街で聖魔法を使用できる者や実力者を集めておる。そこでソーマ殿にはひとつ頼みがあるのだ」


「はい、なんでしょうか?」


 俺にできそうなことなら、いろいろと協力をしてあげたい。


「ソーマ殿に回復魔法をかけてもらったポーションの数は十分に集まった。本当に感謝をしておる。本音を言えば、あればあるだけ助かるのだが、そもそも王都にあるポーションの材料が無限にあるわけではないからな」


 昨日俺は例のポーションにひたすら回復魔法を掛けていった。そのおかげでかなりのポーションを作ることができた。てっきり今日も昨日と同じようにポーションに回復魔法をかけていくのかなと思ったのだが、どうやらそのポーションの材料が少ないらしい。


 確かユージャさんのポーションには魔鉱結晶という少し高価な素材が使われていた。例のポーションのレシピが広がってから、この素材もかなり使われていたらしいからな。


「このポーションの効果と同様に、聖魔法の力をこの液体に持たせることができないか試してみてほしいのだ」


「聖魔法の力をポーションと同じようにですか……」


 なるほど、国王様の言いたいことが分かった。確かにこのポーションに治療師の回復魔法をかけることにより、回復する力が強化される。これと同様にポーションに聖魔法をかければ、もしかしたらポーションに聖魔法の力を持たせられるのではないかということだな。


 確かに回復ポーションのように聖魔法の力を液体に持たせることができれば、カースドラゴンの変異種と戦う時に聖魔法の使い手が直接近付いて戦闘をする必要がなくなる。それができれば、かなり有利に戦うことができる。


「うむ。昨日他の治療師やデーヴァ殿にも試してもらったのだが、無理であった。ソーマ殿もあまり気負わずに試してみてほしい」


「分かりました、やってみます」


 どうやらすでに他の治療師や男巫であるデーヴァさんが試してみたらしい。だが、俺の聖男のジョブならもしかしたらという可能性がある。試してみておくに越したことはない。


 この浄化魔法は汚れを綺麗にする効果があり、汚れた水などを浄化したり、身体を綺麗にしたりする効果がある。普段は掃除の際に使ったり、お風呂がないこの世界で、たまに身体の汚れが気になる時に使っている魔法だ。


 他にアンデット系の魔物にも効果があるらしいが、今までにアンデット系の魔物と出会ったことがないから、基本的には汚れを綺麗にする魔法としてしか使用していない。


「ピュリフィケーション!」


 目の前のポーションに向かって浄化魔法をかけてみる。


「……やっぱり駄目か」


 目の前のポーションには何の変化も起こらなかった。


 これまでの回復魔法や解毒魔法、そして病気を治すリカバーの魔法をユージャさんのレシピで作ったそれぞれに対応するポーションへかけると発光現象が起こっていた。


 やはり、この現象は回復系の魔法にしか起こらないのだろうか。あるいはその魔法に対応するようなポーションでなければ駄目なのかもしれない。少なくとも例の魔鉱結晶が関係していることは間違いないとは思うのだが。


「一応こちらのポーションにも効果があるかは確認してみるが、やはり発光現象がないということは効果がないということなのであろうな」


 俺が浄化魔法をかけたポーションをお城の人が持っていく。アンデット系のモンスターか、汚れなどにかけて効果を試すのだろうが、国王様の言う通り、発光現象がないということは望みが薄いだろう。


 しまったなあ、ユージャさんがここにいればもしかしたら何かが分かったのかもしれない。ユージャさんはアニックの街にいて、アニックの街からここまで来るのには時間が掛かるので、カースドラゴンの変異種が王都に来るまでには間に合わないだろうな。


「やはりデーヴァ様と同じ男巫であるソーマ様でも難しいですか……」


 カロリーヌさんは俺が聖男であることをまだ知らない。このことを知っているのはエルミー達、国王様、デーヴァさん達限られた人だけだ。カロリーヌさんにも教えても構わないのだが、俺が聖男であると知ってしまうと変なことに巻き込まれることになるかもしれないからな。

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