第149話 他国の援助


「おお、ソーマ殿。昨日は本当に助かったぞ。ソーマ殿が回復魔法を掛けてくれたポーションは治療師のジョブを持った者が掛けたものとは効力がまったく違うのでな」


「はい、お役に立てて良かったです」


 昨日は1日中、国で用意していたポーションにエリアヒールを掛けるのと休憩を取るのを繰り返していた。そのおかげでかなりの量のポーションにエリアヒールを掛けて効力を上げることができた。


 そして今日の昼を過ぎた頃に国王様とカロリーヌさんと話をしている。ディアーヌ様は別にやることがあるようで、今はここにいない。


「それで国王様、状況はあまりよろしくないとお伺いしましたが……」


 エルミーが代表をして国王様に尋ねてくれた。昨日カロリーヌさんから聞いた情報によると、状況は芳しくないらしい。事実、昨日から王城にいる他の人がとても忙しそうに動いており、国王様やカロリーヌさんとも話す時間をほとんど取れていなかった。


「うむ、そうであるな。ソーマ殿たちには隠していても仕方がない。昨日カロリーヌより聞いたかもしれないが、どうやら例のカースドラゴンの変異種は変異種と同様に人の集まる場所を目指すという習性を持っていた」


 確かにその話は昨日カロリーヌさんから聞いたな。


「すでに変異種がいる近くの村や街には避難勧告を出して避難を始めてもらっている。だが、そうなると元々目指していた村や街に人がいなくなるため、カースドラゴンの変異種はまた別の村や街を目指すことになるであろう」


 そう、狙っていた村や街から人が避難するということは、避難した先に人が集まって、今度はその避難先の村や街が狙われることになる。


「カースドラゴンの変異種の進行方向を考えると、最終的にはこの王都を狙ってくると思われる。だが、我らはむしろそれも好都合だとも考えている。この王都は他の村や街に比べて敵国や魔物の侵入に備えがある。避難した者達を一時的に王都へと集め、カースドラゴンの変異種がこの王都へやって来る直前に別方向の村や街に分かれて避難をすれば、この王都で変異種を迎え撃つことが可能であるはずだ」


「なるほど……」


 確かにこの王都には他の村や街にはない巨大で強固な城壁がある。カースドラゴンの変異種を迎え撃つならば、この国には王都以上に適している場所はないと思われる。あの巨大な城壁の上から遠距離で攻撃できるだけで相当有利に戦えるはずだ。


 他にも食料などは当然、武器や防具などの物資の蓄えが豊富にあるだろう。王都からカースドラゴンの変異種がいる場所への距離はまだかなりあるため、戦力を他の村や街から集めることも十分に可能なはずだ。


「……問題はリスクがとても高いという点ですね。カースドラゴンの変異種を万が一撃退することができなかった場合には、この国の王都が壊滅状態となることです」


「………………」


 そうだよな、カロリーヌさんの言う通りだ。備えがあるとはいえ、この国の中心地で戦うというわけだ。カースドラゴンの変異種を撃退することができなかったり、討伐できたとしても王都が壊滅状態であれば相当にまずい状況だ。


「他の国に協力を頼むことはできないのでしょうか?」


 エルミーが国王様に進言をする。


 そうか。カースドラゴンの変異種についてはこの国の問題だけではない。もしも王都でそいつを討伐することができなければ、カースドラゴンの変異種は他の村や街を目指し、それでも止められなければ、他の国に移動することは間違いないだろう。


 それに他の国には例のポーションの時に十分な借りがこの国にあるはずだ。国王様は俺との約束を守って、他の国にもユージャさんと一緒に作り上げた例のポーションのレシピを隠さずに教えてくれた。今こそその貸しを返してもらう時だ!


「すでに近隣の国にはカースドラゴンの変異種についての情報を共有しておるのだ。カース化と変異種が偶然にも重なった魔物の現れた記録がないかも併せて確認しているところである。情報までは集めることができるかもしれぬが、戦力を集めてこの国まで派遣するとなると、おそらく間に合わぬであろうな」


 そうか、他国の実力者を集めてこの国まで派遣してもらうのにはかなりの時間が掛かりそうだ。さすがにそれよりは変異種の進行の方が早いだろう。


「他国の援助を待つために、大勢の者を大きな円を描くように移動させ、カースドラゴンの変異種を誘導しようという案もありました。ですが、国の民にそのようなことをさせるわけにはいきません。何かが起きた際にその者達の命はないでしょうからね」


 ……カロリーヌさんの言う通り、大勢でカースドラゴンの変異種を誘導し続ければ時間を稼ぐことができるかもしれないが、やつに追いつかれたり、進行方向に何か問題が起きた瞬間に誘導していた者達の命はないだろう。


「す、すみません。差し出がましいことを申し上げました」


「気にすることはない。むしろ皆も気付いたことがあれば遠慮なくいってほしい。何がヒントになるかは分からぬからな」


 うん、今はそんなことを気にしている場合ではないだろう。全員で協力してこのピンチを乗り切らねばならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る