第147話 カース化状態


「……なんだかとんでもないことになったね」


「ああ、まさかカースドラゴンの変異種とはな」


「そんな事態になっているとはね」


 俺の呟きに答えるエルミーとティアさん。王城で事情を聞いたあと、宿へと戻ってきてティアさんたちと合流し、俺たちの部屋で今後どうするかを話し合っている。


「ただの変異種ならともかく、カースドラゴンの変異種ってのはさすがにまじいよなあ……」


「元々のカースドラゴンはどれくらいの強さになるの、フェリス?」


「カース化したオーガとは一度だけ戦ったことがあるが、そん時は結構な犠牲者も出ちまった。どちらかというと冒険者よりも聖魔法を使えるやつらの犠牲者の方が多かったな」


「カース化した魔物に対抗する手段は聖魔法になる。だけどカース化した魔物は聖魔法を使うものを優先的に狙ってくる」


「うわっ、それは厳しいね」


 確かカース化した魔物は聖魔法を使わなければ、生ける屍として傷を受けても再生するんだったよな。


 それに対抗するため、聖魔法を使用することにより不死性を無効化することができるらしいのだが、その聖魔法の使い手を狙ってくるのは厳しいところだ。聖魔法は一度使用するだけではすぐに効果が切れてしまうので、継続的に聖魔法を当てていかなければならないらしい。


「私たちがカース化したオーガと戦った時もだいぶ苦戦をしたな。カース化したオーガの動きは鈍くなっていたが、その力は普通のオーガよりも上だった」


「カース化した魔物とは戦ったことはありませんが、動き自体が鈍くなる代わりにその力が強化されると聞いたことがあります。それに身体全体が禍々しいオーラに覆われていると聞きました」


「ああ、確かにそのカース化したオーガも黒いオーラに覆われていたな。聖魔法を使うと、その黒いオーラが消え、その間は不死性がなくなるようだった」


「なるほど……」


 エルミーとジェロムさんの話によるとカース化した魔物は生前よりも力が強化されるらしい。


 死んでリミッターが解除されるといった話になるのだろうか? いや、でもそれなら脚力とかも上がるはずだ。そもそも死んだ魔物が生きる屍となる時点でいろいろとおかしいか。それに魔法自体がいまだにどういう理屈なのかもわかっていないわけだしな。


 そしてその身体は黒いオーラに覆われるか。とりあえずエルミーたちがカース化した魔物と戦った経験があるというのはだいぶ大きい。


「でもソーマたちが作ったポーションのおかげで、最近の冒険者の死傷率はかなり減ってきている。これまで程の被害はでないはず」


「だが、フロラ。今回の相手はただのカース化したドラゴンというわけではなく、変異種にまでなったドラゴンだ。はっきり言って、どれほどの相手になるのか想像もできない」


 そう、エルミーの言う通り、今回の相手はさらに変異種になった魔物でもある。


「確か変異種になると、周囲の魔物の動きが活性化したり、凶暴になるんだったよね」


「ええ。それに加えて変異種自身も同様の性質を持つとされています。とはいえ、私たちも実際に見たことはありませんが」


「そうだな、変異種の方は俺たちも見たことがねえな」


 ルネスさんもフェリスたちも変異種の方には遭遇した経験はないらしい。確か変異種のほうは何十年とか何百年くらいの割合でしか発生しないと言っていたっけ。どちらかというと変異種の方が珍しいようだ。


「とりあえず、その魔物の動向についてはまだ確認中なんですよね?」


「ああ。王都の調査部隊の方が詳細な調査をしてくれているらしい。だが、周囲に凶暴化した魔物が多いため、そちらの調査もだいぶ遅れているようだ」


 ジェロムさんの質問に答えるエルミー。


 カースドラゴンの変異種の動向は現在も腕利きの調査部隊が確認をしているようだが、その周囲には凶暴化した魔物が多く集まるようで、思うようにいっていないのが現状だ。


 このまま王都から離れた場所に移動してくれれば問題ないのだが、変異種の特徴のひとつに人の多い村や街などを襲う習性があるということだ。ただし今回はカース化もしているし、どのように動くかはまったく予想できないらしい。


 唯一の救いはそいつの足は遅く、空を飛ぶことができないことだ。本来のドラゴンは空を飛ぶことができるが、魔物がカース化すると空を飛ぶことができなくなるようだ。今回の調査部隊によると地を這う黒いオーラを纏ったドラゴンが確認されたらしい。


「とりあえず明日からは王城の方で、ポーションを作る手伝いをすることになったよ。その魔物の動向が分かるまでは王城に部屋も用意してくれるみたいだね。ティアさんたちも王城近くの宿を用意してくれるみたいだよ。ポーラさんとイレイさんにも連絡を取ってその宿に移動してもらおう」


「承知しました、ソーマ様。ポーラ殿とイレイ殿にはこちらから連絡をしておきます」


「ありがとうございます、ティアさん」


 状況が分かるまで俺やエルミーたちは王城へ移動する。そこでポーションを作る手伝いをする予定だ。他のみんなには王城の近くの宿で待機してもらう予定となっている。

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