第135話 2度目の王都


「とりあえず無事に王都まで到着したみたいだな」


「ええ、ありがとうございます、ポーラさん」


 馬車の前には王都の巨大な城壁が見えた。先ほど魔物の群れに襲われたが、それ以外は大きな問題が起きたり、誰かが怪我をすることなく無事に王都までたどり着けて何よりだ。


 門番は俺たちのことを聞いているのか、ほぼノーチェックで門の中へと入れてくれた。そしてそのまま前回王都へ来た時と同じ高級宿へと案内された。


「それじゃあ、ソーマの旦那。またアニックの街へ帰る時にな」


「ソーマさん、また後日、よろしくお願いしますね」


「はい、ポーラさん、イレイさん。また帰る時によろしくお願いします」


 御者のポーラさんとイレイさんは一旦王都でお別れだ。とはいえ、またアニックの街に帰る時にはこの2人に御者をお願いしている。


 なんにせよ、以前にも泊まった宿まで到着して、ようやく少しだけ安堵した。


「それではソーマ様、我々護衛部隊も大半はここまでとなります」


 そして護衛部隊の隊長であるカミラさんや副隊長のルスリエさんたちは、引き続き俺と同じ宿に泊まって護衛をしてくれるものの、他の方たちはここで元の騎士団の任務に戻るらしい。


「はい。みなさん、ここまで本当にお世話になりました。またアニックの街に帰る時もよろしくお願いします」


「はい、もちろんでございます!」


「ソーマ様の護衛部隊に選ばれて、とても光栄でした!」


「ソーマ様の手料理をいただいたことは一生忘れません!」


 ……少し大げさな気もするが、護衛部隊のみなさんにはとてもお世話になった。またアニックの街へ帰る際に、手料理くらいでよければ作ってあげるとしよう。


「それでは本日この宿はすべて貸し切っております。宿の外の警護は我々で行っておりますので、どうぞごゆっくりとお休みください」


「えっ!? この宿を貸し切っているんですか?」


「はい、国王様よりその方がソーマ様はより安全で快適に過ごせるだろうとのことです」


「………………」


 マジか……


 前回王都に来た時もこの宿に泊まったが、ものすごい高級な宿だったぞ。それを貸し切りにするとか、国王様はとんでもないな。


 まあ、前回来た時に俺が聖男であるということを伝えたし、ユージャさんと俺で作った例のポーションのこともあるから、当然と言えば当然なのか……


 確かに貸し切りの方が安心するといえば安心するし、今更変更することなんてできるわけがないので、ありがたくゆっくりとさせてもらうとしよう。


「国王様との面談は明日の昼からとなっておりますので、これまでの道中の疲れをゆっくりと癒してくださいとのことです」


「わかりました。ありがたく休ませていただきます」


 国王様との面談は明日の昼になるようだ。さすがに俺も馬車の旅で多少は疲れが溜まっている。今日はゆっくりと休ませてもらうとしよう。


 エルミーたちとティアさんたち、それにカミラさんたち護衛部隊の一部の人たちと一緒に高級宿の中に入る。確か前回はいろんな種族かついろんなタイプの綺麗な女性が執事服を着て出迎えていたんだよな。もしかしたら、そのお出迎えも増えていたりして……


「「「ようこそ、いらっしゃいませ!」」」


「………………」


 さすがに俺が想像していたように、出迎えをしてくれている執事服を着た女性が大勢いることはなかった。むしろ中には10人ほどしかいなかったから、前回と比べてだいぶ減っている。


 そりゃまあ、セキュリティの関係上、従業員を減らした方がいいのは当然と言えば当然か。


 しかし、それ以外に俺が想像していなかったことがひとつだけあった。


「ソーマ様、お久しぶりでございます!」


「お久しぶりです、カロリーヌさん」


 そしてその従業員の前には、なぜかこの国の第二王女であるカロリーヌさんがいらっしゃった。


 鮮やかな黄色系のブロンドのロングヘアーで、その透き通るような青い瞳は真っ直ぐとこちらをとらえていた。服装は宿の従業員の執事服とは異なり、貴族の礼服のようなものを着ていた。


「この度はわざわざ王都までお越しいただき、誠にありがとうございます。先日はアニックの街でいろいろとあったようでしたが、ご無事で本当に何よりでございます」


「……あ、えっと、はい」


 あれ、カロリーヌさんて、こんな堂々とした話し方だったっけな? なんかもっとこう、こっちの世界の女性なのに元の世界の女性のようにおしとやかな雰囲気をしていたような気がしたけれど……


「みなさまもお疲れのようですので、まずは食事でもとって、ぎょゆくりっと……」


「「「………………」」」


 カロリーヌさんが盛大に噛んだ。たぶん、ごゆっくりとと言いたかったんだろうな。


「あうっ……し、しちゅれいしました!」


「「「………………」」」


 さらに続けて噛んでしまった。


「あうう……」


 顔を真っ赤に染めてその場にぺたりと座り込んでしまうカロリーヌさん。


 なんだろう、この生き物は。可愛いすぎるのだが……


「す、すみません! せ、せっかくソーマ様と別れてから女らしく振舞うように訓練してきたのですが、ソーマ様と久しぶりにお会いすることができて、緊張してしまいまして……」


「いえ、気になさらないでも大丈夫ですよ。俺としてもいつものカロリーヌさんの言動のほうが好ましく思いますので、以前にお会いした時と同じように接してくれると、とても嬉しいです」


「ほ、本当ですか!?」


「はい」


 実際のところ、こちらの世界では基本的に雄々しい性格をしている女性が多いから、カロリーヌさんみたいなおとなしい女性のほうが新鮮で可愛らしく思えるんだよね。


「「「………………」」」


 ……なぜか後ろのほうからみんなの視線を感じるが、気にしないようにしておこう。

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