第134話 変異種
「カミラさん、大丈夫ですか……って、うわ!?」
「ソーマ様、これはお見苦しいところを失礼しました。魔物の返り血を大量に浴びましたので、それを落としているところです。申し訳ありませんが、出発までもう少々お待ちください」
魔物の集団の襲撃を退けたという護衛部隊の隊員による伝令を受けて、様子を見るために馬車の前の方にやってきた。
すると護衛部隊の隊長であるカミラさんや副隊長のルスリエさん、部隊の女騎士のみなさんが撃退した魔物による返り血を洗い流すために、水魔法を使って宙に浮いた水の球体からシャワーのように水を出して水浴びをしていた。
――そう、全員が上半身裸でだ。
普段はそのピカピカの銀色で強固な鎧に包まれている女騎士たちの上半身がすべて露わになっている。
「は、はい! そ、それは全然大丈夫なんですが、治療が必要な方は本当にいないですか?」
思わずカミラさんの上半身から目をそらしつつ、ここにやってきた目的を告げる。
「ええ、ソーマ様よりいただいたポーションで十分でした。本当に素晴らしいポーションでした」
「受けた傷が一瞬で消えていったっすよ! 本当にすごいっす。ほら、ここの頬に魔物から受けた傷も完全に元通りっすね!」
「そ、それはよかったです!」
そう言いながら自分のほっぺを俺の方に見せてくるルスリエさんだが、俺にとってはブルンブルンと揺れているその大きな胸の方に目が行ってしまう!
ルスリエさんって小柄な割に胸は大きいんだな。そしてカミラさんのその見事なプロポーションにはそらしたはずの視線がついつい引き寄せられてしまう。
「……ソーマ、怪我人はもういないから馬車で待っているべき」
「そうだな、女の水浴びを見るのはよくねえぞ」
「いえ、別に我々は構いませんが……」
「いや、馬車で待っているぞ。なあ、ソーマ」
「はい………………」
俺の事情を知っているエルミーたちが女騎士たちの無防備な上半身に目線をやる俺を止めにきた。その声にはわずかに怒気が含まれているように感じる。
いや、これは不可抗力なんだよ……
「それにしても、あれだけの数の魔物が襲撃してくるとは非常に珍しいな。それに群れの一部がやられれば、すぐに他の群れが引いてもよさそうなものだが……」
「はい、それについてはひとつお知らせしなければならないことがございます」
エルミーの質問にカミラさんが答える。あのあと、水浴びを終えた護衛部隊のみなさんが魔物を処理して、王都への道を進んでいる。魔物の群れとの遭遇はあったものの、予定通り今日中には王都に到着できる予定のようだ。
護衛部隊隊長であるカミラさんは事情を説明するために一時的に俺たちの馬車に乗っている。
……真面目な話をしていることは分かっているのだが、どうしても先ほどの光景のことが頭に浮かんでしまうな。今はカミラさんの上半身は、普段通り無骨な鎧に身を包まれているが、先ほどはその鎧の下をモロに見てしまった。
それに護衛部隊のみなさんの上半身も思いっきり見てしまったからなあ……さすがに騎士というだけあって、みんな引き締まった素晴らしい身体だった。それに女騎士ってだけでよくわかない謎の付加価値のようなものが付いてくる気がする。
……おっと、いかんいかん! せっかく真剣に俺を護衛してくれるみんなを邪な視線で見るのは駄目だ! 煩悩退散!
「実は最近、王都付近で今回のような魔物の群れに遭遇する報告が冒険者ギルドや騎士団のほうにも頻繁に上がっております」
「あんなのが頻繁にか? さっきのやつらも20~30体くらいはいたんじゃねえのか?」
「はい、先ほどの魔物の群れについてですが、全部で32体でした。魔物自体のランクはそれほど高くないのですが、普段出没する魔物よりも凶暴になっている特徴もございます。群れの他の魔物がやられようがまったく引かず、自身に大きな傷を負っても構わずこちらに攻撃を仕掛けてくるのです。普段の魔物の行動とは少し異なるため、我が部隊の者も数人手傷を負ったようです」
30体!?
護衛部隊のみんなが倒した魔物の死骸を見たが、そんなにもいたのか!?
「すでに近隣の村や街でも被害が出ております。現在は調査中ですが、おそらく王都付近に
「変異種?」
初めて聞いた言葉につい聞き返してしまった。変異種ってなんぞ?
「変異種とは突然変異によって生まれた特殊な魔物。変異種が発生した大抵の場合、その付近に存在する魔物の動きが活性化して、魔物が大量発生したり、凶暴になったりする場合が多い。だいたい100年に一度くらいの割合で、この国で確認される災害のようなもの」
「な、なるほど……」
すかさずフロラからの解説が入る。これだけ物知りなエルフのフロラだが、別にすごく年を取っているわけじゃないんだよね。
それにしても変異種ねえ…… この世界にはそんな面倒な魔物なんかも現れるのか。
「ですがご安心ください、ソーマ様。たとえ変異種が現れようとも、王都の巨大な城壁はまだ誰にも破られたことがないことで有名な強固な城壁ですからね!」
「………………」
カミラさんが完全にフラグとしか思えないような発言をしたことにより、若干不安は増したが、とりあえず日が暮れる前に無事王都へと到着した。
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