第146話 カース化と変異種
「カースドラゴンの変異種だと……」
「そんな……まさか!」
ディアーヌ様とカロリーヌさんがとても驚いた様子をしている。
「そんなことが起こり得るのか……」
「おいおい、そんな現象初めて聞いたぜ」
「私もそんな現象は初めて聞いた」
エルミーたちも国王様からの話を聞いてとても驚いた様子だ。どうやらこの中でそのカースドラゴンの変異種とやらが、どんなにやばい存在なのか分かっていないのは俺だけのようだ。
カースドラゴン……どう考えても面倒そうなドラゴンであることは間違いないだろう。カースって確か呪いという意味だったかな。
「ソーマ殿は変異種というものを知っておるか?」
国王様から質問が来た。国王様は俺が別の世界から来たということを知っているから、いろいろと説明してくれるのだろう。
「はい、フロラから教えてもらいました。なんでも突然変異によって発生した魔物ですよね。周りにいる魔物なんかも影響を受けて、魔物が凶暴化したり、大量発生してしまうと聞きました」
王都に来る際も変異種の影響で大量発生して凶暴化した魔物の群れに襲われたし、先ほどもその魔物に襲われたばかりだ。
「うむ、その通りであるな。未だにどのような原理でそうなるのかは研究結果が出ていない。その魔物が元々変異種として生まれることもあれば、ある魔物が突然に変異種となることもあるようだ。それではカース化というものはご存じか?」
「カース化? いえ、それは初耳です」
「カース化とはドラゴンやオーガ、ベヒーモスなどの高位の魔力を持つ魔物が死んだ際、極めて稀な確率で発生する現象である。カース化した魔物は知性のない化物となり暴れまわるのだ。そしてカース化の一番の問題は、カース化した魔物が不死の身体となることにある」
「不死の身体!?」
「うむ。斬られたり千切れた身体は再生し、心の臓や頭を突いたとしても死ぬことはなくなるのだ。生ける屍となり、目につく生きている者を襲うようになる」
「………………」
死ぬことがなくなるって相当ヤバいな。生ける屍ということは……
「カース化した魔物に襲われた場合、その症状が感染するなんてことはあったりしますか?」
「いや、そのような現象は今のところ確認してはいないが、そんなことも起こり得るのか!?」
「いえ、俺の世界ではそんな話もあったので、念のため確認してみただけです。忘れてください」
どうやらゾンビになるのとは少し違うみたいだ。感染とかはしないが、不死の身体を持つということらしい。
「調査部隊の報告によると、今回発生した変異種のドラゴンには肉が腐って黒く変色し、異臭を放ちつつも動きが緩慢になるというカース化した特徴がいくつか確認されたようだ」
「……カース化したドラゴンが変異種となった、あるいは変異種となったドラゴンがカース化したということでしょうか?」
「おそらくはそうなのであろう。少なくともこの国においてはそのような事象が過去に確認されたことなどありはしない……」
一体のドラゴンに対して、どちらも非常に低い確率で起こる変異種とカース化という現象が同時に起こったということか。そりゃ俺以外のみんなが驚くわけだよ!
ただでさえ起こる可能性の低い現象が2つ同時に重なった奇跡か……奇跡とかは良い方向の奇跡だけで十分なのに……
「それで、そのカースドラゴンの変異種は何とかなるのですか?」
「問題はそやつがカース化の影響をどこまで持っているかなのだ。カース化したことによって得た不死の身体。それを変異種となって凶暴化したドラゴンが持ち合わせていたとすれば、非常に面倒な相手であると言わざるを得ないな」
「……というより、不死身の身体を持った相手なんてどうやって倒すんですか?」
不死の時点でそれを倒す方法なんてないように思える。心臓や脳を破壊しても駄目ならどうにもできないじゃないか……
不死身の化物の倒し方と言えば、どこかの地に封印して閉じ込めたり、何度も繰り返して殺し尽くしたり、あとは身体のどこかに弱点があったりといったのが定番か。
「……カース化した魔物の倒し方、それは聖魔法による浄化魔法である」
「聖魔法……」
治療師の最上位ジョブの聖男である俺も使うことができる聖魔法。俺が普段使用している障壁魔法のバリアや汚れなどを綺麗にする浄化魔法がこの聖魔法に当たる。
だいぶ昔にもらった冒険者ギルドからの資料によると、回復魔法は男性の治療師しか使えることはできないが、聖魔法は治療師だけでなく、他の一部のジョブでも使用できたはずだ。
「ソーマにそんな危険なことはさせられません!」
「落ち着いてくれ、エルミー殿。もちろん私もソーマ殿を前線に送る気などまったくない」
内心ほんの少しだけドキッとした。もしかしたら、俺も戦いの最前線に出なければいけないのかと思った。
「すでに付近にいる強力な聖魔法の使い手である冒険者や騎士、それと聖職者を集めている。……しかし、カースドラゴンの変異種という異例の事態だ。ソーマ殿を戦いに参加させる気はないが、ポーションの作成など、今しばし王都に残って協力をしてくれないだろうか?」
予定では明日の朝にここ王都を離れてアニックの街へと向かう予定だった。とはいえ、さすがにこの状況で知らんふりをして帰るわけにはいかない。
「はい、俺にできることなら力を貸します」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます