第145話 魔物の群れ再び


「それじゃあそろそろ帰ろうか。本当に綺麗な景色をのんびりと見られてとても楽しかったです。ディアーヌ様、カロリーヌさん、お付き合いしてもらってありがとうございました」


「おう、たまには良い男と一緒に、こういったのんびりとした時間を送るのも悪くないな」


「私の方こそ、とても楽しかったです!」


 ライアール湖の湖畔でみんなと一緒に散歩をしたり、お昼を食べて楽しんだ。こういった時間もたまにはいいものだな。久しぶりに綺麗な景色を見ながら、のんびりと過ごしてリラックスできた気がする。


 お昼はディアーヌ様とカロリーヌさん……というよりかは王城のコックさんが用意してくれたお弁当で、本当においしかったな。さて、今から王都へ戻れば、予定通り夕方前には市場の方に寄れるだろう。


 ……もう少し暖かくなったら、絶対にもう一度このライアール湖へ来るとしよう!


 まだ見ぬ桃源郷に戻ってくることを心に誓い、ライアール湖を後にした。




「……っ!? 止まります!」


「えっ!? うわっ!」


 ライアール湖から王都へ戻る道中、突然馬車が急停車した。


「大丈夫か、ソーマ?」


「あ、うん……おかげさまで!」


 隣にいたフェリスへ思い切り身体が流れてしまったが、フェリスに抱きかかえられた。


 柔らかなフェリスの身体の感触に包まれて、非常事態だというのに、不覚にもドキッとしてしまった。


「おい、何があったんだ!」


「わ、分かりません! 前の馬車が緊急停止したようです。すぐに確認してまいりますので、しばらくお待ちを!」


 どうやら前を走る馬車たちが緊急停止したらしい。俺たちの前にはディアーヌ様の馬車が走っており、その前と横に護衛部隊の馬車が走っている。後ろの方にはカロリーヌさんの馬車が同様に走っていた。


 なんだか王都に来た時に魔物に襲われた状況とまったく同じだ。また魔物の群れが現れたのだろうか。


「フェリス、ソーマを頼むぞ!」


「おうよ!」


「ルスリエ、ソーマ殿を頼む!」


「了解っす!」


 エルミーとカミラさんが馬車から飛び出した。


 一体何が起きたんだ……


「ソーマ殿、大丈夫か!」


「ソーマ様、大丈夫でしょうか!」


 前の馬車と後ろの馬車から、俺を心配してディアーヌ様とカロリーヌさんが護衛の人と一緒にやってきた。


「はい、大丈夫です。何が起こったんですか?」


「ああ、どうやら魔物の群れが現れたみたいだな。ゴブリンやらオークやらレッドベアーなんかの魔物が入り乱れていた。数は多いが、大した強さじゃないから騎士団たちで大丈夫だろう。ソーマ殿はこのまま待機していてくれ」


「……はい」


 どうやら魔物の群れに遭遇したらしい。俺たちが王都の手前で魔物の群れと遭遇した時と一緒だ。


「カロリーヌさん、王都の付近では頻繁にこういった魔物の群れと遭遇することがあるんですか?」


「……いえ。恐らく変異種の影響でしょう。そもそも魔物というものは他の種類の魔物で群れることは非常に稀です。こういった現象が多く発生する場合には変異種が発生したという可能性が高いです」


 変異種か……確か突然変異によって生まれた特殊な魔物だとフロラが言っていたな。変異種が発生すると、その付近に存在する魔物の動きが活性化し、魔物が大量発生したり、凶暴になったりするんだっけ。


「最近凶暴化した魔物の群れに遭遇したという報告がよく上がっておりますから、付近で変異種が発生したと判断して騎士団が調査を進めているところですね。王都とその付近では注意喚起が行われております」


「なるほど、ありがとうございます」


 どうやら、変異種発生の兆候のようなものが表れているらしい。付近には注意喚起が出ているようだし、元の世界で言うと台風警報のようなものだろうか。いや、魔物の大量発生の人的被害の方がよっぽどヤバそうだ。


 う~ん、聖男の俺がポーションにエリアヒールをかけるほうが効果は高くなるという検証結果が出ているし、そのあたりで何か協力できることがないか、王都に戻ったら国王様へ確認してみるか。


 しばらく馬車で待機していると、護衛部隊の方で魔物を無事に討伐したという報告が入った。さすが王都精鋭の騎士団だけあって、治療が必要なほどの怪我を負った人は一人もいなかった。


 前回と同様に身体を拭いてから出発するということなので、大人しく馬車で待機していた。何度も同じ失敗は繰り返さないぞ。




「「「……………………」」」


 無事に王都へ帰り、高級宿へ戻る前にそのまま王城へとやってきた。


 国王様に会いたいと伝えたところ、国王様、宰相さん、デーヴァさんの3人がいる部屋へと案内されたのだが、何やら3人の空気が非常に重い。


「……ソーマ殿、魔物の群れに遭遇したようだが、ご無事なようで何よりだ」


「はい、護衛部隊の皆さんのおかげで、怪我ひとつありません。変異種の発生した可能性が高いということで、ポーション作りなど何か協力できることがないかと思ったのですが……」


「おお、それはとてもありがたい! のだが……」


「母上、変異種のことについて、調査結果が出たのか?」


「お母様、何か分かったのですか?」


 ディアーヌ様とカロリーヌさんが国王様へと詰め寄る。


 この雰囲気だと、あまり良い結果ではなさそうだな。


「うむ……先刻、変異種を調査していた部隊がついに変異種を発見した。どうやら現在発生している変異種はカースドラゴンのようだ」

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