第142話 好みの女性


「おっ、この前に来た時は置いていなかった新しい防具が入っているな。ふむ、なかなか良いぞ」


 やってきたのは以前に来た時に訪れた武器と防具を売っているお店よりも高級そうなお店だ。どうやらここはディアーヌ様行きつけのお店らしい。


「ディアーヌ様は戦闘もされるのですね」


「ああ、当然だ。王女として生まれたからには国を守る義務があるからな。幼いころから、他の者たちにだいぶ鍛えられてきた。俺のジョブのおかげもあって、そこいらのやつらには負けねえくらいには強いぜ」


 そう言いながら大きな胸を張るディアーヌ様。


 そうか、こっちの世界の王女様だと子供のころから鍛えられるのが普通なのか。


「うう……」


 少し辛そうな顔をしているカロリーヌさん。やっぱりカロリーヌさんの方は見た目通り、あまり戦闘が得意ではないんだろうな。


「……別に王女だからといって強くなきゃいけねえってわけじゃねえ。カロリーヌは俺よりも知識があるし、戦闘を指揮をする分には俺よりも能力を発揮できるだろ。お前はそっちの方で国の民に尽くせばいい」


「お姉様……」


 カロリーヌさんの頭を撫でながら微笑むディアーヌ様。王族の姉妹なんかは仲が悪そうなイメージだったが、この2人はそうでもないらしい。


 うん、元の世界では兄弟や姉妹のいなかった俺だが、この二人の姿を見ていると、なんだか羨ましくなってしまうな。


「もっとも、強い俺の方が断然モテるけどな。ソーマ殿も一度俺が戦っているところを見てほしいぜ。そうすりゃ俺に惚れてもらえること間違いなしなんだけどよ」


「うわっ」


 しれっと俺の肩を抱いて自分の方に引き寄せるディアーヌ様。


 う~む、こういうことをサラッとしてくるくらいには男慣れしているんだよなあ。そしてカロリーヌさんを挑発しているし、仲が良いのか悪いのか良く分からなくなってきた。まあ、ほどほどに良いことは間違いないだろうか。


「お、お姉様!」


「おっと失礼したな、ソーマ殿」


「い、いえ」


 多少は俺もこの世界で生活してきて慣れてきたから、女性に多少近付いても驚くことはなくなってきた。とはいえ、いきなりの不意打ちにはまだドキドキしてしまう。


 それに当たった胸の柔らかさには一生慣れることはないと思うぞ……こっちの世界の女性は本当に胸に関しては無防備だから困る……


「おっと、仮にも王女である俺に対して、なかなかの敵意をぶつけてくるじゃないか」


「えっ、敵意?」


 後ろを振り向くとそこにはディアーヌ様を睨みつけているエルミーたちがいた。


「……敵意などとんでもない。とはいえ、一国の王女として、もう少し慎みは持った方がよろしいのではないでしょうか?」


 代表して話しているエルミーの口調は丁寧だが、その言葉には若干の怒気が含まれている気がする。


「昨日も言ったが、男を落とすためには使えるものはなんでも使わないとな。たとえそれが王女の立場だとしてもそうだ。もちろん好き勝手する分、第一王女という立場の責務はしっかりと果たすつもりだ」


 おう……いっそすがすがしいな。ディアーヌ様は元の世界の男よりも男らしいかもしれない。


「そういえば、ここいらではっきりさせておこうか。なんでもおまえたちはソーマ殿の護衛をしているAランク冒険者であると母上から聞いている」


「ああ、そうだぜ」


「それがどうした?」


 フェリスとフロラまでケンカ腰だ。さすがにこの国の第一王女であるディアーヌ様と敵対するのはいろいろとまずい。


「……なるほど、ひとつ屋根の下で長時間過ごしているようだし、ただ護衛をしているという関係でもないわけか。すでに3人とも男女の仲というわけだな?」


「んなっ!?」


「んん? その反応……まさかソーマ殿のような素晴らしい男性とひとつ屋根の下で過ごしながら、一度もヤってすらいないのか!?」


「うぐっ……」


「………………」


 ディアーヌ様はお店の中で何を大声で叫んでいるんだよ……


 まったく、本当にカロリーヌさんとは性格が違いすぎるだろ……


「ふっふっふ、冒険者としてはなかなかの実力を持っているようだが、女としてはまだまだだな。我ならばたとえソーマ殿のような極上の男でもそれだけの時間があれば確実に落としていたぞ!」


「くっ……」


 うん、とりあえず本人の目の前で落とすとかいうのはやめておこうね。


 確かにディアーヌ様も美人であることは間違いないからな。思いっきり攻めてこられたら、一瞬で落ちていたであろうことは否定できないけれど……


 とはいえ、エルミーたちがこのまま悪いように言われるのをそのまま見ている気はない。俺個人としても、いい男を見つけたらすぐに落とすみたいなことを言っているディアーヌ様の考えにはそこまで賛同できない。


「ディアーヌ様、そこまでにしておいてください。俺はみんなに命を救われましたし、彼女たちは俺にとても配慮して無理やり迫ってくるようなことは絶対にありませんでした。それに俺としても、みんなやカロリーヌさんのように貞淑な女性のほうが好ましく思います」


「………………」


 俺の言葉に対して黙ってしまったディアーヌ様。


 この国の第一王女様に対して意見したのは少しまずかったか。ディアーヌ様よりもみんなの方がいい女だと面と向かって言っているみたいなものだし、無礼だったかもしれない。


 さすがに聖男である俺になんらかの処分を加えることはできないだろうし、ディアーヌ様に嫌われても、それはそれで仕方がないか。


「……そうか、ソーマ殿はそういった女性の方が好みなのだな」


「えっ? まあ、はい」


「うむ、男性でありながら、我に対してそこまではっきりと口にするとは本当に良い男であるな! ますます気に入ったぞ!」


「………………」


 どうやらまったく気にしていないどころか、なぜか評価が上がっている。本当にいろんな意味で逞しい女性のようだな。

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